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「麻布台ヒルズ 森JPタワー」内の商業エリア「タワープラザ」。オフィスやレジデンス機能も有するタワーの低層部に、書店や飲食、アパレルが並び、日常と非日常が交差している。この商業エリア2〜4階の照明計画を担ったのは、田中圭吾氏が代表を務めるライトモーメントだ。複雑に多様化する空間において、どのように光を挿入したのか聞いた。
2023年11月24日に開業した「麻布台ヒルズ」。多様な都市機能を内包する建築とランドスケープが組み合わさった、都市の中に誕生した“コンパクトシティ”だ。「緑に包まれ、人と人をつなぐ『広場』のような街−Modern Urban Village−」をコンセプトに、ヘザウィック・スタジオが低層部デザインを手掛け、立体的な建築と緑豊かな美しい街並みを作り上げている。
東西に延びる敷地には、地上330mの高さを有する「麻布台ヒルズ 森JPタワー」も建築された。店舗やオフィス、レジデンス、予防医療センター、インターナショナルスクールが一体となった複合施設として、オフィスワーカーや住人はもちろん、買い物客や旅行客など様々な人々が行き交う。
タワー低層部に入る商業施設「タワープラザ」は、小坂竜氏率いる乃村工藝社 A.N.D.がインテリアデザインを担当。ライトモーメントの田中圭吾氏が、2〜4階の商業共用部の照明計画を担っている。多用途複合型の街に開かれた空間を、照明でどのように彩っていったのだろうか。
「本プロジェクトは、地下鉄の駅から各建物やランドスケープが緩やかに繋がっていることが特徴です。全体のゾーニングを踏まえ、光によって『シークエンス』をどのように生み出すかが命題としてありました。また、へザウィック・スタジオが打ち出した有機的なデザインとの親和を図り、光の柔らかな質感、間接光の表現を、タワー内においても引き込むことを意識しています」(田中氏)
異なる建物ではあるが、全体としての統一感を試みている。加えて、レジデンスが占める範囲が大きく、ウェルネスがテーマの一つに掲げられていたことから、クリーンで日常に寄り添うような心地良い光環境が求められた。様々な与件が複雑に絡み合う中で、ライトモーメントが導いたコンセプトは「自然の余韻を感じる都市」。「タワーを一つの大きな木と捉えて、木々の下を潜り抜けていくようなシークエンスを作り、訪れた人を導いていく環境照明を整えていきました」と田中氏は説明する。例えば、大木に降り注いだ太陽光は、枝葉に遮られてすぼまっていき、地上では影が生まれる。そんな自然界で見られる現象を、3層のフロアで再現しているのだ。具体的には、フロアごとにベース照明の配光角度を変え、4階は広がりのある光、2階では光だまりによる明暗が生まれている。
更に、レジデンスエリアと商業エリアがフロア内でつながっているため、縦軸と横軸双方のシークエンスを整理していくことが重要であった。田中氏は、商業エリアを構成する間接光を、レジデンスにかけて徐々に減らし、光のリズムは変えずに明るさ感を下げることで、落ち着いた居住スペースへと移行できるように操作。「この場所を利用する人の心理や行為を紐解き、場の連続性を“光の移ろい”で演出しました」と語る。
もちろん、シークエンスを生む機能性だけでなく、光を通して空間に上質なにぎわいを添える役割も果たしている。乃村工藝社 A.N.D.がデザインした「タワープラザ」のインテリアは、石や成形材をドレープやプリーツのように曲げ、空間全体でファブリックのような柔らかさを表現。コンセプトを体現する外苑通り側の吹き抜けでは、積層する壁面に間接光を追従させ、リボンの帯が包むようにフロア全体に一体感をもたらしている。
また、木々と太陽光の関係から導いた光のシークエンスの他にも、“自然現象”を彷彿させる照明演出が散りばめられた。街のメインダイニングとなる3階の飲食フロアでは、「風」「光」というインテリアのテーマが設定され、光の効果を用いて二つのテーマを可視化。ゲストを奥へと誘う仕掛けが作られている。
外苑東通り側の「風」エリアでは、天井に連なる木ルーバーの間に、床と並行になるようスポットライトが配された。ルーバーを照らす光は通常は常点だが、シーンコントロールによって一定時間フェードインフェードアウトを繰り返し、まるで風のように流れていく。「光が消えゆく様を、風が通り抜ける瞬間として捉えました」と田中氏。あくまで上質に、騒がしくならないように、30分間隔に30秒程かけて静かに光が移ろう設計となっている。
中央広場側の「光」をテーマにしたエリアでは、折り上げた天井の奥に凹凸の付いた鉄板を設置。手前から光を照射し、反射光による水面のようなきらめきを天井面に映している。ここでは、外光の移ろいに合わせて調色も加えられた。田中氏は「飲食店が立ち並ぶ3階は、商業施設らしく最も密度を高めたフロアでした」と話す。
また、昼夜問わずに多様な目的の人々が訪れる施設であることから、サーカディアンリズムに基づいた光を建物内部にも採り入れるため、1日6つのシーンを設定。「移ろう光」を時間軸においても落とし込み、自然の営みに寄り添った光環境としている。
「一日の中で、朝には爽やかな白い光が差し込み、日中は太陽が高い位置に昇り、夕方にかけて光の重心が下がるとともに温かみを帯びていきます。当たり前に毎日享受している太陽の光こそ実はとても贅沢で、私たちが人間らしい生活を送ることができる源ではないかと思うのです」(田中氏)
地下鉄から繋がった立地であり、営業時間が異なる店舗が吹き抜けを介してオープンになっているため、施工中は現場に通い詰めてシーン調整に時間を費やしたという。季節によって変化する日の出・日の入りの時間、太陽の高さに対応するように細やかなシーンコントロールが組まれている。「老若男女集まる複合的な施設において、“光の移ろい”をここまで完終できたプロジェクトは多くはありません」。
プロジェクトを振り返り、「様々な人が関わる中で、コミュニケーションを取り意思の疎通を図ることに注力を注ぎました」と田中氏。吹き抜けは特に、光源が露出しないよう工夫を凝らした。設計段階から施工時まで各工程で微調整や工夫を重ね、美しいディテールと心地良い光を生み出しているのだ。クオリティーの高い空間が立ち上がった背景について、森ビルの理解やマスターアーキテクトが示した指針、更には携わった人々の想いなくしては実現しなかったという。
従来のような装飾的できらびやかなラグジュアリーではないが、より本質的で人に寄り添う光だからこそ、街に溶け込みながら同時に賑わいも創出されているのだろう。
「この空間で過ごす時間が、ふとした瞬間に心地が良く感じ取ってもらえたら嬉しいです。人に寄り添う光、光の移ろいというのも本来そうあるべきだと思うのです。照明デザイナーとしての職務を突き詰めることができたプロジェクトでした」(田中氏)
これまで装飾的な非日常が求められてきた商業施設において、転換点の一つとなるのではないだろうか。

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