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人にフォーカスしたオフィスの光
―『Synca U/X Lab』に見る省エネルギーの試み

2022.6.1
人にフォーカスしたオフィスの光<br><span>―『Synca U/X Lab』に見る省エネルギーの試み</span>

『Synca U/X Lab』のテラスゾーンは、コワーキングゾーン1と隣接し、ライブラリの機能もある。
撮影:ナカサアンドパートナーズ(この写真のみ)

遠藤照明の『Synca U/X Lab(シンカ ユーエックス ラボ)』は、“体験型オフィス”として、ワークプレイスの新しいあり方を提案、発信したものだ。もちろん、照明器具メーカーとして様々なライティングデザインの試みがなされている。ここでは特に、エネルギー低減について紹介したい。

新しい時代のタスク&アンビエント

写真:コワーキングゾーン1のフリーアドレスエリア
コワーキングゾーン1のフリーアドレスエリア。デスクに平行な照明は狭角配光で机上面を照らし、直角になる照明では配光を変えて、部屋全体の明るさ感を得る。

コロナウイルスパンデミックによる影響は、私たちの働き方にも及び、リモートワークあるいはハイブリッドワークというように、特定のオフィスに常駐しないことも一般的となった。パンデミック以前からも、オフィスは大きく変化し、ワーカーのコミュニケーションや創造性を促す空間づくりが進んでいる。

『Synca U/X Lab』でも、時代の要請ともいえるそうした新しい要素が数多く取り入れられており、全体としては、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)を前提とし、ワーカーのウェルビーイングに配慮した工夫がなされている(詳しくは参考リンクを参照)。

『Synca U/X Lab』の3階には「コワーキングゾーン1」と呼ばれるフリーアドレス+固定席というスタイルのエリアがあり、執務空間のベースの一つとして想定されている。3階を使う社員は約70名程度だが、このコワーキングゾーン1以外も自由に利用ができる。

「ここを利用するのは当社の営業部門となります。中でも商業系/建築系とされる提案型の営業を行うチームです」と遠藤照明 営業本部 建築環境ソリューション部の亀井龍治さんは説明する。ただ器具を販売するのではなく、顧客の求める建築・空間のあり方に対し、最適な光のデザインを提供するセクションだ。ときには特注器具なども含めて先進的な価値提供が求められ、文字通り、クリエイティビティやコミュニケーションが肝要となる業務だろう。

このエリアでは、タスク&アンビエントの考え方が採用されている。空間全体の雰囲気や明るさを確保する光と、作業や仕事をする上で求められる明るさを、それぞれ分けて考えることで、空間全体を一律に明るくするよりもエネルギーの消費量が抑えられる。ここでは三つのスタイルでそれが実践されている。

人に寄りそうパーソナルな光

写真:タスク&アンビエントを一体化した造作器具
タスク&アンビエントを一体化した造作器具。フレーム内ダクトでタスク照明はスポットを始め、多様な器具を選べる。アンビエント照明はフレーム上部に上向きに設置。

システム天井にはリニアタイプのLEDがグラフィカルに配されているが、縦横で配光角の異なるものとし、一方はアンビエントライト(350lx)として全体の明るさを確保、もう一方はタスクライト(400lx)としてデスクを照らしている(机上面照度はトータルで750lx)。一般的には、スタンドやペンダントがタスク照明の器具として用いられることが多いが、フリーアドレスオフィスや、天井高の低いリニューアルなどでは天井一体型の方が空間をスマートに使える。さらにタスク照明は、人感センサーと連動させて着席を感知したときに点灯する。「在席率50%だとすると、常時点灯するオフィスに比べ、消費電力を35%削減できると試算しています」(亀井さん)

配線ダクトを内蔵したフレーム状の器具は、一つでタスク&アンビエントを実践できるもので、コンパクトなオフィスでも採用可能だ。

写真:コワーキングゾーン1の固定席
コワーキングゾーン1の固定席はスケルトン天井でタスク&アンビエントを実現。壁面へ広角配光のスポットライトで照らし、明るさ感を得ている。

エリアの奥に位置する固定席では、スケルトン天井の軽量鉄骨下地へスリムなリニアタイプのLEDを上向きに設置し、アンビエントライトとした。各デスクはスポットライトで照らすが、これを個別にリモートコントロールで操作できるようにしている。自分の仕事や体調などの状態に合わせて、タスクライトの光の質を選べるわけだ。

「1席毎にリモコンがあるので、パーソナルな光環境を実現できます。これは省エネだけでなく、ウェルビーイングにも貢献できる仕組みだと思っています」と亀井さんは言う。固定席は照明計画の設計を担うチームが使うため、ストレスを減らし、より集中できる環境は欠かせない。言うまでもなく、人の知覚には差異があり、明るさや色味を数字で一律とすることはできない。LEDが可能にした、個別制御や広範囲かつ微細な調光調色は、そうした多様な人の感性や知覚に応じられる。仮に同じ造形の環境でも人の認知はその光で変わるため、自分に合った光を求めることは、イスやデスクを選ぶことと同様の行為とも言える。

「想定以上にリモコンを活用して、光を変えてもらっています」と亀井さんはその有用性を実感している。

写真:リモコン
リモコンでタスク照明を個別に制御できる。
照明を個別に制御できる無線調光システムの詳細はこちら

企業のあり方をオフィス照明で変えられる

写真:コワーキングゾーン1
コワーキングゾーン1からテラスゾーンの方向を見通す。

『Synca U/X Lab』では全体として、サーカディアンリズムに沿った照明デザインがなされており、夕方から夜にかけては色温度を下げつつ、照度も落とすので、伴って消費電力も抑えられる。「将来的には季節に応じて光を変えることも考えています。自然光をどう無駄なく生かすかという課題もまだありますね」(亀井さん)。

日本においても、企業のCSRやインテグリティが重視される時代となり、オフィスのデザインにおける、省エネやワーカーのウェルビーイングはある種のわかりやすさとして示すことが可能だ。照明は、その一助を担うのに十分な価値があるし、より注目されるワークプレイスの要素と言っていい。

『Synca U/X Lab』見学ご予約はこちら

Synca U/X Lab

東京都新宿区若葉1丁目4-1 遠藤照明東京事業所内
設計:IKEGAI&Bros. 池貝知子 窪島卓俊 
照明設計:遠藤照明 
営業時間:午前10時〜午後5時(見学は事前申込制)

参考:遠藤照明の体験型オフィス『Synca U/X Lab』が2021年12月にオープン
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000079313.html

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