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「青山フラワーマーケット ティーハウス」グリーンのある空間と照明は10年間でどう変化したか

2022.11.30
「青山フラワーマーケット ティーハウス」グリーンのある空間と照明は10年間でどう変化したか

壁面と天井を覆うみどりに包まれるカフェ「ティーハウス」。植物の葉の合間から木漏れ日が差す。日中は自然光と同じように色温度や照度が変化する。

花とみどりに溢れたフラワーショップ、「青山フラワーマーケット 南青山本店」に隣接するカフェ「青山フラワーマーケット ティーハウス 南青山本店」(以下、ティーハウス)。今春、本店の移転リニューアルに伴い、従来のコンセプトは踏襲しつつ、最新の照明技術を取り入れて、新しく生まれ変わった。頭上までみどりに包まれた温室のような空間は、透明感ある光によって、みずみずしさが際立つ。実は、約10年前に誕生したカフェ「ティーハウス」は、みどりを取り入れた空間デザインブランド、parkERs(パーカーズ)の原点であり、バイオフィリックデザインの先駆けともいえる場所。「ティーハウス」のストーリーを振り返りながら、10年間のみどり空間の進化を聞いた。

「花農家の温室」をテーマに、みどりで覆われた空間を実現

2011年、表参道の交差点から程近い、青山フラワーマーケット本店の奥に位置して、初代「ティーハウス」はオープンした。「普段は花屋に足を運ばない人でも、花やみどりの魅力に気付いてもらえればという思いから、カフェの企画がスタートした」とパーカーズ・クリエイティブディレクターの城本栄治さんは振り返る。「“一人でも多くの人に花やみどりのある豊かな時間と空間を”という企業理念に基づき、花を提供するだけではなく、体感してもらいたいと考えました」。

花が一番生き生きとした状態であるのは、生産者のビニールハウス内という発想から、コンセプトは「花農家の温室」。出荷前の花を見ながらお茶を楽しむシーンをイメージし、アーチのフレームの頭上まで植物で覆い、畝のように配置されたテーブルに旬の花をアレンジした。

しかし、室内を包み込むように緑化すること自体、当時は初めてのチャレンジとなり、実現に至るまで、技術的にも困難なことが多かった。まず、室内で大量の植物を育成するため、夜間に専用の照明を当てることで、光を補った。植物は実験を重ね、耐久性のある種類を採用。また、植物の蒸れを避け、空気を回すために実際にビニールハウスで使用される空調設備を導入した。

デザイン面では、花農家の温室をモチーフにしつつ、青山という立地に合う感度の高いスタイルを探った。モルタルの床やスチールの什器、ガラスのテーブルなど、硬質な素材により、光を受けたみどりがより引き立つ背景を構成している。

圧倒的なみどりに包まれたカフェの反響は大きく、SNSなどで評判を呼び、入店待ちの行列ができるなど、話題となった。その後、赤坂や吉祥寺にも展開し、グリーンを取り入れたカフェを象徴する空間に。今回の本店リニューアルに際しても、工事や運営のコストも決して小さくないが、「ティーハウス」の併設は、より深くみどりを印象づけるためにも欠かせないと考えた。

旧「ティーハウス」
2011年にオープンした旧店舗。空間全体を植物で覆うことはチャレンジだった。植栽だけでなく、自然光や水音を感じさせるデザインを試みた。

照明の進化で人と植物にとって心地良い環境に

約10年ぶりのリニューアルとなった「ティーハウス」で、変化したのはどのような点だろうか。「空間に関しては、照明の扱い方が進化したことが大きい」と新店舗のデザインを担当したパーカーズの赤塚好さんは話す。「多彩な調光調色ができるSyncaを導入したことにより、一つの照明で人と植物双方にとって心地良い空間が実現できました」。従来はベースライトとは別に植物用の照明を追加し、育成のための光を補っていた。新店舗では、タイムスケジュールを設定することで、営業時は人の活動主体、閉店後は植物の育成用と、同じ器具を使い分けられるようになった。自然な色味でコントロールされた光は、その当たり方によって、根の張り方や新芽の出方にも違いが生まれた株もあるという。また、器具の演色性が高まったことで、植物の葉の色を鮮やかに、かつ食事も美味しく見えるようなクリアな色味を演出できている。

もう一つの進化は、カフェと同じ空間でフラワーレッスンやワークショップを開催し、植物に触れる体験を提供できるようになったこと。「花を眺め、みどりの中で過ごすだけでなく、植物に触れることでより体験や学びが深くなる。コロナ禍を経て、花を求める気持ちというのは、以前より高まっていると感じます」と城本さん。

ティーハウスに採用された次世代LED「Synca」とは

みどりや光の価値を伝える

10年前に比べ、みどりを取り入れた空間は飛躍的に増えた。パーカーズの城本さんはその変化についてこう話す。

「以前はみどりを大規模に室内に展開することが新鮮で珍しかったこともあって、他との差別化として求められていました。しかし、最近はオフィス緑化が当たり前になるなど、見た目ではなく、人に働きかける“植物の力”に注目が集まっている。やはり、人はちょっと元気がなくなった時に花やみどりの与えてくれるエネルギーに気づくもの。香りや木漏れ日や水音など、五感で感じられるような体験をきっかけに、過去の良い記憶とつながる。そうした経験を通じて、少しずつケアされるという価値を感じてもらえるのではないか」

みどりと照明はある意味、共通する点があると続ける。「みどりやきれいな光を美しいと思う気持ちは似ている。その時、漠然と良いと思うだけではなく、どのような価値を感じてもらうか。そのための体験づくりを重ねる必要がある」と照明に関連づけた話も。

空間のディスプレイとして用いられたみどりが、今は店舗を始め、オフィスなど様々なスペースでその効果や価値を認められるようになった。照明を調光調色することが当たり前になるには、光の効果を実感できるデザインが必要ということだろう。

フラワースクール「ハナキチ」
フラワースクール「ハナキチ」を併設。花に触れる場を設けることで、より体験が深化した。レッスンはすぐに満員になるほど人気だという。
「ティーハウス」事例をさらに詳しく見る Syncaで室内に「自然環境」を再現した事例も!

店舗情報

青山フラワーマーケット ティーハウス 南青山本店
東京都港区南青山5丁目4-41 グラッセリア青山1階
設計:parkERs 照明設計:遠藤照明
店舗面積:162.7㎡
営業時間:午前8時~午後7時

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