照明設計術:健康を維持する光
目次
光で睡眠を促し疾病を防ぐ
「健康と光」の密接な関係
POINT1:日中の光で認知症やうつ病のリスク軽減
POINT2:夜間の光は動脈硬化のリスクを高める可能性がある
POINT3:夜間の光は肥満にも影響する
「健康を維持する光」実際の空間事例
夜と朝の光で体内リズムを整える:「誠賀建設 タインデザイン モデルハウス」
気分を転換できる光:「NSKワーナー 本社工場 A1棟食堂」
光で睡眠を促し疾病を防ぐ
適切な時間に適切な量の光を浴びないと、体内リズムが乱れ、睡眠を促すホルモンであるメラトニンが正常に分泌されなくなる。その影響で、癌や不眠症、うつ病、認知症、高血圧、糖尿病といった、さまざまな疾患や健康リスクを引き起こす可能性があるといわれている。日中に適切な明るさの光を浴びることは、認知症やうつに対するリスクの軽減にもつながることや、夜間に浴びる光によっては、動脈硬化や肥満のリスクを高めることも分かってきている。光の調整には、スケジュール機能やシーン設定のできる照明を使えば、時間に合わせて自動で最適な光を提供してくれる。
「健康と光」の密接な関係
POINT1:日中の光で認知症やうつ病のリスク軽減
日中に光を浴びると、認知症やうつ病のリスクを減らせることが最近の実験で分かってきた。高齢者に異なる照度の光(300lxと1,000lx)を午前9時から午後6時まで浴びてもらう実験を行った。その結果、数年後の認知機能とうつ症状に対して有意な差があった。300lxの光を浴びた場合に比べ、1,000lxの光を浴びた場合、認知症とうつ症状が軽減されたという(参考論文1)。細かな照度の調整は難しいこともあるため、スケジュール機能と照度などのシーン設定ができる照明器具を用いるとよい。
日中に高い照度の照明に当たることで、認知症とうつ症状になるリスクが軽減されることが分かった。
POINT2:夜間の光は動脈硬化のリスクを高める可能性がある
動脈硬化は、血管の厚みが増してくること(アテローム性動脈硬化)で、さまざまな疾患を起こす“危険因子”である。主に血管系の酸化ストレスに関連する慢性炎症によって引き起こされる。睡眠のホルモンであるメラトニンは抗酸化作用があるが、夜間の寝室で浴びる光がメラトニンの分泌を妨げることで動脈硬化のリスクを高める可能性がある。高齢者に対して夜間の寝室の照度によって4つのグループ(※1)に分け、頸動脈内膜中膜の厚さを測定・分析した。結果は、高い照度を浴びているグループ(中央値 9.3lx)では血管の厚みが増し、頸動脈のアテローム性動脈硬化が進行していた。この夜間の光によるリスクは、年齢、肥満、喫煙、経済状態、高血圧、糖尿病などのこれまでに知られている動脈硬化誘因リスクとは別に、新たに報告されたものである(参考論文2)。*1:0.1lx未満、0.1lx以上0.7lx未満、0.7lx以上3.5lx未満、3.5lx以上の4グループ
夜間に浴びる照度が高い人ほど、頸動脈のアテローム性動脈硬化が進行していた。
POINT3:夜間の光は肥満にも影響する
糖尿病や動脈硬化などのリスク要因である肥満。その肥満に夜間の光が影響しているといわれている。一般的に夜間の光は睡眠の質の低下につながり、睡眠不足は食欲抑制ホルモンであるレプチンのレベル低下と、食欲を増進させるホルモンであるグレリンのレベル上昇にも関連している。夜間勤務者に肥満や脂質異常症が多く、心血管疾患のリスクが高いことも報告されている。実験で高齢者が浴びている夜間の照度を測定したところ、照度が平均3lx以上(中央値8.71lx)であるグループと平均3lx未満(中央値0.4lx)であるグループとでは、前者のほうが肥満症の発症割合が約1.9倍、脂質異常症の発症割合が約1.7 倍高いことが分かった(参考論文3)。
夜間の平均照度が高いと、肥満症の割合が約1.9倍、脂質異常症の割合が約1.7倍も違う。*2:肥満はBMIが25以上
「健康を維持する光」実際の空間事例
夜と朝の光で体内リズムを整える:「誠賀建設 タインデザイン モデルハウス」
人の生活リズムや体調に合わせて照明を整えることで、ウェルネスな暮らしを提案したモデルハウス。寝室には「Synca」を間接照明として設置。体内リズムに合わせて調光・調色を行っている。夜は色温度1800Kのほのかな明かりにすることで、落ち着いた空間に。睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンを正常に分泌、快適な眠りへと導く。朝は、心地よい目覚めを促すために、徐々に明るくなるよう設定されている。
「Synca」を使えば、朝焼けから徐々に明るくなるフェード設定を行える。光が急に切り替わらないため、ストレスを感じずに良質な起床を促す。
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気分を転換できる光:「NSKワーナー 本社工場 A1棟食堂」
工場における社員食堂は、勤務中自由に外出しにくい従業員にとってホッとできる環境であってほしいもの。それを実現するうえで照明の力は欠かせない。「NSK
ワーナー 本社工場 A1 食堂」は、24時間稼働の社員食堂。時間帯によって光の質を変え、社員が気分転換できるよう、次世代調光調色「Smart LEDZ」を採用。トップライト照明やペンダントライトを適所に配している。
11時~14時の昼食時は、色温度4200Kの温かみのある空間に。Duv-3で赤みをプラスすることで、食材をよりフレッシュに見せるとともに、人の顔も健康的に見せている
「NSKワーナー 本社工場 A1棟食堂」事例詳細はこちら
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[参考論文一覧]
1:Riemersma-van der Lek RF et al. (2008) Effect of Bright Light and Melatonin on Cognitive and Noncognitive Function in Elderly Residents of Group Care Facilities: A Randomized Controlled Trial. JAMA. 299, (22), 2642–2655.
2:Obayashi, K. et al. (2019). Indoor light pollution and progression of carotid atherosclerosis: A longitudinal study of the HEIJO-KYO cohort. Environment International, 133B, 105184.
3:Obayashi, K. et al. (2013). Exposure to Light at Night, Nocturnal Urinary Melatonin Excretion, and Obesity/Dyslipidemia in the Elderly: A Cross-Sectional Analysis of the HEIJO-KYO Study. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 98, 337–344.
Writerヒカリイク編集部
『ヒカリイク』は、人と光に向き合うデザイン情報サイトです。これからの空間デザインに求められる照明の未来から、今すぐ使えるお役立ち情報まで、照明についてのあらゆるニュースをお届けします。
サーカディアンリズムプランニング照明照明計画照明設計照明設計術
照明設計術:あえて「明るさを落とす」という選択
目次
ゆったりと過ごすために必要な光
「ゆったり過ごせる」空間の照明設計術
POINT1:くつろぎには低い色温度が最適
POINT2:間接照明でネガティブな気分を軽減
POINT3:明るい空間だけが「快適」ではない
「ゆったりと過ごせる光」実際の空間事例
心地よい“暗さ”のある明かりの設え:「松本本箱」
シーンにあわせてくつろぎを演出:「TSUTAYA 田町駅前店」
ゆったりと過ごすために必要な光
空間の明るさを損なわず、落ち着いた雰囲気を出すためには、光源が見えない間接照明を用いるとよい。たとえば、ゆったりと過ごすリビングでは、低色温度の間接光で空間を演出すると効果的である。さらに、低色温度の間接光は疲労感を感じにくいとの報告も示されている。そのため、不安やストレス、疲労を感じている人が多いクリニックの待合室や休憩室などでは、低色温度の間接照明を使うとよいだろう。
一方で、オフィス空間で精力的な活動を促したい場合は、直接照明(ライン型)を使用するなど、用途やシーン、時間に合わせて光を使い分けるとよい。
「ゆったり過ごせる」空間の照明設計術
POINT1:くつろぎには低い色温度が最適
「リビングのソファで過ごす」といったくつろぎの空間をつくる際は、低い色温度、低い照度が効果的である。団らんにおいても低い色温度が適しているが、照度はくつろぎよりも高めのほうがよい。
年齢別の実験結果では、若年層は高齢層に比べ低い色温度が、くつろぎに適していると感じることが分かっている。ちなみに、高齢層はくつろぎと団らんについては色温度よりも照度に依存しているようである(参考論文1)。
若年層と高齢層に共通するくつろぐ(青点線)と団らん(赤点線)に適した照明条件の共通範囲を示した。くつろぐには低めの照度が、団らんには高めの照度が適していることが分かる。
POINT2:間接照明でネガティブな気分を軽減
高照度(780lx~1,500lx)の直接照明(ライン型)よりも、壁で光が拡散される低照度(75lx)の間接照明のほうが、不安、ストレス、疲労感といったネガティブな気分をより軽減することが報告されている。加えて、高色温度(6500K)よりも低色温度(2700K)のほうがネガティブな気分を軽減する(参考論文2)。
一方で、高照度の直接照明は色温度によらず(3000K~6500K)、活力、快適さ、満足といったポジティブな気分をより高めることができる。疲労を感じたときや緊張感を和らげたいとき、ストレスが溜まっているときは低色温度の間接照明の空間で、精力的に活動したいときは直接照明の空間で過ごすとよい。
POINT3:明るい空間だけが「快適」ではない
食卓では明るい照明が快適だと思われやすい。JISの照度基準でも“明るい”照明が求められてきた(300lx~500lx程度)。しかし実際には、“暗くても快適な”照度の範囲がある。団らん、くつろぐ、飲む、食べるなどの行為を行う空間で、色温度3000Kの間接照明とスポットライトを組み合わせる場合は、テーブル面で75lx程度、スポットライトのみの場合は150lx程度あれば暗いと感じながらも快適に過ごせることが分かった(参考論文3)。
調光・調色できる照明を採用すれば、日中の食事では高照度の明るくはつらつとした食卓を、夕食は低照度の落ち着いた空間を提供することができる。
「ゆったりと過ごせる光」実際の空間事例
心地よい“暗さ”のある明かりの設え:「松本本箱」
創業300年の歴史をもつ老舗旅館「小柳」をリノベーションし、ホテル・レストラン・ブックストアなどを複合的に展開。その1つである「松本本箱」は、書店やレストランを併設したホテルである。設計はSUPPOSE DESIGN OFFICE 吉田愛さん・谷尻誠さんが手がけた。コンクリートやブロック、天井のデッキプレートなどはあえて剥き出しとし、素材そのものの表情を生かした設えになっている。
1階レストランは、φ40×100㎜のミニマルなスポットライトで、3000K・200lxのほの暗い空間を演出した。写真:Kenta Hasegawa
「松本本箱」事例詳細はこちら
シーンにあわせてくつろぎを演出:「TSUTAYA 田町駅前店」
サラリーマンや学生、主婦など多種多様な人が行きかう東京・田町駅の目の前に立地する「TSUTAYA 田町駅前店」。244.9㎡の1階には書店とカフェを併設。165㎡の2階はラウンジがメインという贅沢な空間構成となっており、読書や仕事、勉強など思い思いにくつろげる。1階と2階それぞれに無線調光システム「Smart LEDZ」を採用し、調光・調色によってさまざまな使い方ができる空間に仕立てている。
2階ラウンジ。店内の賑わいや雰囲気がガラスファサード越しに外から見えるように照明を計画。夜は、温白色3500K・調光率90%で照らしている。
「TSUTAYA 田町駅前店」事例詳細はこちら
お役立ちBOOK『照明知識』では、本記事内容に加えて、多数の照明設計術を立体イラスト付きでご紹介しています。
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[参考論文一覧]
1:大江由起・井上容子・丹後みづき(2020)「住空間における年齢と生活行為を考慮した照明に関する研究」『日本建築学会環境系論文集』, 85, (776), 725-732.
2:Mingyeh Hsieh (2015). Effects of Illuminance Distribution, Color Temperature and Illuminance Level on Positive and Negative Moods, Journal of Asian Architecture and Building Engineering, 14, (3), 709-716.
3:小﨑美希・楊柳青・平手小太郎(2017)「飲食空間における快適な暗さに関する研究」『日本建築学会環境系論文集』, 82, (735), 425-433.
Writerヒカリイク編集部
『ヒカリイク』は、人と光に向き合うデザイン情報サイトです。これからの空間デザインに求められる照明の未来から、今すぐ使えるお役立ち情報まで、照明についてのあらゆるニュースをお届けします。
プランニング照明照明計画照明設計照明設計術間接照明
観葉植物がオフィスでも育つ照明とは? バイオフィリックデザインに必須の光環境に迫る
目次
はじめに:植物の生育に必要な「明るさ」と「波長」
実験:「葉や茎の成長」に適した光、「光合成」に適した光とは?
結果1:「葉や茎の成長」に適した光色はこれだ
結果2:「光合成」に適した光色はこれだ
まとめ:観葉植物にとって理想の光環境
はじめに:植物の生育に必要な「明るさ」と「波長」
植物の生育に必要な「明るさ」
観葉植物を室内に設置する場合、植物の生育の観点では、植物に向けてスポットライトなどを照射して「約2,000lx」の明るさを確保することが理想的だと言われている。一般的なオフィスの机上面に求められる明るさが約750lxであることを考慮すると、植物に対してはその3倍近くとなる高い照度が必要とされる。
植物の生育に必要な「波長」
葉や茎の成長に必要とされるのは、400~500nmの波長を多く含む青い光だと言われている。一方で、光合成に必要なのは、600~700nmの波長を多く含む赤い光だと言われている。青い光と赤い光、どちらの波長も植物の生育には欠かすことができないのだ。
実験:「葉や茎の成長」に適した光、「光合成」に適した光とは?
上述の通り、「葉や茎の成長」と「光合成」では、求められる波長すなわち光色が異なるようだ。
今回の実験では、光色と明るさが異なる6つの照明条件を用意し、「葉や茎の成長」と「光合成」それぞれに対して、光色がどれだけの影響を与えるのか確かめてみた。
実験方法
以下の条件で植物を照射し、約一か月半後の葉や茎の育成状態を評価した。
植物の種類:エバーフレッシュ
使用照明:調光調色LED照明「Synca」
照明条件:3つの光色(5,000K、カラーライティングの赤色、12,000K)と2つの明るさ(750lx、2,000lx)を組み合わせた計6条件
期間:2022年2月1日~3月15日
点灯時間:8:00~17:00
結果1:「葉や茎の成長」に適した光色はこれだ
まず、「葉や茎の成長」のみに着目した結果をご紹介しよう。
白い光(5,000K)と赤の光では、低照度(750lx)で葉や茎の徒長(※1)が見られ、高照度(2,000lx)では大きな変化がなかった。一方で、青い光(12,000K)では、低照度でもしっかりと葉や茎が伸長し、落葉もほとんど見られなかった。
したがって、青い光(12,000K)であれば葉や茎の成長につながる光を効率的に確保できるため、2,000lxより低い照度に抑えても、他の光色の2,000lxと同等の効果を得られる可能性があることが確認された(※2)。
また、変化なしの高照度の白い光(5,000K)も一見良いように思えるが、成長しない状態は植物にとって不自然な状態であり、将来的に生育不良に陥る可能性も考えられるため、今回は△の評価を付けた。バイオフィリックデザインの醍醐味とも言える、植物の成長を実感できる喜びが得られないという心理的な要因もある。
※1:徒長とは、不足した光を求めて葉や茎が伸びること。ヒョロヒョロとして見た目が悪い上に、害虫などに対する抵抗力も弱く、葉を落とすこともある。
※2:植物の樹種や個体差により結果が異なる可能性がある。
結果2:「光合成」に適した光色はこれだ
次に、「光合成」に着目した結果をご紹介する。ここでは、いずれの光色でも徒長が見られなかった2,000lxの明るさで、光色ごとに水分量(※3)を評価した。
※3:植物は光合成によって水を循環させることから、吸収された水分量から光合成の活性度を測った。
吸収された水分量は、「青い光 < 白い光 < 赤い光」と、赤の波長が多い順に並んでおり、光色が赤いほど活発に光合成が行われた(※4)。
※4:植物の樹種や個体差により結果が異なる可能性がある。
まとめ:観葉植物にとって理想の光環境
本実験によって、以下のことを確認することができた。
白い光のみで育てた植物は、枯れはしないが、高照度(2,000lx)でも成長しない
青い光は葉や茎の成長を、赤い光は光合成を促す。
植物には、白い光だけでなく、植物の成長を促す青い光と赤い光が必要。
一般的に、オフィスは太陽光が入りにくく、植物を育成するには過酷な環境であることが多い。
また、通常の白色光の場合、2,000lxという強い光を当てても、実験期間中は成長が見られなかった。もし今後成長が見られたとしても、2,000lxの白い光は、オフィスの視環境としては明るすぎる。
バイオフィリックデザインは、植物が成長する楽しみも重要な要素のひとつである。そのため、バイオフィリックデザインをオフィスに導入する場合は、植物の成長を効率的に促す、赤い光と青い光が出せる調光調色機能付きの照明器具を導入すると良いだろう。
また、植物の成長を促す青い光は低照度(750Lx)でも高照度(2,000lx)と同様の効果を発揮したため、青い光は照度を下げるなどの工夫をすれば、植物を育成しながら省エネを両立できる可能性もある。
今回は、オフィスでバイオフィリックデザインを取り入れる際の光環境についてお伝えした。植物について少しでも理解を深めたうえで、室内でも人と植物が共存できる光環境を取り入れてみてはいかがだろうか。
オフィスバイオフィリックデザイン照明調光調色