<オンラインセミナー>〈照明デザイナーによるオンライン実践講座その4〉間接照明、どう決める? 画像

全4回-照明デザイナーによるオンライン実践講座 第4回目です。

2022年5月26日、照明デザイナー/Lightmoment Inc. CEO 田中圭吾さんをお招きし、間接照明の”決め方”についてお話頂きました。

Speaker

田中圭吾

田中 圭吾 Keigo Tanaka(照明デザイナー/Lightmoment Inc. CEO)

1980:神奈川県生まれ

2003~2007:大光電機株式会社 TACT所属

2008:Cline Bettridge Bernstein Lighting Design(ニューヨーク)

2009~2012:LIGHTDESIGN INC.

2013:Lightmoment Inc. 設立


主なプロジェクト:「nol kyoto sanjo」「青普麗江白沙文化行館」「六本木ヒルズ ウェストウォーク5F」「シャングリラホテル コロンボ F&B」「ザ リッツカールトン ランカウイ F&B」など

https://lightmoment.jp/

シャングリラホテル コロンボ “Capital Bar & Grill” 画像シャングリラホテル コロンボ “Capital Bar & Grill”
設計:Bond Design Studio 写真:NACASA & PARTNERS INC. 河野政人

青普麗江白沙文化行館 画像青普麗江白沙文化行館
設計:堤由匡建築設計工作室 写真:Hiromatsu, Yuming Song (Beijing Ruijing Photo)

見逃し配信



参加者の声

  • デザインは人ありきなのだと実感できました。
  • 『光を与える理由は何か』から始まる作業に納得しました。
  • 空間をどう魅せたいのか理由を明確にしてから照明計画をする。建物、内装の空間も同じだと思います。改めて、そこの重要性に気づかされました。
    照明に意味をちゃんともたせることが大切だと思いました。

イベントレポート

事務局:本日のテーマです、〈照明デザイナーによるオンライン実践講座その4〉ラストです。「間接照明、どう決める?」と題して田中さんに照明デザインをされる際にまず意識すること、大切にされていること、イメージのまとめ方、そして照明手法についてお話いただきたいなと思っております。間接照明を使いたい、でも難しい、どうやれば…と質問を沢山いただく照明手法だと思っております。本日は、田中さんが間接照明をどうやって決めているのかを教えていただきます。

間接照明、どう決める?

田中:皆さん間接照明という言葉にご興味持たれてる方多いと思うんですけれども、それこそ今となっては結構テレビの中でも度々そういった言葉が聞かれるような時代になってきました。もちろん私たちライティングデザイナーとしてもこだわりを表現できるポイントでもありますし、大切にするべき、優先度の高い照明手法だと思っております。

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田中:間接照明は私たちだけではできなくて、色々な方達と相談していかないと成し遂げていけない、そのやりとりが必要になってくると思ってます。そういったことからも僕らデザイナーとしても思いを込めなければいけないと思いますし、関係者の皆さんの協力を得ていかないと上手くいかないことかと思ってます。失敗できないです。みんな残念な気持ちになっちゃいますので、それこそお金もかかりますし。最も照明計画の中で力を入れていかなければいけない要素かなというところで、今回テーマにさせていただきました。間接照明といっても色々やり方があると思います。上からなのか下からなのか、前にあったり後ろにあったりだとか、柔らかく照らす、バシッと照らす。テクニックってのは色々あるんですが、意外とみなさん、どういった経緯でこういう光にしてるのかっていうお話をされる方いないのかなと思って、今日はどうしてこういう光になったのかっていうのを、間接照明に焦点を当ててお話をさせていただければと思います。デザイナーさんのなかでも間接照明は気にされてる方が多いですし、デザインした空間の中でもっともよく見せたいと思われてるところに間接照明を入れたいなという要望が多いと感じてます。時にはあまりにも間接照明が気になり過ぎて、打ち合わせの最初の場面であまり情報を聞かないうちに間接照明の話にいっちゃったりという場面が結構あるんです。今日私が皆さんに聞いていただきたいのは、実はこういう情報が欲しいんですっていうのを、シミュレーションを考えましたので、それにちょっとお付き合いいただきたいと。

ここから会話の文章を表示することになります。
皆さまには、打ち合わせのシチュエーションですとか、その空間を想像しながら聞いていただきたいと思います。

クライアント:今回のお店なんですけど、銀座にできる高級寿司屋で雑居ビルの地下になります。
田中:客単価どの程度ですか?
クライアント:25,000から30,000円です。
田中:結構高めなところですね。
クライアント:並木通りの1本裏に面している通りの入り口から階段で下っていくと地下に扉があるんですけど、その扉にニッチをつくってディスプレイの後ろを間接で光らせたいんだけど、どのくらいスペース必要。
田中:まずひと通り諸条件聞かせてもらえますか?
クライアント:わかりました。で、扉を開けると、すぐにL字でカウンターがあって、そのカウンターの範囲でわざと天井を下げて、その下がった天井周りに間接アッパーいれようと思ってるんだけど、どう?
田中:一旦聞きますね。
クライアント:それでカウンターバックの壁はこういう素材で、奥に行くと個室が、こんな感じで、てんてんてん。これで1通りのデザインの説明になります。
田中:ありがとうございます。ではちょっと色々整理しながら他のことを色々と伺いたいんですけども、まず、先程客単価が25,000円から30,000円と言われてましたけども、ここって会員制になりますか?
クライアント:会員制ではないけど、1日何組か限定するようです。
田中:何組か限定ということは1回転ですか?
クライアント:いえ、時間を区切って2回転はします。
田中:そうですか、カウンターで実際に握られる方の場所って決まってたりします。
クライアント:まだ確定はしてないのと、複数で対応する可能性もあるようです。
田中:なるほど、大将の年齢わかりますか?銀座だから同伴とかも多いんですかね。
クライアント:40台前半ですね、独立する前は老舗の〇〇というところで修行していたようなので、同年齢の客層より年配のお客さんを想定してるみたいです。同伴もしかりですね。
田中:なるほど、ちなみにすみません、先程2回転と仰ってましたけど、営業時間って決まってますか?
クライアント:18時から23時ですね。
田中:そうするとじゃあ、間くらいの20時半くらいでゲストを入れ替えて2回転するということですね。
クライアント:はい、そうみたいです。
田中:そうですね、あとはお寿司屋さんって結構こだわりある方が多い印象なんですけど、ここの大将は光に対して、こだわりあったりしますかね、例えば、カウンターをステージのように浮きたてて、こう握った寿司がしっかり見えるようにしたいとか、逆にカウンターに影が出るのがあまり好きではないとかそういったことですかね。

田中:こういうように、壁がどうとかレイアウトがどうとかっていうことだけではなくて、空間の用途、使われかたとかオペレーションなどの話を伺うことで、その空間に適した照明計画が検討できるわけです。クライアントの意志であったり、利用者に対して空間の想いが伝わる光っていうのを検討する材料に私はしています。つまり光がどのように、どこにあるべきなのか、こういった情報をヒアリングできたうえで、最後入り口に戻ってディスカッションしたうえでいくようにしてます。

田中:入り口に戻りますけども、客単価があのくらい高くて、客層がちょっとご年配の方たちが多いということで、目的もある程度見えてるということであれば、入り口は店内と空気間を変えて、少しアプローチとしてどきっとするバッファー空間にしたほうが良くないですかね。なので先程質問いただきましたけど、ディスプレイには間接照明ではなくて、狭い集光した光、で、ドラマティックに浮かび上がったほうが、お店の扉に行きつくまでにこうドキドキ感高まりますし、逆に間接があると影が和らいではじめから安心感が出ちゃうんじゃないかと思うんです、それよりも周辺が暗くて、スッとディスプレイだけに光が落ちていた方が結構ドキッとしません?そうすると階段を下って扉を開けるまでに緊張感のある空気感が作れて、中に入る期待感を提供できるのかなと思います。もっと言ってしまうと、周りの左官はよくあるベージュトーンではなくて、墨のような光を吸収する結構黒めな左官の色に変えると、もっと光に陰影がついてドラマティックなアプローチ空間になるかなと思うんですけど。
クライアント:確かに入り口で陰影がついてるとドキドキ感が高まりますね。それに、暗くてメリハリしているところを歩いていると、扉を開けるまではまだ外にいるような感じがあっていいですね。壁の色を変えるかはちょっと中とのバランスを考えさせてください。
田中:わかりました。期待感を持って店内に入ると、逆に今度はふわっと拡散した光に包まれるっていうのが今回良いと思うんですよね。もちろん柔らかくしつつも調光で明るさを絞っていくんですが、ご年配の方が多いということを考えると、ネタ、お寿司のネタですね、色も見える程度には明るさを残しつつ、空間全体としては店主の人柄を表すような、優しく柔らかい光に満たされることが、ゲストの方にとっても、大将と顔を合わせたときに、お互いの顔が優しく見えて緊張がほぐれるんじゃないかな、そうするとお酒も進んで、いい店になってくんじゃないかと思うんです。

田中:こういう会話をしながら方向を見定めていくように私はしてます。
これだけではなくて、デザイナーさんと会話を重ねることで、ひょっとしたところからアイデアが浮かぶこともありますし、自分の中でも頭を整理して整えていけるのかなという感じがしてます。


間接照明いる?いらない?

田中:まずここでお伝えしたいのが、そもそも間接いりますか?というとこですね。お店に、空間によってはそもそも間接いらないところもあると思うんです。

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La Patisserie by AMAN Tokyo

田中:今回は関わらせていただいた、La Patisserie by AMAN Tokyoを例にお話させていただこうと思います。このAMAN Tokyoさんですね、大手町のオーテモリっていう建物の地下になります。飲食エリアが連なっているところの、入り口の角地に位置してるんですけれども、去年の10月にオープンいたしました。環境のデザインが結構強く感じたところでありまして、見ての通り間接照明が既にテナントのファサードに対して落ちてるのが分かると思います。素材感とか色の使い方っていうのも結構強くて、個性が強い環境だなというところから始まったんですけれども、お店の特徴としましては、まずAMANさんの哲学と、ペストリーのシェフの思想というところに共感しながら、なるべく自然にというか、元々ある素材の本質というものを引き出していくことを念頭にデザインを進めていったプロジェクトです。その中で、インテリアデザイナーさんの中では、やはりその環境の個性と喧嘩したくないというところから始まって、床材壁材全て環境と同じ素材を使ってます。天井も、黒い艶のある天井が見えると思うんですけれども、似たような素材使って同じような空間を作り上げてる。そうすることで環境との調和を図って、逆に1点集中した真ん中にあるそのカウンターですよね、もちろん商品がここに並ばれているんですけれども、ここに意識が集中するように構成していったデザインになってますというところです。

その中で、環境側で、ここのテナントさんのファサードに間接照明が入っているんですけれども、同じ素材を壁に使っているのであれば、間接照明もありえるかなというように考えるんですけども、まずお店の広さからしてあまり広くないんですよ、手前のテナントのファサードで間接照明があって、さらにすぐ行ったところの奥の壁にも間接照明があると、まずちょっと暑苦しいなというような感じがしたんです。その商品の本質をこう導き出すような光というなかで、あまり周りに意識が行ってほしくないっていうことが頭に浮かんだので、シンプルに、要は商品が並ばれてるカウンターだけがドラマチックに浮かび上がったほうが本質を見抜けるんじゃないかというようなことを考えました。

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ただやはりお店への入りやすさということもあるので、間接照明じゃないにしても、今見えてると思うんですけれどもブラケット照明とか、うっすら壁に光かかってるのわかります。間接照明の代わりに、いわゆるその普通のダウンライトですね、それを柔らかく後ろの壁に光をかけることで、うっすらサインも見えてると思いますけれども、そこもナチュラルに照らしながら変な暗がりができないように、ある程度の入りやすさというのを考慮しながらカウンターだけに光を集中させていったという考えです。カウンターの手前の床が結構真っ暗になってると思うんですけれども、ここはやはりそこの床まで明るくしてしまうとメリハリ感が全くなくなってしまうので、環境との照度差をつけることでカウンターが奥に浮きたって見えるような計画として考えたところです。

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石の照らし方、カウンター自体ですね、様々あると思うんですけれども、後ろの壁があまり主張しない照らし方、少しフラットな照らし方をしているので、石自体は少しメリハリをつけようとこういうライティングになりました。実は現場で、石ももう少しボリューム感として全体が浮かび上がった方がいいんじゃないかとかっていうのはデザイナーさんと色々話はしたんですけれども、フラットに照らした場合と、影をつけて照らした場合と見比べてみて、やはり遠くから見たときのインパクトだとかいうことも含めてこういった影を付けて照らす方向になりました。

デザイナーさんの意志もあったんですけれども、ブラケット照明がないとあまりにも自然空間になり過ぎてしまうところから、やはりAMANさんがやられてるんで、ホテルらしさというところも出すところで、少しきらびやかさと、ただブラケット照明自体も、アクリルの塊みたいなのを使ってるので、素材そのものの厚みだとか、重厚感というものを感じられるようにこういった意匠に選ばれてます。間接照明に使われてしまうと、軽い印象に逆になることもありますので、やっぱりふわっとした印象を与えがちじゃないですか。こういうメリハリ空間を作るときには、間接照明を本当に使っていいのかというのは、私個人としては考えるようにしています。やはり時代の流れもあるのか、ここまでストイックな空間ができたのも結構久しぶりでした。あまりないですよね間接照明を見ない空間というのも。

デザインの足し引きについて意識していることありますか?

田中:やはりそこは経験値の部分もあったりするんですけれども、壁の照らし方っていうのが今回ポイントだったので、実際実験もしました。実機を使って、壁にどのくらいかけようかっていう、見え方自体を実験してみて、このくらいだったら手前のカウンターの方が浮きたってみえるねっていう段階を踏んで確証を得ていったというところです。


間接照明上から?下から?

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東急ステイ飛騨高山結の湯

田中:2020年の4月、コロナ真っただ中の時だったんですけど、高山駅から徒歩1分という好立地にオープンしました。高山自体はやっぱり歴史的で文化的な施設が多くて、観光によく行かれるところです。ゲストの方々が観光して戻ってきたときに、情緒ある街を歩いてきた余韻をそのままにホテルに戻ってきてほしいなという想いから、そういう情緒深い光で計画していきました。メリハリの利いた光ではなくて、行燈照明だったり、間接照明の柔らかい光が内側から外側ににじみ出てくるような光でまとめることで、優しくゲストを迎え入れられるホテルになったかなと思ってます。1階2階が共用エリアになるんですけれども、かなり外から丸見え状態といいますか、中の様子がよくわかるんです。インテリア自体はやはり高山に多く見られる住宅建設、梁柱が力強い建築が多いです。そういったところをモチーフにして現代的に再構築されてるデザインなんですけれども、基本的にはホテルとしての高山の情緒を残しながら、ここで見えてるように、囲炉裏のような待合カウンターを作ったりだとか、高山ってお祭りありますよね、そのお祭りを彷彿とさせる行燈照明だとか、そういったところで、光も交えて暖かい空間を作っていきました。

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左上が1階のロビーの写真になります。右下が2階のレストランですね。オールデザインなんですけれども、この2カ所で言いますとまずロビーの方が、写真は実は夜のシーンです。レセプションカウンターの後ろに格子組のディスプレイ棚があるんですけれども、その後ろに間接照明が入っているんです。実は間接照明ここだけではなくて、写真には映ってなくてちょっと申し訳ないんですけれども、上から天井の間接照明も仕込まれてます。やはりホテルということと、24時間稼働するロビーであるということ、さらに非常に外光が入りやすい環境ということから、夜はしっとりとした余韻みたいなものをホテルのロビーで表現したかったこともあって、上からの間接照明じゃないなというのがありました。ただ昼間は外光も入ってくることから、かなりさわやかなロビー空間になることが予想されたので、上からの間接照明もあったほうがいいなと思ったんです。なので外光の移り変わりと合わせて、ここのロビーも、2階のレストランも、時間帯によって、シーンで光のポジショニングが変わるような計画にしてます。そうすることで、昼間は人が入りやすいさわやかな空間、夜になったらしっとりした落ち着いた空間の、2通りの見え方を感じていただけるかなと思いました。レストランの方も細かく格子でパーテーションになってる部分もあるんですけれども、ここも今天井からの間接照明と、ソファーとパーテーションの間にもアッパー間接が入ってまして、夜と昼で切り替えを同じように行っています

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ここは宿泊者じゃないと見えない部分ではあるんですが、大浴場に隣接してる湯上りラウンジといわれるスペースです。象徴的なのは壁一面に左官アートがされてるんですけれども、高山はよく雪が降ると思うんですが、その雪解けを表現している左官壁になります。ところどころ蕗の薹の表現もされてたりとか、そういったところで春の芽生えだとか表現していただいてるダイニングカフェです。空間用途としてはやはり、お風呂に入ってきて、よく皆さん水だとか牛乳だとか飲まれてちょっとくつろぐところです。朝入るゲストの方もいらっしゃいますし、夜ゆっくり入りたい人もいるので、またここでもシーンの切り替えというのは必要なのかなと思ったところです。そして左官壁のさらに奥にですね、屋外テラスというかお庭が見えてきます。ここから自然光入ってくるんですけれども、細長い鰻の寝床みたいな空間だったので、外光だけに頼るわけにはいかず、やはり左官壁に対してしっかり光を提供していかなきゃなというところで考えました。写真は実は夜に撮ったものなんですけれども、左側が昼間のシーンで、右側がしっかり夜の状況での夜のシーンです。やはりダイナミックな左官の壁をみせるためには、さらに言うと外の明るさと調和した親和性のある光にするためには、上から太陽の光に準じて、同じ方向性を持って下まで見えるような間接照明の仕上げにしてます。それが昼のシーンですね。ただ夜になってしまうと、左側の写真見ていただくとガラスに映りこんでいるのが見えると思うんです。ここまで面を広く照らしてしまうと、外のお庭が全然見えなくなってしまうということが起こるので、壁を全面照らすべきではないなという判断に至ってます。そこで下の方ちょっと見ていただくと、ポツンポツンと、ベンチとベンチの間に低ピッチで行燈を設置してるんですけれども、普通であればぼんやり光る行燈なんですけど、ここでは、壁を光らせるための行燈として提案させていただいてます。なので壁側しか光ってません。夜のシーンはこの行燈照明でゆったりできるような、重心をいつもより低くしつつ壁を一面照らさないような配慮をして、左官をやさしく照らすということを考えました。そうすると、奥のテラスを見ていただくと、やはり外光照明になるので、樹木のスポットライトですとか、庭園灯ですとか、そういったところの光源の位置の高さも親和性が取れたりして、バランスがよくできたと思っています。私個人としては上から下からで判断するときは、やはり単純に昼間の時間帯、太陽光のある時間帯、さわやかな空間として使われるところなのか、しっとりした夜の空間・時間帯で、ゆっくりリラックスしたい空間なのかで上か下かっていうのを判断してることが多いです。


間接照明伸ばす?伸ばさない?

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但馬屋 台北マンダリンオリエンタル

田中:光源の設定です。光源の設置の方法によっても変えられるやり方ではあるんですけれども、あえて光を伸ばさないのか、いやいや積極的に伸ばしましょうよとなるのか。変え方で表現を変えるように、間接照明は考えたりしてます。台北のマンダリンオリエンタルに入っているしゃぶしゃぶ屋さん、但馬屋を例にしてお話したいと思います。いきなり、インパクトがっつりな空間なんですけれども、先程色々諸条件を聞きながら間接は決めたいですと言った私が、いきなりここの納まりどうしようということを考えちゃいました。諸条件説明しますと、しゃぶしゃぶ屋さんということと、日本から来られたオーナーさんということもあって、日本らしさを空間で表現してほしいと要望があったようです。インテリアでは、折り紙をテーマにして空間構成されてます。なおかつ来られるゲストは若い人が多いということで、渋いしゃぶしゃぶ屋さんではなくて、少し驚きのある空間にしてほしいいというリクエストもあったんです。まさに今映ってる写真が、お店のレセプションから長い通路の奥を見ている写真になります。左側はワインセラーになっていて、右側は客席空間があります。ここではアクリルをジグザグにしながら折り紙を表現されています。照明としては、まずアクリルって透明じゃないですか、なのでどうやって光らせるかを考えました。いわゆるエッジライトっていう手法を使ってまして、エッジライトといいましても、物が透明だとやはり光らないので、アクリルの小口をフロストに加工してもらってます。ちょっと写真でも見上げていただくと、クリア感よりも少し半透明な仕上げが見えると思うんですけれども、エッジライトっていうのはアクリルの小口面から光を中に通して光を伝達してくというやり方なんです。通常であればアクリルが繋がってれば光はある程度は飛んでくんですけど、ここで厄介だったのが、アクリルとアクリルが繋がってる面積があまりにも少ないんです。ジグザグに千鳥で積み重なってってるんで、1センチ角くらいのスペースを狙って光を通すしかないんです。ここは上から下からとかいってられなくて、上下で合わせていかないと光は伸びないなと思ったことから、積極的に光が伸びてほしいというところで、上下で間接照明を入れています。左下あたりを見ていただくと、ポツンポツンと光っているのが見えると思うんです。ここが実は上に行くにつれてアクリルが繋がっているポイントであることがおのずと分かると思うんです。なのでここがズレるともう光出ません。とお伝えしてなんとか作ってもらったっていう状況です。でもやっぱり、正直不安はあったので、アクリルを自分たちで繋げてみて、やすりで削って、光をどれだけのびるかというのはやっぱり実験を繰り返してやっていったプロジェクトです。

実際できあがってみて想像通りでしたか?

田中:思ったより伸びてました。天井も床も真っ黒だったというのが結構助けてるかもしれないですけど、見ての通り黒だけだと面白くないので、艶のある黒にしませんかということは相談させてもらって、そうすると反響して、アクリルがこうもっとダイナミックに繋がって見えるというか、空間も広く見えますし、もう少し近未来的な感覚でアプローチをこう歩いて行ってもらえるかなとこう想いを込めて提案しました。

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うってかわって客席はこれくらい柔らかい空間なんです。真ん中のこれは、ジグザグしているアクリルを収納しているパーテーションの壁になるんです。結構わかりやすくドキッとさせる漆黒の空間と、逆に木のフローリングだとか白いさわやかなパーテーションを使ってわいわいしゃぶしゃぶの鍋を囲って心地よく楽しく食事ができる空間っていう構成です。そういう構成ということもあって、客席エリアの間接照明は逆に伸ばすのをやめようという考えに至りました。素材が白く、さらに凹凸もあるんで、そんなに意図的に光を伸ばそうとしなくても光が十分飛んでいたんです。折り紙で言われる折りになってる部分、そのパターンと形が綺麗によく見えてるなと、逆に光を伸ばそうとすると影がもっと明確に出てしまって分かんなかったんじゃないかなと思います。いわゆる間接照明で、光源の位置はこれは折りあがったとこに設置はされてるんですけど、光源は上に向いてます。間接の折り上げの中で、上の方の天井で折りあがった光が反射してこのパーテーションに落ちてきてる状態です。なるべく柔らかく落としたかったので、壁から確か200ぐらいはとってます。

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柔らかくしつつもですね、緩やかに席と席を仕切っているパーテーションなので通路でもあるんですよね。なので今ページめくった右側の写真見ていただくと、こうパーテーションが入り組んだような、路地のような見え方になっているんですけど、通路空間に柔らかい間接だけだと面白くないので、少しリズム感を出すために折り上げの中にさらにダウンライトを1塔だけ入れて。1つワンアクション加えることで、その通路に対するリズムだとか、空間に落ちる光も相まって奥に奥に行きたくなるだとか、空間づくりを目指しました。


間接、影をつくる?つくらない?

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青普麗江白沙文化行館

田中:中国の雲南省っていうところにある、ほとんどミャンマーに近いところです。バイジャーっていう世界遺産の山があるとこなんですけど、写真左上に見えてるのが玉龍雪山っていう世界遺産になるんですけれども、これを眺めに来ながら、ロングステイをしながらリトリートしようっていうヴィラタイプのホテルの計画でした。雲南省という場所はミャンマーに近い中国の最西端にぐらいにあるところで、ナシ族っていう人たちが多く住んでいるところなんですけれど、その方たちの伝統的な住宅建築というものを継承しながら少し増改築をしたプロジェクトになります。

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瓦屋根と、ナシ族の伝統的な石積み工法というものが使われています。伝統的な石積みをされてるんですけど、部分的にちょっと違う方法、同じ石を使いながらも少しコンテンポラリーに見せようとした部分がこのちょっと光って見えるところです。これは透かし積みをしていて後ろの壁面が見えるようになっているんです。そこの裏に間接照明を仕込んでいます。象徴的に見せたいというような要望はいただいたんですけれども、見ての通り周り真っ暗なんです、道歩いてるとほんとに電灯もないようなところで、ほんとに月明りで、現地で照度計で測ってみるとみごとに0.2ルクスとか。ほんとに真っ暗なところで、ほんと少しの光でも眩しく感じてしまうような環境だったので、ここはぐっとこらえていただいて、ホテルらしい、リゾートホテルとして、グラデーションかかった間接にしませんかという話で下から上の柔らかいグラデーションかかった光にした形です。光源が目立っているところって無いと思うんですけど、ほとんど間接的に見えてるか、グレアの処理をした状態でなんとか納めていただいたプロジェクトになります。

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これが外光の見え方なんですけど、1番お伝えしたいのがこの客室タイプです。ここも石積みだとか、屋根を粗和紙にしているような、昔からあったようなここの建築工法になっています。左側にその障子の裏がぼんやり光ったような面があるとおもうんですけれども、最初建築家の方は光壁として考えられてたんですけれども、この光壁の左側、ベットの向かい側ですが、そこにはやはり窓が開いていて世界遺産の山が見えるような環境なんです。なのでそういう心をぐっと落ち着けるような客室で、乱暴に言ってしまえば、光ってしまう光壁があっていいのだろうか、っていうのを考えるとやはりノーですよね。その時にこのデザインに映えるヒントをいただいたんですけれども、よく見ていただくと、光壁の向こうの格子、ピッチが違うことが分かると思うんです。ここの客室では中央あたりが一番格子のピッチが荒くて、左右に行けば行くほどピッチがこう細かくなっていくようなデザインになっていたんです。これを利用してピッチが荒いところに光源を入れると少し膨張して見えるんじゃないかと思って、そうすると陰影のバランスをうまく使えるなと思ったんですね。結局こう格子の荒い部分が1番光って見えるじゃないですか。ピッチの詰まったところっていうのはほとんど奥の障子で見えなくなるので、影がきっと気にならなくなるだろうというところで、1番その障子の面積が大きいところに実は白熱電球と4塔くらい固めて吊り下げてます。メンテナンスハッチがあるんですけど、これを開けるとペンダントに吊るされた白熱電球が吊り下がってます。奥行きが250mm程あったので色々仕込もうと思えば光源は何でも仕込めたんですけど、あえてそこ全部光らせることはやめて、影をつくることでちゃんと落ち着いて外の景色を楽しめるような空間にしています。そのほかベッドサイドのペンライト照明もありますし、そういったところはホテルとして基本的な光を準備しつつ、周りの景色に溶け込めるような点光源の光壁にしようと思ったっていうのが経緯になります。全面光らせてしまうとその奥行き感もなくなってしましますし、影を楽しむ意味がなくなってしまう。うまい具合にベッドサイドのペンライトランプが、影になりうるであろうところ、格子が重なったところをしっかり照らしてくれてるんで、さらに影が気にならないような状態がつくれたかなと思います。


事務局:間接照明いる?いらない?、上から?下から?、伸ばす?のばさない?、影をつくる?つくらない?と4つの間接照明手法を教えていただきました。間接照明という1つの言葉、手法なんですが、これだけ色んなバリエーションがあって、そういったところが全部形作られてる、組み合わせて考えられていることを改めて知ることができました。

トーク風景 画像

間接照明に限らず、的確な照明計画をすること

田中:光ってどれも綺麗だとは思うんです。間接照明にすると、より優しく光るんで、やっぱり空間としては魅力的になりますし、優しい感じになります。間接照明を入れれば全部、言ってみればかっこよくとか印象的な空間にはなるんですけど、それの見え方が果たしてほんとにその空間の用途だとか、そこの空間を利用する人達にとっていいかというのはまた別の話だと思うんです。間接照明をやると、少し軽く見えるというか浮遊感のある見え方、床の方にあるとこうすごく浮いたように見えたり、見栄えのところで非常に大きい影響を与えてくるんで、やっぱりそこの空間の印象に非常に関わってくるなということが私の考えていることです。なのでオーナーさんの意志だったり、事業計画に沿ったような光なのかどうかっていうのを最近は考えるようにしてます。

単純にその素材の見え方だとかっていうのを考えるだけであればそこまで難しくはないと思うんですけど、その素材がよく見えるやり方とかそういうのは経験上もちろん積み重ねはありますし、それよりも、どの時間帯でどういう人たちが使ってどういう使われ方をするのかというほうが大切だと思います。その人たちがどういう気持ちになるんだろうって考えるようにするんですけど。極端なこと言うと、バーにいて、上から明るい間接照明があってほんとにいいかどうか。友達同士だったらいいかもしれないですけど、それが奥さんと行くのか、彼女と行くのか、シチュエーション変わると思いますし、そういった使われ方、用途、目的、みたいなところをどんどん狭めていくと的確な照明計画というのができるんじゃないかなというのが考え方の一端で、それは間接照明に限らないことなんですね。ダウンライト1灯にしてもそれが広い配光のダウンライトの方がいいのか、集光した方がいいのか、そういったところを細かく考えていかないと、デザイナーさんはもちろんですけど、事業者の方を説得するのも最近ちょっと難しいなと思っています。


事務局:間接照明っていうのをどう決めるっていうのが、やっぱりそのコンセプトとかブランディングとかそういったところから考えて決めていこう、でもこんなにいっぱい手法があるんだよというのを沢山教えていただいた時間だったと思います。ありがとうございました。 ※このページは、2022年5月26日(木)に行われたオンライントークイベントのレポートです。

「間接照明」をさらに印象的にする、次世代調光調色『Synca』は、以下WEBページで詳細をご確認いただけます。

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