<オンラインセミナー>これからの空間に欠かせない、植物を育む照明設計とは?-オフィス、商・住環境のバイオフィリックデザインについて考える 画像

人と自然の調和を行うことで健康や幸福度が増すという“バイオフィリックデザイン”が今、世界的に注目を集めています。

オフィス、商・住環境への導入事例と実験結果を基に、植物のプロであるお二人を交え、植物にとって最適な室内環境について、光の観点を中心にお話いただきました。

Guest speaker

平田倫子

平田倫子 Michiko Hirata(TISTOU株式会社 代表取締役社長)

恵泉女学園 園芸学部卒

卒業後、渡欧。ドイツ・ベルギーのフラワーアーティストのもとでアシスタントを務める。帰国後にTISTOU株式会社を設立。
ヨーロッパのデザインブランド7社の日本総代理店を務める傍ら、インテリア雑誌のスタイリングや海外コーディネート、ホテルやオフィスのグリーンコーディネートを手掛ける。

https://www.tistou.jp/

長濱香代子

長濱香代子 Kayoko Nagahama(長濱香代子庭園設計株式会社 代表取締役)

同志社大学 哲学科卒

日本アイビーエム株式会社勤務を経て、独学でガーデンデザインを学ぶ。2011年長濱香代子庭園設計株式会社を設立。
広い植物の知識と、モダンなセンスで、個人住宅の作庭から商業施設のランドスケープデザインまで、幅広く手掛ける。

http://www.kngdc.com/

Host speaker

丸山 悠

丸山 悠 Haruka Maruyama(株式会社遠藤照明 未来環境研究課係長)

奈良女子大学/大学院にて建築環境工学 光環境分野を専攻し、快適で省エネルギーな光環境について研究。
その後、株式会社遠藤照明に入社し、照明計画業務に従事したのち、現在の未来環境研究課にて、光環境がヒトの心理/生理に与える影響についての研究を行う。

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参加者の声

  • ちょうど気になっている内容でした。
  • 植物の成長には2種類の色が必要だということに驚きました。
  • 今まで、本セミナーの切り口では設計したことがなく、非常に勉強になりました。

イベントレポート

事務局「本日のテーマなんですけれども「これからの空間に欠かせない、植物を育む照明設計とは? オフィス、商・住空間のバイオフィリックデザインについて考える」と題して進めてまいりたいと思っております。」

事務局「今世界的に注目を集めております「バイオフィリックデザイン」というものですが、弊社の方でもご一緒させていただいているご物件、すごく多くなってきていると痛感しております。例えば、商業施設の共用部分なんですけれども、グランシェフズキッチンイオンモール白山様、物販店なんですが、半分がグリーンで半分がアウトドアショップのUPI表参道様。オフィスのエントランスなんですけども、日比谷のFORT TOWER様。青山フラワーマーケットティーハウスの南青山本店様。というかたちで、オフィス・商・住空間、いろいろな物件が増えている中、これまでの事例と実験結果をもとに、植物のプロであるお二人をお迎えしながら、植物にとって最適な室内環境について、光の観点を中心にお話しいただきたいと思っております。」

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「本日のテーマ」

事務局「【バイオフィリックデザイン】×【植物】×【光】、この3つのテーマをそれぞれの方からお話を頂きたいと思っております。」

「バイオフィリックデザイン」について 画像

「バイオフィリックデザイン」について

平田「本当にこの10年ぐらい、植物のある空間、とても増えていると思います。そんな中でいわれてるのが、「バイオフィリックデザイン」というワードです。だいぶ日本で浸透されていると思うんですけれども、主にオフィスデザインの業界でかなり認知されてる言葉かと思います。この「バイオフィリックデザイン」というデザインの手法を取り入れることで、幸福度・創造性・生産性が上がるというエビデンスが、かなり取れてきていて、多くのことが実証がされています。もともと「バイオフィリックデザイン」というのは、人間が自然とつながりたいといった気持ちが本能的に願うこと、それが「バイオフィリア」という考え方で、その考え方に基づいて行われるデザインの手法なんです。このバイオフィリアという概念は、1984年にエドワード.O.ウィルソンさんという方が広めたものなんですけども、自然に癒されるというのは誰もが感じることだと思うんですけど、この研究はどちらかというと環境心理学の分野で多く実証されていて、自然とつながっている状況が心理的なストレスの回復を高めてくれると言われています。主に都市に暮らす人々に対して、建物の中で自然とどうつながるか。そのつながった状況を提供できるかっていうのが「バイオフィリックデザイン」というものになるんです。」

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「バイオフィリックデザイン」が求められてる理由

平田「今、世の中いろいろなことがあって激動の時代と言われてると思います。予期せぬこと、戦争まで起きてしまって世の中大変なことになっていると思うんですけども、私たちの働いている環境、過ごしているところもすごく変わっています。テクノロジーが発達してるというのは、皆さん感じてると思うんですけども、私が輸入業を始めて24年になりますが、1番初めに海外と取引したときは、まだFAXでした。発注して1日待って返事が来るみたいな。ゆっくりと仕事が進んでいたと思うんです。今は全てにおいてスピード速くなっていて、皆さんSNSでおしゃれして綺麗にしなきゃいけなかったり、いろいろなことが人間にのしかかっている。とにかくスピードが速くなっていると思うんです。そんな中で人間の体は、これ江戸時代ですけど、もっと前から肉体はほぼ変わっていない。現代の私たちと400年、もっと1000年前の人間とDNAはほとんど変わっていない中で、人間にかかる負荷っていうのはどんどん強くなっているというのが現実であります。その中で何が起こるかというと、今よく皆さん言われると思いますけども、燃え尽きてしまったり、精神的に病んでしまったりということが増えています。特にデジタルネイティブといわれているミレニアム世代の方々も、そういう症状が出ているという結果が増えているんです。こういう中で今求められているものというと、ウェルビーイングになると思うんですけども、こういう激動の時代の中で、精神的にも肉体的にも良好な状態を保つことが求められています。その中で、どうやってウェルビーイングを実現するかということなんです。例えば、健康でいるために運動をするとか、働き方を変えてストレスが軽減できるような環境・仕組みを環境で作るというのが重要だと思っています。あとはバランスの取れた食事も重要です。商業施設、オフィス環境・住環境全てにいえると思うんですけども、その中でウェルビーイングを実現する1つの方法として、「バイオフィリックデザイン」というのが用いられています。」

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どうやって「バイオフィリックデザイン」を実現したらいいのか

平田「多くの方が「バイオフィリックデザイン」を実現するには、自然を感じる要素を取り入れる、それでいいんだろうなと思われています。自然を感じる要素のすぐ思い浮かぶものとして、リアルグリーンがあると思うんです。生の植物を取り入れることは、「バイオフィリックデザイン」を実現するのに効果があるといわれています。ただ、なかなかリアルグリーンが入れられる環境は限られていると思うんです。その中で設計上、室内で植物を生育するのは難しいという環境の場合はフェイクグリーンでもOKなんです。もちろん本物の自然とか植物より少し数値は下がるといわれていますが、植物と同等にストレスの緩和・回復へと導かれるということが調査でわかっています。かなり精巧なフェイクグリーンもありますので、どうしても環境的に難しいときはフェイクグリーンを取り入れるというのも、1つの方法ではあります。」

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「あとはマテリアルにも注意していただくことが大事だといわれています。自然を感じる要素、木だったり石、塗料でも自然に近いものを使うと、「バイオフィリックデザイン」を実現することができます。ちょっと変わったところですと「BIOMIMICRY」という手法があるんですけれども、自然界の仕組みから学んだことを技術、デザインに生かして商品などを取り入れることも自然を感じる要素といわれています。例えばこのパラソル。これはアカシアの木から発想を得てデザインされたもので、これに限らず自然から着想を得たものをデザインに取り入れたことも効果的といわれています。あとは写真も充分に効果的だといわれています。本当は自然光が入る環境が1番いいんですけども、なかなか自然光が入らないところとかあったりすると思うんです。窓がない状態と窓に模したものを作った状態、窓がある状態で研究した結果、窓がある状態と、窓を模した絵みたいなものがある状態とでほとんど効果が変わらなかったというエビデンスも取れています。なので、自然の風景を壁いっぱいにする手法も受け入れやすいかと思います。」

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「私が今「バイオフィリックデザイン」についてお話しする機会が多いのは、扱ってるアウトドア家具をオフィスだったり商業施設だったり、室内に取り入れることが今すごく注目されているからだと思うんです。アウトドア家具を室内に取り入れることによって自然とつながっている感覚を得られるともいわれています。これは遠藤照明さんのオフィスですけれども、室内ですが外のような雰囲気を演出するのも効果的です。日本でもいろいろなところに取り入れられています。ベンチだったりとか、資生堂さんのオフィスにも外の雰囲気を表現するのに使われています。あと変わったところで、アニマル、動物も自然を感じる。人間以外のものなんですけれども、動物もオフィスに取り入れたりとか、住宅ももちろんそうです。商業施設はちょっと難しいかもしれないんですけども、動物を取り入れることによって自然を感じられるといわれています。その他に、色のアクセントカラー。自然を感じるような色彩も効果的だといわれてるんですけど、これすごくおもしろくて、国、国民性によって自然を感じる色は違うらしくて、まだ日本人が自然を感じる色は研究結果が出ていないので、はっきりとは申し上げられないんですけど、自然を感じる色を取り入れることによっても「バイオフィリックデザイン」を実現することになるといわれています。そのほかに、屋外にいるときを感じるような「音」「香り」もよいとイギリスで発表されています。」


長濱「何を考えて屋内空間に植物を入れるときに考慮していったらいいか、「植物をわかる」っていうことを、いろんな切り口で、特に一番大事になってくる「照度」、「光」との関係性を少し掘り下げてお話しさせていただこうと思います。」

植物を維持するための必要なこと 画像

植物を維持するための必要なことについて

長濱「環境の中にも要素がありまして、「光」と「風」と「水」です。これに「温度」も関係してきます。先に「水」に関してお話しさせていただくと、「植物によって異なる必要な水分量」、これはイメージできると思うんですけれども、砂漠の植物であれば水が少なくていいし、例えばシダ類ですとかギボウシ、モンステラ。そういったものですと水分量を欲するというのは、感覚的に分かってらっしゃるんじゃないかと思います。皆さん「水あげてればいいよね」って思われる方が多いんですけれども、水の働きって非常に重要なんです。それは植物、人間もそうです。体の70%~90%が水分でできているので、それがなくなると細胞はどんどん死んでいって、干からびていって枯死します。もう1つすごく大事なのが、光合成に水って必要なんです。光とも関係するんですけれども、光合成は光を使って植物が葉っぱの上で化学反応を起こしています。それに必要な成分は、水と二酸化炭素なんです。水をどんどん光を当てることによって、分解して最終的に酸素ができます。さらに、デンプン系の化合物ができるというのが光合成です。水は、光合成をするのに非常に必要なものだということを、頭の隅に置いておいていただければと思います。

もう一つは、植物は光合成だけじゃなくて、普通に私たちと同じように呼吸もしてるんです。呼吸っていうのは、酸素を吸って二酸化炭素を出すっていうことをやっています。どこでやってるかっていうと、葉っぱの裏側に気孔という名前の穴がいっぱい開いていまして、そこで酸素を吸って二酸化炭素を出す。もう1つは水分を根から吸い上げて、余分な水蒸気を出していく。何のためにやるかっていうと、葉っぱの温度が上がりすぎちゃうんです、日光の照射がきついと。そうすると人間と同じで暑くなるわけです。だから葉温の温度を下げるためにも水分を吸ってそれを出す、蒸散活動をするということが不可欠な要素になってます。夏場に例えば、お水をあげるのを忘れてしまいましたとか、旅行に行っててあげれませんでしたとかいうのは、私たちに35℃みたいな気温の中で「お水を飲むな、汗かくな」みたいなことを言われているのと同じ状態なので、それは植物にとって非常にストレスなんです。すぐだめになるわけじゃないけど、そういうストレスってボディブローのように後から悪くなってくることがあります。なので、植物によって摘必な給水をしてあげるっていうのがすごく必要なことになります。」

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「次が「光」なんですけれども、まず植物は、きのこ以外はたいだい屋外のもの、きのこも屋外のものではあるんですけど、屋外で育っているものなんです。私たちは、観葉植物と呼んでるんですけれども観葉植物は英語だとインテリアプランツと呼ばれたりします。人から見て葉っぱが美しいから観賞するため植物と言う総称をつけただけで、観葉植物っていう植物はなくて、私たちが部屋の中で取り込める植物は、いわゆる亜熱帯および熱帯に生息する植物「熱帯花木」なんです。その中でも、こちらのイラストのように熱帯雨林があったとしたらファーストレイヤーにこの高木、枝葉を広げていて一番日照を受ける木があって、そのセカンドレイヤーに、また例えば4~5mぐらいの木、ヤシがあって、その下に樹林の下の方に生息している植物があります。それは弱い光でも生息が可能なんです。そういった種類のものを主には観葉植物として、なんとか室内で順応していただこうということで取り込んでいるっていうのが今、現状です。なので、もともと室内で育つ植物ではないということも頭の中に入れていただきたいと思います。」

植物を維持するための必要なこと 画像

植物によって必要な照度

「これは植物によって全然違うんです。例えばテーブルヤシとかポトス、そういったものですと500㏓~1000㏓くらいです。その下に書いてある「PPFD」という単位は、植物が光合成をするために光を取り込むための有効な光の量子密度、密度です。㏓は、言ってみれば人の見た目の明るさです。これは感覚的に分かりやすいんで、今㏓で表記がしてあります。その光の強さが生育に非常に結びついているんです。まず植物の種類と、もう1つは同じ種類でも成長段階で必要な照度は変わってきます。アロエになると5000㏓以上です。葉山の崖っぷちでも自生してますけれども、太陽をさんさんと浴びて大きくなってます。もう1つ、オリーブは地中海性気候で、しかも晴天率が高い場所に生育してるんです。もともと原産地がイタリア南部だったりスペインだったり、曇天もあまりなくて降雨も少ない、石灰質だっていうこともあるんですけれども、オリーブは10000㏓以上。でもこれは、私が見た感じでいうと、植物が最低限生きながらえていく光の多さなんです。開花をさせたいとか、実をならせたいとか、そうなってくると、最低必要な照度×大体5倍~10倍の照度が必要になってきます。なので、これが最低ラインだと思っていただいて、例えばパキラなら、パキラがパキラらしくいられるというか、形もきれいに、健全な状態で育っていくためには、本来であればこの3倍とかそういった照度が必要になってきます。直射日光の光の強さっていうのは、直射日光と日光は出てないけども天空の明るさと、両方あるんです。それを、㏓で表現すると、曇天時は外で5000㏓ぐらいあるんですが、室内は100㏓ぐらいになります。カフェのように開口が大きかったりする場所で、天窓があったりでも300㏓。それからオフィス等で蛍光灯がいっぱいついてますとか、窓際の近いところでも750㏓程になってしまいます。なので、その1つ前の必要な照度から比べると、室内での照度は、圧倒的に足りない状態なんです。」

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「光のこともそうなんですけれども、本来であれば外部環境というか自然の中で気持ちよく育っている植物を屋内に持ってきますと。じゃあもともといた自然環境と屋内環境って考えたときに、自然環境にはあって屋内環境にはないものの違いを考えていただきたいというのもあるんです。1つ目は、光が極端に少なくなる。これをご覧になっていただくとわかるように夏至の6月、7月。今の晴天時で、お昼で100000㏓あります。それが、屋内になった途端に、せいぜい窓辺で1000㏓とか2000㏓ぐらい。それからちょっと何十センチ、何メートル入ると、もうこれくらいの大きさになっちゃうんです。それが大きい違いです。2つ目の違いは、自然降雨がないということです。熱帯雨林でもスコール等があるので自然降雨があって、蒸し暑くても風、ゆらぎが起こるんです。そういったことが屋内にはできない。それから温度とか湿度が違います。奄美大島、沖縄とかいらっしゃったことがある方、多いかと思うんですけれども、夏場、むっとするような湿度の高さと気温の温かさ。それから冬でも温暖っていうことがあります。それが3つ目の違いです。4つ目は自然の風が入らないということがあります。窓を開けたとしても、部分的にしか、開口がある所しか入らないということと、あと空調の風がずっと当たりっぱなしになっている。これもよくないです。それから例えば、部屋の隅っことかで本当に全く空気が動かない場所っていうのも実は存在します。自然の風が入らないということです。5つ目が、排水の環境がないということ。雨がざっと降ったら、ざっと地面に吸い込まれていくわけなんですけれども、それがない。自然環境で生育しているものを屋内環境に持ってくるのには、今挙げた大きく5つのハンディがすでに存在してますっていうことを、ちょっと考えていただきたいと思っています。」

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「「風」の話をします。空気の構成要素が、昔の生物であったと思うんですけれども、だいたい窒素が78%、酸素が20%、あといろいろあって、CO2って1%以下なんです。CO2って温暖化の目の敵にされてますけども、空気の構成要素からすると低い訳です。それを葉っぱから吸い込もうとするんですけれども、植物は動けないので、空気のゆらぎ、循環がないとCO2が自分の周りからなくなっちゃうんです。先ほど申し上げたみたいに呼吸もしてます。呼吸は酸素を吸ってますから、自分の周りに酸素も少なくなっちゃうんです。そうすると光合成率が極端に落ちちゃう。光合成率が落ちると、それを基に葉っぱを大きくしたり新しい葉っぱを出したり、花を咲かせたりっていうことをやっているので、光合成率が落ちるっていうことは、どんどん進んでいくと死に至るぐらい重要なことになっています。空気を循環させることで、また新しく吸えるCO2も植物の近くに来る。溜まっている、偏っている水蒸気ですとか酸素もまんべんなく吸えるようになるということです。1つ気をつけていただきたいのは、強風はNGです。強風が吹き荒れるとか、部分的にすごい風がびゅんびゅん通るところ。それからエアコンとか暖房の風を直接与えることで、極度の乾燥に陥ってしまうので、それも気をつけていただければと思っています。」


丸山「「照度」について、簡単にシミュレーションができたり測定ができたりということで一般の人にもよく知られています。長濱さんのお話にあったように、植物に例えば2000㏓の光が必要といっても、どんな光でも2000㏓であれば植物に対する効果が同じというわけではありません。そのことを説明するために、光を「光の強さ」そして「光の色」「波長」に分けてご説明していきたいと思います。」

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植物を育むために気をつけるべき光のポイント

丸山「まず一つ目の「光の強さ」です。光の強さというのは照度とは少し違います。光の強さというのが、単純な物理量。エネルギー的な量のことを表すのに対して、照度は「光の強さ」に「ヒトの眼の感度」を掛け合わせて算出される値になります。「ヒトの眼の感度」にはピークがありますので、感度が低い光と感度が高い光があると、同じ光の強さであってもヒトの眼には違う明るさに感じられる。実際照度を測っても、違う値になるということが起きます。眼の感度が高い、低いというのがどうして起きるかというと、私たちの眼には紫外線と赤外線の間に挟まれた、ごく限られた「可視光」と呼ばれる波長の範囲しか見ることができないからです。ここに示してあるように「可視光」は、紫外線に近いものは紫や青に見えて、赤外線に近いものは赤やオレンジ色に見えます。この中で私たちの眼の感度が一番高いのが、緑色の光です。この緑色の光から紫外線や赤外線に近づくにつれて、段々と眼の感度は低くなっていきます。波長ごとに光を見ると、このように色々な色に見えるんですけど、私たちが日常よく使っている照明器具などの白い光は、この青と緑と赤の光が合わさって白っぽく見えていて、その光のバランスによって微妙に光の色が変わっていきます。つまり「ヒトの眼の感度」にはピークがあって、緑色の光は同じ強さの赤や青の光と比べて明るく見える、照度も高いということが分かります。」

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「少し植物の話に戻すと、「ヒトの眼が明るく感じる光」と「植物が生きるため」に必要としている光は全く違います。植物の葉っぱは、緑色に見えると思うんですけれども、これは植物の葉っぱが緑色の光を反射して私たちの眼には緑色に見えているということです。つまり、植物の葉っぱにとって緑色の光というのは、反射してしまう、吸収できない、成長になかなかつながらない光というふうにいうことができます。反対に、ヒトの眼にはなかなか感度が低い青い光や赤い光は植物の成長にとても必要な光で、それぞれの波長ごとに植物に対する作用が違います。青い光は、葉や茎の成長に必要な光。赤い光は、光合成に必要な光と、大きく分けるといわれています。」


丸山「一番最初に植物に2000㏓必要といっても、どんな光でも同じではありません、というふうにお伝えした理由として、照度については、ヒトの眼の感度が一番高い緑の光を多く含むほど照度の値が上がりますが、植物にとっては青や赤の光が必要だからということになります。実際に青い光が葉や茎の成長につながっているか、赤い光が光合成につながっているか。つながっているとしたらどれぐらいかということを弊社の照明器具、Syncaシリーズで実験をしてみました。」

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丸山「Syncaシリーズを使用した理由なんですが、一般的な照明器具に比べて色温度の、光の色味の変化の幅がとても広くて、葉や茎の成長に必要な青い波長を多く含むの光から、光合成に必要な、赤い波長を多く含む光まで幅広く変化をさせることができるからです。実際に波長のグラフをお見せしたいと思います。ここに映っているのが、先ほど左側に映っていた青い光、12000Kです。この12000Kと書いてあるのが光の色味を表すもので「ケルビン」と読んで、値が高いほど青っぽい光、値が小さいほど赤っぽい光を表します。12000Kのグラフを見てみると、青い波長のところにピークがあって、赤い波長は、ほとんど含んでいないということがわかります。次が8000Kで、次が5000K。5000Kは、ほとんど色味を感じない白っぽい光で、青や緑や赤やそれぞれまんべんなく含んでいることがわかります。3000Kと、最後が1800Kです。1800Kは、黄色いところにピークがあって、青い光はほとんど含んでいないということがわかります。」

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「実験の説明に移りたいと思います。実験では青い光、赤い光、白い光、それぞれ750㏓と2000㏓、この組み合わせの合計六つの光を一つ一つの鉢に当てて間を仕切って、一ヶ月半観測を行いました。この写真は実験を開始したときのもので、全体の高さであったり葉っぱの量を調整して同じぐらいにそろえています。」

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「一ヶ月半後の様子がこちらです。まず白い光はほとんど成長がみられませんでした。赤い光が2000㏓少し成長したかなという感じだったんですけど、それほど大きな違いではありませんでした。白い光と赤い光の750㏓、ちょっと成長しているように一見見えるんですけど、いったんば×にさせていただいていて、後ほど理由をご説明しようと思います。青い光は、750㏓でも2000㏓でもこの写真で見てもおわかりいただけるとおり、かなり葉っぱと茎が成長したという結果でした。そして先ほどいったん×にしました赤い光の750㏓、右側が赤い光です。左側が青い光の750㏓のアップの写真なんですけれども、葉っぱの様子が青い光は、かなりしっかり葉が伸びていて、赤い光はひょろひょろと頼りない状態なんですけれども、この赤い光のひょろひょろっとした状態を「徒長」というそうです。」

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丸山「そして先ほどいったん×にしました赤い光の750㏓、右側が赤い光です。左側が青い光の750㏓のアップの写真なんですけれども、葉っぱの様子が青い光は、かなりしっかり葉が伸びていて、赤い光はひょろひょろと頼りない状態なんですけれども、この赤い光のひょろひょろっとした状態を「徒長」というそうです。」

長濱「これどうして起こるかっていうと、植物の生存競争というか必死で生きようとしてるわけで、より光を吸収する吸収スペクトルを上げるために葉っぱを伸ばそうとして、節と節の間が長くなっちゃうんです。それを私たち徒長と呼んでるんですけれども、そうすると短くてがっちりした幹とかステムではなくて、どっちかっていうと節間が伸びた、ひょろっとした形状になってしまうっていうことが起きます。植物って、いかに光と水を取り込むのかっていうことに専念してるといっても過言ではないので、バルコニーに植物を植えても全部葉っぱが外を向いちゃうっていうのはそういうことです。厳しい生存競争を勝ち抜くための戦略だし、諦めて水生植物に方向転換する植物もいました、性転換するみたいに。徒長はそういうことです。」

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丸山「やはり750㏓では光が不足してしまった、徒長してしまったということだったんですけど、一方で青い光の場合は750㏓でもしっかり成長していたということで、葉や茎の成長にはやはり青い光が重要だなということが、実験で確認できました。もう一つ、光合成については光合成の度合いを見るために、鉢の一つ一つの重量を記録して、同じ量の水を与えて、そこから植物がどれだけの水分を吸収したかというのを測定するという方法を取りました。ご存じのとおり光合成では、二酸化炭素を吸って酸素を吐き出すんですけれども、そのときに、植物は根っこから水分を吸収して、葉っぱから蒸散させるということも同時に行っているということで、先ほどの植物が吸収した水分量と、光合成の活発度合というのが比例するということで、その吸収した水分量の結果がこちらです。一番右の、私たちが日常的に使っている白い光に対して、青い光は水分量が少なく、赤い光は水分量が多い。この赤、白、青の順番は、最初に説明した光合成に必要な赤い波長を多く含む順番。PPFDが高い順番と合致しているということで、やはり光合成には赤い光が必要だということも、実験でわかりました。以上、実験の結果をまとめると、葉や茎の成長にはやはり青い光が必要で、光合成には赤い光が必要ということで、どちらの光も植物を育てるためには大切だということがわかりました。」


事務局「ではここから先は、頂戴しているご質問にお応えいただきたいと思います。」

質問:2000lxずっと与えてあげないといけないの?

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平田「できれば最低でも光のある時間は2000lxを照射する。ちゃんと継続して光があることがすごく大事なことなんですけども、カフェ、レストランだとどうしても営業中そんなに強い光難しいってときは、先ほど紹介があったSyncaで時間のコントロールをして、皆さんいらっしゃらない営業時間外にプラスαで、赤と青の光を照射することでも十分に光合成ができる環境を作れます。あと皆さん忘れがちなのが、長期のお休みです。冬休みの方がちょっと不安なんですけども、温度が下がるので。その期間何もないっていうのは、植物が窒息してしまう状況だったりするので、これも本来でしたらサキュレーター入れたりとか、風流がないままでは。タイマーセットして光と風を与えていただくと、植物は元気に育つと思います。なのでぜひ、タイムコントロールなどしていただければと思います。」

質問:葉の部分全体に最低2000㏓の確保っていうのが必要?

長濱「天空口が理想です。住宅によっては開口の向きで、反面は大丈夫だけどこっち側は暗いってこともあると思うので、そういうときは回転させてあげるとか。要はエネルギーを作るための装置なんです、葉っぱは。太陽光発電って太陽の方向に向いてパネルをあの角度で。あれは最大PPFDを得るための角度なので、それを植物は自動的に調整しながらやってるっていう。一部分だけ当ててあげてると、そこだけどんどん伸びてっちゃうので、さっき言った回すのもあれだけど、できれば自然みたいに全体的に降り注いでいる方がいいですね。」

質問:植物にとって望ましい光環境と、人間にとって望ましい光環境のバランスについて聞きたいです。

丸山「人が明るく感じる光と、植物が生きていくための必要な光というのが、ほとんど真逆と言っていい。それが相違点かなとは思っているんですが、植物を育てるっていうことは、そもそもはバイオフィリックのデザインを導入して植物を導入して、その空間を楽しんだり快適に過ごしたりするためだと思いますので、常にどんな時間帯もその植物を育成する光が優先される必要は、私はないんじゃないかと思っていて、その空間を美しく見せたり魅力的に見せる光というのが、植物を私たちがめでる気持ちがより湧いてきたりとか、そういうことも含めて、ちょっと視点を変えると、そういう光こそ、人も植物も望ましい光環境なんじゃないのかなというふうに思っています。」


事務局「今回聞いていただいている方は、施主さんとか設計者さんがほとんどです。平田さん、長濱さんはその方々から依頼をされるお立場だと思うんですけれども、設計者さんからの「まずどういうことを配慮したらいいのか」っていうご質問もたくさんありました。つまりお二人にとっての課題感だと思いますが、「こういうことは避けてほしい」とか、何かそういうお伝えしたいお話を結びに頂いてもよろしいでしょうか?」

平田「本当にたくさんうちに植物を入れたいっていう環境、空間に住みたいというご相談を頂くんですけども、大体皆さん図面、環境できあがった状態でご相談いただくことが多くて、「この部屋の隅に置きたい」なんていう相談を受けます。風、光、全て整っていない状況で「ここに置きたい」っていうふうにご相談いただくと、どうしても「そこでは植物が育たない」というお答えをするしかないです。なので、長くそこで植物を育むためには、環境を整えていただくこと。それがまだまだ少ないなと感じています。できれば植物を入れたい空間を作られたいと思ったときには、ランドスケープデザイナーやコーディネーターにまずはご相談いただいて、植物はいろいろな条件がないと育たないってことを、設計の皆さん少し頭の片隅に置いていただくと、もっとバイオフィリックスなデザインを取り入れる空間が増えるんじゃないかと思います。枯れてしまってる空間を今よく見かけます。植物に皆さん興味持っていただいてるのに失敗してしまうと「やっぱり植物難しいな」ってなってしまうと思うんですけど、実はそんなに難しくはないので、まずはぜひ相談してほしいです。」

長濱「素晴らしい使命だと思って感動しました。私から一言。やっぱり植物を知るっていうことがスタートだと思うんです。植物っていろんなかたちをしているので、よりよいデザインができる、生かしたかたちで。植物を知るためには正しい情報が必要かなと。ネットでも調べられるんですけれども、私が見ていて嘘ばっかりのサイトもたくさんあります。金額がするんですけれども辞典的なもの、写真が出ていたりとか、ちゃんと学名が表記がある。なるべく学名で覚えるっていうことです。それと自生地がどうなっているか。砂漠なのか熱帯雨林なのか、なおかつ温度の耐性、ハードネスゾーンっていうんですけれども、どの温度で生育できるかっていうことも書いてるんです。そういったことから裏を取ると。よく緑の仕事って「あなた感性素晴らしいですね」って言われたりしますけども、感性じゃないって私は言ってるんです、計算ですと。科学的なデータだったり、裏を取ってきちんとエンジニアリングをする。それが植物にとっても人にとってもいい結果をもたらすと思っているので、きちんと裏を取って一つ一つ調べて、そのために専門家とか声をかけていただけるといいかなと思います。」


事務局「バイオフィリックデザインって人の健康とか幸福度が増すところがキーワードだなと思っているので、「枯れたら変えたらいい」っていうのは今の時代でもないですし、育っていくことを楽しむ。それによって私たちが幸せを得るっていうようなことが、ものすごく腹落ちしたなと思っています。まだまだ尽きないんですが、お時間が来てしまいましたので、本日はこれで終わりたいなと思います。ありがとうございました。」 ※このページは、2022年7月21日(木)に行われたオンライントークイベントのレポートです。

本トークイベントの話題にも上がっております、次世代調光調色「Synca」は、以下WEBページで詳細をご確認いただけます。

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