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あらためて自分の好きな光について考えてみると、傾向が見えてきました。照明そのものというより、障子越しの光であったり、隣の部屋から漏れてくる光であったり、奥行きや気配を感じさせる光の現象が好きなことに気付きました。
広島・尾道にある「LOG」というホテルでは、ベッドスペースと縁側の間を障子で仕切っていて、柔らかで穏やかな光が一面の光壁となって、室内を満たします。客室に入ると、繭のような優しい自然光に包まれる。そのようなゲストの迎え方が素晴らしいと感じました。
秀逸なのが、窓に銅製の網戸が差し込まれていること。それによって、夕陽のようなオレンジ色の光がにじみ、グラデーションとなって障子に映し出されます。壁面まで和紙貼りのミニマルな空間で、変化し移ろう光に意識を向けることで、静かな気持ちになれる。東洋的な光のあり方だと思います。
ホテルでは、眺望などの外に意識を向けたり、人工的な照明の力に頼ったりしがちですが、幾重にもレイヤーを重ねることによって、自分の内側に目を向ける、穏やかな空間が出来上がっていて、見事だと思いました。
もう一つの例はロンドンのホテル「Nobu Hotel London Shoreditch」です。シャワールームとベッドルームの間にスリット窓が設けられ、磨りガラス越しにシャワールームの光がもれてくる。裏の空間を照明器具として使っているわけです。こうした空間のつながりや人の気配を感じさせる光の使い方が好きです。夜道を歩いていても、家の明かりを見ると、ほっとするでしょう。光には人の活動や温かみを感じさせる効果もあると思います。
自分が設計する際も、照明器具で空間を照らすというよりも、光によって空間のつながりを感じさせることを意識しています。長崎の五島列島にある「Hotel Aoka Kamigoto」は、リノベーションプロジェクトですが、あまり形も状態も良くない既存の窓の前に一枚壁を立て、小さな開口部を設けました。オレンジに着色した型板ガラス越しに、五島の教会群に見られるステンドグラスのような光が生まれています。
また、京都のホテル「MALDA」では、水まわりの壁面をフロストミラー、ドアをフロストガラスにしました。ドアからは柔らかな光が漏れ、象徴的な左官壁は質感が変わって霧の中に続いていくかのような、不思議な現象をつくり出しました。
ホテルというのは、どこか非日常性が求められるもの。光は、ゲストを普段とは違う空間の感じ方へと導く、最も重要な要素であると思っています。〈談〉
長崎市生まれ。東京理科大学工学部建築学科卒業、同大学院修了。英国立シェフィールド大学大学院修了。都市デザインシステムを経て、2016年バカンス設立。主な仕事にMALDA Kyoto(2018)、Hotel AOKA Kamigoto(2019)など。