室内のバイオフィリックデザインで欠かせない光のポイント3つ
目次
バイオフィリックデザインと照明の密接な関係
バイオフィリックデザインとは
室内のバイオフィリックデザインの問題点
室内のバイオフィリックデザインに必要なこと3つ
ポイント1:植物によって照度を変えること
耐陰性が強い植物
半日陰を好む植物
明るめの半日陰を好む植物
強い光を好む植物
ポイント2:光の波長を変えること
ポイント3:色温度や色偏差(Duv)調整で植物をきれいに見せること
色温度・Duvの実験結果
室内のバイオフィリックデザインの事例
バイオフィリックデザインに欠かせない「Synca」
植物のバイオリズムと美しさに配慮した照明:「HITOHACHI 成城コルティ店」
植物と利用者に潤いを与える光:「日比谷FORT TOWER」
植物を鮮やかにイキイキと魅せる:「Synca U/X Lab」
バイオフィリックデザインと照明の密接な関係
バイオフィリックデザインとは
バイオフィリックデザインとは、人間が本能的に求めている自然や生命とのつながりを人工空間に取り入れた空間デザインのことを指し、アメリカの生物学者エドワード・O・ウィルソンが1984年に提唱したバイオフィリアという概念を語源とする。
狭義には、特に緑化を施した空間や建築を指すことが多い。
室内のバイオフィリックデザインの問題点
今日では、ウェルネス改善の観点からバイオフィリックデザインを導入する企業が増えている。しかし、導入後数か月から数年で植物が枯れてしまう事象が発生することも多い。それは単に植物への水やりや肥料やりなどのケアが徹底されていなかったという原因もあるが、実は「光量」の問題も見落とされがちである。
そもそもオフィスは、構造上の制約で天窓や採光窓がない場合が多く、窓から遠い場所に植物が配置されることも多いため、植物は慢性的な日照不足に陥りやすい。
それでは、室内のバイオフィリックデザインでは、基本的な水やりなどのケアの他にどんな対策が必要になるのだろうか。
室内のバイオフィリックデザインに必要なこと3つ
ポイント1:植物によって照度を変えること
まずは植物に合った量の光を照射することだ。植物の維持には一般的に1,000lx~3,000lxの照度が必要であり、種類によって光が当たる窓際を好むものと、直射日光を当てると枯れてしまうものがある。必要な照度は植物によって異なることは覚えておきたい(参考論文1)。
十分な光が差し込まない場所ではそれぞれの植物に適した照度で光を補うとよい。光が足りていない場合は夜間に常夜灯で補うこともできる。
耐陰性が高い植物
・ディフェンパキア・テーブルヤシこれらの植物は、耐陰性が高く、500lx~1,000lx程度の空間でも成長できる。窓際から離れたテーブルなどに置いてもよい。
半日陰を好む植物
・ポトス・モンステラ・サンセペリアこれらの植物は、1,000lx~2,000lx程度の空間を好む。
明るめの半日陰を好む植物
・ゴムノキ・パキラ・ユーカリこれらの植物は、2,000lx~5,000lx程度の空間を好む。
強い光を好む植物
・ヘンヨウボク(クロトン)・アロエこれらは、窓際のカーテン越しの日光など、強い光を好む。日中の照度を十分に確保できない場合は、5,000lx以上に照明設計すべきだろう。
ポイント2:光の波長を変えること
植物に適切な量の光を当てるだけではまだ不十分で、照射する光の波長にも注意が必要だ。
葉や茎の成長に必要とされる400~500nmの波長を多く含む「青い光」と、光合成に必要な600~700nmの波長を多く含む「赤い光」が植物の育成には欠かせない。
詳細は下記リンクからご確認ください。
植物がオフィスでも育つ照明とは?
ポイント3:色温度や色偏差(Duv)調整で植物をきれいに見せること
色温度の実験結果(図上)とDuvの調整例(図下)
バイオフィリックデザインはあくまで人間が利益を享受するものなので、植物が元気に育成すればそれでいいというわけではない。植物が人間の目に美しく見える必要がある。そのためには、色温度や色偏差(Duv)を調整することが効果的だ。
色温度に関しては、全般照明よりも少し高い色温度の局部照明で植物を照らすときれいに見え、Duvについては、緑色を強調したい場合はDuvの数値を大きくする(Duv+にする)ときれいに見える。
色温度・Duvの実験結果
電球色3000Kの空間(飲食店)と、昼白色5000Kの空間(オフィス)で、植物を照らすスポットライトの色温度とDuvを変えて実験したところ、飲食店では3800K・Duv-(マイナス)~0( ゼロ) が、オフィスでは5400K・Duv+(プラス)が、それぞれ植物が美しく見えるという回答が多かった(*1)。
同じ色温度でもDuvによって植物の色味が違って見えるので、調光調色できる照明器具を導入し、空間デザインの意図に応じて調整するとよい。
*1:遠藤照明による「Synca」を用いた植物の見え方の実験による
室内のバイオフィリックデザインの事例
バイオフィリックデザインに欠かせない「Synca」
次世代調光調色「Synca」の色温度範囲
室内のバイオフィリックデザインに欠かせない要素である「照度の調整」「光の波長の調整」「色温度やDuvの調整」だが、これら全ての条件を満たすためには、「調光調色」機能やカラー切り替え機能のある、遠藤照明の「Synca」の導入が最適だろう。
「Synca」は、0%~100%の細やかな調光や、121色の幅広いカラー切り替え、1,800K~12,000Kの幅広い色温度の再現やDuv調整を1台で実現した次世代のLED照明だ。
室内の環境や植物の種類に応じて、最適な光環境を作り出せるため、室内のバイオフィリックデザインでの採用例も多い。今回はその中でも特徴的な3例を紹介する。
次世代調光調色シリーズ「Synca」とは
植物のバイオリズムと美しさに配慮した照明:「HITOHACHI 成城コルティ店」
「HITOHACHI 成城コルティ店」は、植物観賞を手軽に楽しめるように、植え替えしやすい状態で引き渡す観葉植物専門店。人間と同じように、植物のバイオリズムに見合う光を提供すべく次世代調光調色「Synca」を採用した。
朝は色温度4000K・調光率80%、昼は色温度6000K・調光率100%、夕方は色温度3500K・調光率80%、夜は色温度3000K・調光率50%というように、細やかに調整している。
「Synca」を使用し、照度と色温度を自然の光と同等になるよう、時間と連動してプログラミングしている。この画像は朝の設定で、4000K・調光率80%に調整されている
緑をきれいに見せるため、色味調整はDuv+6に設定している
「HITOHACHI 成城コルティ店」事例詳細はこちら
植物と利用者に潤いを与える光:「日比谷FORT TOWER」
東京の主要エリアの中心地に建つ、地下2階、地上27階の超高層オフィスビル。人が行き来する11階のスカイロビーに「Synca」を採用し、最長の60分のフェードタイムで、なだらかに光が推移するように設定している。また、スカイロビーのシンボルである植栽には1,500lxの照度を確保。夜間のみ2500K・Duv-6で調光することで、植物によいとされる波長の光を当てて育成も試みている。光の演出で植物を美しく保ち、オフィスワーカーに潤いを与えている。
夜の11階スカイロビー。植栽の生育を考慮してDuv-6で設定。一方、石壁は質感を見せるためにDuv-3と細やかに調整している
昼(11時~)は、内装の色味を考慮して、色温度7500K・調光率100%の晴天のようなはつらつとした空間を演出
「日比谷FORT TOWER」事例詳細はこちら
植物を鮮やかにイキイキと魅せる:「Synca U/X Lab」
東京・新宿区にある遠藤照明の体験型オフィス「Synca U/X Lab」では、照明を駆使した実験的なバイオフィリックデザインが施されている。
観葉植物が植えられている「アウトドアリラックスゾーン」では、あえてブラインドを閉じて昼光をほとんど入れず、「Synca」の人工照明のみで植物の育成を行っている。夜間“植物育成の光”として、植物の光合成を促す赤色の光と、茎の形成を促す青色の光を照射することで、植物の適切な成長を促しているのだ。
また、フェイクグリーンが施されている緑化壁は、照明のDuv調整をすることで、まるで本物の植物のようにいきいきとした見た目になっている。
遠藤照明「Synca U/X Lab」アウトドアリラックスゾーン
夜間は植物育成のため、赤色と青色の光を照射している
壁面から生えている植物はフェイクグリーンだが、照明をDuv+6に設定すると、緑が本物のように見える
「Synca U/X Lab」事例詳細はこちら
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[参考論文一覧]
1: 洞口公俊(1995)「インドア・グリーナリーの光放射環境」『 照明学会誌』, 79, (4), 155-159. https://doi.org/10.2150/jieij1980.79.4_155
Writerヒカリイク編集部
『ヒカリイク』は、人と光に向き合うデザイン情報サイトです。これからの空間デザインに求められる照明の未来から、今すぐ使えるお役立ち情報まで、照明についてのあらゆるニュースをお届けします。
Syncaバイオフィリックデザイン照明照明計画
照明設計術:健康を維持する光
目次
光で睡眠を促し疾病を防ぐ
「健康と光」の密接な関係
POINT1:日中の光で認知症やうつ病のリスク軽減
POINT2:夜間の光は動脈硬化のリスクを高める可能性がある
POINT3:夜間の光は肥満にも影響する
「健康を維持する光」実際の空間事例
夜と朝の光で体内リズムを整える:「誠賀建設 タインデザイン モデルハウス」
気分を転換できる光:「NSKワーナー 本社工場 A1棟食堂」
光で睡眠を促し疾病を防ぐ
適切な時間に適切な量の光を浴びないと、体内リズムが乱れ、睡眠を促すホルモンであるメラトニンが正常に分泌されなくなる。その影響で、癌や不眠症、うつ病、認知症、高血圧、糖尿病といった、さまざまな疾患や健康リスクを引き起こす可能性があるといわれている。日中に適切な明るさの光を浴びることは、認知症やうつに対するリスクの軽減にもつながることや、夜間に浴びる光によっては、動脈硬化や肥満のリスクを高めることも分かってきている。光の調整には、スケジュール機能やシーン設定のできる照明を使えば、時間に合わせて自動で最適な光を提供してくれる。
「健康と光」の密接な関係
POINT1:日中の光で認知症やうつ病のリスク軽減
日中に光を浴びると、認知症やうつ病のリスクを減らせることが最近の実験で分かってきた。高齢者に異なる照度の光(300lxと1,000lx)を午前9時から午後6時まで浴びてもらう実験を行った。その結果、数年後の認知機能とうつ症状に対して有意な差があった。300lxの光を浴びた場合に比べ、1,000lxの光を浴びた場合、認知症とうつ症状が軽減されたという(参考論文1)。細かな照度の調整は難しいこともあるため、スケジュール機能と照度などのシーン設定ができる照明器具を用いるとよい。
日中に高い照度の照明に当たることで、認知症とうつ症状になるリスクが軽減されることが分かった。
POINT2:夜間の光は動脈硬化のリスクを高める可能性がある
動脈硬化は、血管の厚みが増してくること(アテローム性動脈硬化)で、さまざまな疾患を起こす“危険因子”である。主に血管系の酸化ストレスに関連する慢性炎症によって引き起こされる。睡眠のホルモンであるメラトニンは抗酸化作用があるが、夜間の寝室で浴びる光がメラトニンの分泌を妨げることで動脈硬化のリスクを高める可能性がある。高齢者に対して夜間の寝室の照度によって4つのグループ(※1)に分け、頸動脈内膜中膜の厚さを測定・分析した。結果は、高い照度を浴びているグループ(中央値 9.3lx)では血管の厚みが増し、頸動脈のアテローム性動脈硬化が進行していた。この夜間の光によるリスクは、年齢、肥満、喫煙、経済状態、高血圧、糖尿病などのこれまでに知られている動脈硬化誘因リスクとは別に、新たに報告されたものである(参考論文2)。*1:0.1lx未満、0.1lx以上0.7lx未満、0.7lx以上3.5lx未満、3.5lx以上の4グループ
夜間に浴びる照度が高い人ほど、頸動脈のアテローム性動脈硬化が進行していた。
POINT3:夜間の光は肥満にも影響する
糖尿病や動脈硬化などのリスク要因である肥満。その肥満に夜間の光が影響しているといわれている。一般的に夜間の光は睡眠の質の低下につながり、睡眠不足は食欲抑制ホルモンであるレプチンのレベル低下と、食欲を増進させるホルモンであるグレリンのレベル上昇にも関連している。夜間勤務者に肥満や脂質異常症が多く、心血管疾患のリスクが高いことも報告されている。実験で高齢者が浴びている夜間の照度を測定したところ、照度が平均3lx以上(中央値8.71lx)であるグループと平均3lx未満(中央値0.4lx)であるグループとでは、前者のほうが肥満症の発症割合が約1.9倍、脂質異常症の発症割合が約1.7 倍高いことが分かった(参考論文3)。
夜間の平均照度が高いと、肥満症の割合が約1.9倍、脂質異常症の割合が約1.7倍も違う。*2:肥満はBMIが25以上
「健康を維持する光」実際の空間事例
夜と朝の光で体内リズムを整える:「誠賀建設 タインデザイン モデルハウス」
人の生活リズムや体調に合わせて照明を整えることで、ウェルネスな暮らしを提案したモデルハウス。寝室には「Synca」を間接照明として設置。体内リズムに合わせて調光・調色を行っている。夜は色温度1800Kのほのかな明かりにすることで、落ち着いた空間に。睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンを正常に分泌、快適な眠りへと導く。朝は、心地よい目覚めを促すために、徐々に明るくなるよう設定されている。
「Synca」を使えば、朝焼けから徐々に明るくなるフェード設定を行える。光が急に切り替わらないため、ストレスを感じずに良質な起床を促す。
「誠賀建設 タインデザイン モデルハウス」事例詳細はこちら
気分を転換できる光:「NSKワーナー 本社工場 A1棟食堂」
工場における社員食堂は、勤務中自由に外出しにくい従業員にとってホッとできる環境であってほしいもの。それを実現するうえで照明の力は欠かせない。「NSK
ワーナー 本社工場 A1 食堂」は、24時間稼働の社員食堂。時間帯によって光の質を変え、社員が気分転換できるよう、次世代調光調色「Smart LEDZ」を採用。トップライト照明やペンダントライトを適所に配している。
11時~14時の昼食時は、色温度4200Kの温かみのある空間に。Duv-3で赤みをプラスすることで、食材をよりフレッシュに見せるとともに、人の顔も健康的に見せている
「NSKワーナー 本社工場 A1棟食堂」事例詳細はこちら
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[参考論文一覧]
1:Riemersma-van der Lek RF et al. (2008) Effect of Bright Light and Melatonin on Cognitive and Noncognitive Function in Elderly Residents of Group Care Facilities: A Randomized Controlled Trial. JAMA. 299, (22), 2642–2655.
2:Obayashi, K. et al. (2019). Indoor light pollution and progression of carotid atherosclerosis: A longitudinal study of the HEIJO-KYO cohort. Environment International, 133B, 105184.
3:Obayashi, K. et al. (2013). Exposure to Light at Night, Nocturnal Urinary Melatonin Excretion, and Obesity/Dyslipidemia in the Elderly: A Cross-Sectional Analysis of the HEIJO-KYO Study. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 98, 337–344.
Writerヒカリイク編集部
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