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ON TREND
vol.2「ウェルビーイング」

2022.11.30
ON TREND<br>vol.2「ウェルビーイング」

「ITOKI TOKYO XORK」(東京・日本橋)のマインドフィットネスルーム。社員が瞑想やヨガなどに使える。

SDGsゴールの一つ

ウェルビーイング(Well-being)は、1946年の国際保健機関(World Health Organization:WHO)設立時の憲章にある前文で触れられた健康の定義*1から引用された言葉だ。すなわち、身体的にも精神的にも社会的にも万全で良好な状態を指す、とされている。出所は70年以上前の言葉だが、近年、様々なところで耳に入るようになった。2015年に国連サミットで採択された、SDGs(持続可能な開発目標)の17のゴールの一つに“Good Health and Well-being”*2が挙げられていることが、影響として大きい。国内の企業でもいわゆる健康経営*3を取り入れた経営方針や企業理念を掲げ、実践しているところが増えてきた。少子・超高齢化社会を迎えた現在、労働力確保や医療費削減につながるこうした動きを国も推進しており、2021年には「Well-beingに関する関係省庁連絡会議」を設置し、省庁を越えた取り組みを進めている。

イトーキ本社オフィス
「ITOKI TOKYO XORK」はABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)とWELL認証をベースにデザインされたイトーキの本社オフィスだ。

見過ごせない認証制度の登場

こういった流れの中で、建築・空間の設計に関連して注目されているのが、「WELL認証(WELL Building Standard®)」だ。米・NYの建築・設計におけるウェルネスに特化したコンサルティング企業、DELOS社が2014年に考案し、PBC(パブリック・ベネフィット・コーポレーション)であるIWBI(International WELL Building Institute)が運営する空間の評価制度である。日本では、一般社団法人グリーンビルディングジャパンが各種資料などの翻訳や啓蒙を進めていて、同法人のウェブサイトでは詳細に紹介されている。

空間における人のウェルネスに着目し、医学的・科学的エビデンスに基づいて、建築や街区など空間そのものを測定、評価し、認証する仕組みだ。評価対象は実に多岐に渡っている。具体的には、空気、水、食物、光、運動、温熱快適性、音、材料、こころ、コミュニティー、イノベーションの11の評価項目がある(WELL v2の場合)。それぞれに満たすべき必須の要素と、評価の際の加点要素となる項目が定められている(非住宅と住宅で評価内容は分けられている)。

照明が関連する「光」の項目について、少し詳しく記すと、必須項目は、「光暴露」と「ビジュアル照明デザイン」の二つだ。光暴露は、外光を採り入れ、それをしっかり浴びられる配置や構成、ビジュアル照明デザインは加齢や作業内容などに応じて、多様な人の明視性に配慮した照明計画を促している。加点項目には、「サーカディアン照明デザイン」「人工照明のグレア制御」「昼光の設計戦略」「昼光のシミュレーション」「視覚的バランス」「人工照明の質」「入居者による照明制御」の7項目が挙げられている。

「光」の項目に限らず、WELL認証では、建築環境工学の観点における快適性や素材等の評価以上に、医学的な観点、根拠に基づいた評価項目が多い。

WELL認証ゴールドを取得した「ITOKI TOKYO XORK」において、照明設計にあたったサワダライティングデザイン&アナリシス(SLDA)の澤田隆一さんは、「WELL認証を優先した照明設計をすると、例えば省エネ効果と離反してしまうことが起こり得る。評価内容も更新を続けており、まだ、様々な知見を集約している過程にあるのだろう。何でも全部取り入れるというよりも取捨選択が必要だ。もちろん、医学上根拠のある、空間の利用者にとっては利点の多い内容なので、一つの指標として利用するのは大いにありだ」と話している。

大和ハウスグループ みらい価値共創センター
SLDAが照明設計を手掛けた「大和ハウスグループ みらい価値共創センター」(奈良)もWELL認証でプラチナランクを得た。(写真引用元:グリーンビルディングジャパンのウェブサイトより)
WELL認証を取得した「ITOKI TOKYO XORK」をもっと詳しく知る

空間の“健康度”を踏まえた設計

国内ではすでに18の建築プロジェクトがWELL認定を取得している(2022年8月現在)。先の「ITOKI TOKYO XORK」のような内装メインのプロジェクトもあれば、「GOOD NATURE HOTEL KYOTO」といった商業施設も含まれている。現状はオフィスや研究所などが多いようだ。

また、WELL認証に限らず、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)にも「CASBEEウェルネスオフィス評価認証」があり、“空間の健康度”というものが設計上無視できない時代が来つつある。

元々、飲食店やホテルなどは、照明も含めたインテリアデザインでより上質なものを目指せば、人に優しい、居心地の良さをつくり出すのは前提条件とも言える。ウェルビーイングでいう、精神的、社会的に満たされた状態をデザインでサポートできる。その流れは、かつては機能や管理上の利便性が優先した、オフィス・ワークプレイスあるいは医療・福祉施設などにも広がっているのは周知の事実だ。そうしたデザインの傾向とともに、エビデンスに基づいた国際的な認証や指標の導入が、同時進行的に設計環境に訪れていると考えていいだろう。

GOOD NATURE HOTEL KYOTO
「GOOD NATURE HOTEL KYOTO」(京都)はホテルとして世界初のWELL認証取得だ。(写真引用元:大林組プレスリリースより)

*1:Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity. (健康とは、単に病気や虚弱な状態ではないということではなく、身体的、精神的、そして社会的に万全で良好な状態であることだ)
*2:Ensure healthy lives and promote well-being for all at all ages (あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する)
*3:「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること(経済産業省ウェブサイトより引用。https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei.html

WELL認証の評価項目のひとつ「等価メラノピック照度」とは?

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