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ABWとWELL認証を軸とした新世代オフィス 「ITOKI TOKYO XORK」

2022.11.30
ABWとWELL認証を軸とした新世代オフィス 「ITOKI TOKYO XORK」

エントランスから続くエリアは、キッチンも備えカフェのような雰囲気だ。取引先など他社の人たちが使えるスペースもある。

空間デザインという視点で、今、最も変化の大きいカテゴリーはオフィス、ワークプレイスではないだろうか。近年、ITCが一定程度に普及、ペーパーレスやオンラインの仕事が一般的となり、PCが使える環境という条件を満たせば、様々な部分が自由となった。ワーカーの創造性とコミュニケーションをより高めるための工夫が重視され、多様なスタイルが認められるようになっている。そこに加え、コロナパンデミックが更に状況を突き動かした。リモートワークが浸透し、オフィスに集まる意義やワークプレイスの価値自体が多くの企業で見直されている。
転換期とも言えるオフィスデザインにおいて果たして照明はどう変わっていくか。ここでは「ITOKI TOKYO XORK(イトーキ・トウキョウ・ゾーク)」を取材した。

ABWを取り入れた新時代のワークプレイス

「ITOKI TOKYO XORK」(以下XORK)は、2018年にイトーキが東京の4拠点を移転・集約し、次世代のオフィス環境を具現化したもの。当時再開発を経て竣工したばかりの「日本橋髙島屋三井ビルディング」の3フロアに渡って開設され、およそ850人が勤める(ただし、コロナ禍を経て、現在は出社率20〜30%とのこと)。オフィス家具を中心に、時代に応じた働く環境づくりやオフィスの空間デザインを手掛ける同社による、様々な提案と実践が取り込まれている。

「XORK」の設計にあたったイトーキのワークスタイルデザイン統括部・星幸佑さんに案内いただいた。「当社は、“イトーキ健康経営宣言”として、従業員の健康づくりを経営方針に取り入れています。また、自己裁量が大きい働き方は生産性実感も高い、というデータに基づいて、ワーカーを信頼し、自己裁量高く働き方を選べるABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)を推し進めています」。同社ではABWを創設・提唱したオランダのコンサルティング企業、「Veldhoen + Company」と業務提携し、ABWに基づいたサービスや提案・デザインをしている。

「XORK」ではもちろん、ABWをベースに設計し、ワークプレイスで行われる10の活動(アクティビティ)の割合に応じた空間構成がなされている。いわゆるフリーアドレスで固定の自席は原則ない。従業員の働き方を行動分析したデータを元に、「XORK」への移転にあたって「ソロワークからコラボレーションの割合を高めようとした」(星さん)。また運用上、空間の専門性を高めるために単目的化し、例えば会議室を社内ミーティング、グループディスカッション、プレゼンテーション、訪問客の応対など多目的に使うのではなく、空間自体を専門特化させ、それに応じた設えやデザインを施している。

ミーティングスペース
プレゼンテーション用に特化したミーティングスペース。

ワーカーのウェルネスを高める仕組みを採用

もう一つ、「XORK」の軸となっているのがWELL認証(WELL Building Standard®)だ。米・DELOS社が考案し、IWBI(International WELL Building Institute)が運営する空間評価制度で、人のウェルネスに着目し、医学的・科学的エビデンスに基づいて、建築・空間そのものを評価、認証する。評価対象は一般的な空間の快適性や素材に留まらず、空気や水、音、光など多岐に渡る。「XORK」は認証レベルでゴールドを取得した。「(設備や天井高などの仕様が決まっている)テナントフロアで実現するのは設計上、非常に苦労しました。ただ、WELL認証はABWと親和性の高い制度だと思います」と星さんは話す。

継続的に行っているアンケートでも、「XORK」への移転後は社員の満足度は高いという。「新しいオフィスへの移転・リニューアル直後はハロー効果もあって満足度が高くなりがちですが、時間に応じて下がっていきます。ここはなかなか下がらない。『花粉症が収まる』なんて意見もありました」(星さん)。

多様な場所が用意されるフロアにおいて、アームで自由に動かせるモニターや上下昇降するデスクなど、自分でコントロールできる環境が特に好まれている。また、ワーカーのモビリティー(移動頻度)が向上し、より多様なアクティビティが生まれ、結果として能動的、主体的に仕事ができていることもデータとして出ているという。

集合デスクエリア
システム天井のベースライトは控えめで、独自の照明を入れた集合デスクがあるエリア。

次代のオフィス照明の行く先は

先述したように「XORK」はテナントフロアのため、照明は標準の600角グリッドのシステム天井を生かしつつ、場所に応じた変更や調整をすることで対応している。ベース照明のグレアを抑えたり、ダウンライトを足したり、あるいは人の集まるエリアにはランプ露出型の器具でメリハリを付けるなどもしている。基本的にフロア全体にワイアレスの調光制御システムが入っていて、用途に応じてベース照明だけを消すなどの運用も可能だ。

「XORK」の照明設計を担当したサワダライティングデザイン&アナリシス(SLDA)の澤田隆一さんは「イトーキさん側でやりたいことが明確だったので、技術的なフォローのためにエンジニアリングするという立場でした。WELL認証もあって数字的にきっちりやる必要がありましたので。意匠照明も空間のデザインから決まっていて、僕らは主に環境をつくる光を考えました」と話す。WELL認証ではグレア制御や調光制御、自動遮光など、項目によって対応できる部分を整備している。

星さんは「アクティビティに応じた空間や場所がそれぞれつくられることで、照明計画も目的がはっきりする。光を場所によって変える必要性が出てきます。やはり、光を変えないと人の行動や気持ちが切り替わらない。『XORK』になってから、人の所作や意識を変えるというのは本当に難しいというのを実感しました」と言う。

人の感覚には“慣れ”が生じ、家具や造作だけでは仕事のスタイル、内容に応じて、気分やモチベーションを上げにくいのが現実だ。照明はその部分で貢献できるという。「XORK」では、リニューアルや更新もしており、集中して個人ワークのできるエリアでは、新たにタスク&アンビエントの照明を徹底した。洗練された空間デザインと相まって落ち着いた雰囲気だ。「とても人気のあるスペースですし、実際にかなり集中して仕事ができていると思います」(星さん)。

現在、オフィスの調光やゾーン制御などは、「省エネ目的で留まっている。もっとユーザー、ワーカー目線でパーソナライズできる照明がABWのオフィスには必須」と星さんは空間デザイナーの立場としても考えている。空間の多様化に合わせて、照明の多様化もオフィスには求められているのだ。

「従来のオフィス照明は、生産性という考え方が明視性だけを重視した工場と同じなんですね。だからまず一様に明るくする。今後、ユーザー(企業・ワーカー)のニーズが多様化していけば、ビルのオーナーの認識も変わらざるを得ないし、例えばシステム天井の照明もよりフレキシブルなものに変わっていく。そういう兆しは感じています」と澤田さんは実感しているようだ。

集中エリア
リニューアルでできた集中エリア。照明はタスク&アンビエントで統一され、ダウンライトは動線部分しか点いていない。
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