光源を隠し、光だけを抽出して見せる間接照明は、ぎらぎらした眩しさを抑えながら、照明本来の目的である明るさをも満足させることができます。光源が点や線であるのに対して、反射面にバウンドさせたり適切に照射された間接照明の光には、広がりときめ細やかさがあります。いわば満たすような明るさの、人の目にやさしい光。被照射面が発光しているかのように見えるため、体感的・視覚的にも明るい印象をもたらします。

デザイン的な見せ場である天井の高さや空間の広がりは、光を加えることで一層ダイナミックさを発揮します。和室から眺める庭や洞窟から望む外の景色のように、今いる場所との対比によって、照らし出された空間のスケール感や開放感はより大きく感じられるもの。光の抑揚が空間の魅力を増幅するのです。

立ち込めた霧が日差しをまろやかにするのに似て、間接照明の拡散した光で空間をつくると、やわらかく心地よい曖昧さが生まれます。方向性のない光がいろいろなところから回り込み、陰影のコントラストは弱まって、光に包まれているようなニュアンスに。明暗がくっきりしたドラマチックで緊張感のある空間とは真反対な、ふんわりとした角のない空間のイメージです。

光の効果のひとつとして、被照射面のテクスチャーや素材感を際立たせることができます。ふんわりと照らす方法、凹凸をしっかり見せる方法など、見せたい対象によって手法も異なります。相性が良いのは、左官仕上げやランダムな刷毛目を残した塗装仕上げなど、有機的な凹凸があるもので、これらは光によって美しい陰影を刻みます。

被照射面をどう照らし出すかだけでなく、どのように影へとフェードアウトさせるのかが、実は間接照明における設計の腕の見せ所。このニュアンスにセンスが問われます。照度差の少ない終わり方なら、ミルクのようなまろやかなイメージに。逆に照度差をシャープにつける方法なら、間接光のやわらかさの中にもクールで洗練された空気感が演出できます。 どちらも美しいことが基本。光の強さや被照射面のサイズを考慮しながら、適正なグラデーションを意図してつくりましょう。

たとえば、廊下や回廊をたどった先の壁、上っていくときの天井、階段を降りきった足元に広がる床。移動していく先が明るく照らされていれば、ワクワクとした期待感や高揚感が高まります。光源が見えず、空間の一部だけが照らし出されていることで奥行きが生まれ、気持ちをも誘い込むのが間接照明の魅力のひとつです。そしてその灯りは、さらに次の場所につながる効果的な光であるべき。部分をどう演出するかだけでなく、空間全体として光のストーリーをどう組み立てるのか。人の動きと連動した照明計画であればおのずと空間デザインとも共鳴し、そこでの空間体験は素晴らしいものになるはずです。