人は朝になると目覚め、夜になると眠る。このような規則正しい1日の体内リズム(サーカディアンリズム)は、私たちの健康維持に不可欠なものである。
その体内リズムを整えるうえで、光は最も重要な要素である。
光で睡眠を促し疾病を防ぐ
適切な時間に適切な量の光を浴びないと、体内リズムが乱れ、睡眠を促すホルモンであるメラトニンが正常に分泌されなくなる。その影響で、癌や不眠症、うつ病、認知症、高血圧、糖尿病といった、さまざまな疾患や健康リスクを引き起こす可能性があるといわれている。
日中に適切な明るさの光を浴びることは、認知症やうつに対するリスクの軽減にもつながることや、夜間に浴びる光によっては、動脈硬化や肥満のリスクを高めることも分かってきている。
光の調整には、スケジュール機能やシーン設定のできる照明を使えば、時間に合わせて自動で最適な光を提供してくれる。
「健康と光」の密接な関係
POINT1:日中の光で認知症やうつ病のリスク軽減
日中に光を浴びると、認知症やうつ病のリスクを減らせることが最近の実験で分かってきた。高齢者に異なる照度の光(300lxと1,000lx)を午前9時から午後6時まで浴びてもらう実験を行った。
その結果、数年後の認知機能とうつ症状に対して有意な差があった。300lxの光を浴びた場合に比べ、1,000lxの光を浴びた場合、認知症とうつ症状が軽減されたという(参考論文1)。
細かな照度の調整は難しいこともあるため、スケジュール機能と照度などのシーン設定ができる照明器具を用いるとよい。
日中に高い照度の照明に当たることで、認知症とうつ症状になるリスクが軽減されることが分かった。
POINT2:夜間の光は動脈硬化のリスクを高める可能性がある
動脈硬化は、血管の厚みが増してくること(アテローム性動脈硬化)で、さまざまな疾患を起こす“危険因子”である。主に血管系の酸化ストレスに関連する慢性炎症によって引き起こされる。睡眠のホルモンであるメラトニンは抗酸化作用があるが、夜間の寝室で浴びる光がメラトニンの分泌を妨げることで動脈硬化のリスクを高める可能性がある。
高齢者に対して夜間の寝室の照度によって4つのグループ(※1)に分け、頸動脈内膜中膜の厚さを測定・分析した。結果は、高い照度を浴びているグループ(中央値 9.3lx)では血管の厚みが増し、頸動脈のアテローム性動脈硬化が進行していた。
この夜間の光によるリスクは、年齢、肥満、喫煙、経済状態、高血圧、糖尿病などのこれまでに知られている動脈硬化誘因リスクとは別に、新たに報告されたものである(参考論文2)。
*1:0.1lx未満、0.1lx以上0.7lx未満、0.7lx以上3.5lx未満、3.5lx以上の4グループ
夜間に浴びる照度が高い人ほど、頸動脈のアテローム性動脈硬化が進行していた。
POINT3:夜間の光は肥満にも影響する
糖尿病や動脈硬化などのリスク要因である肥満。その肥満に夜間の光が影響しているといわれている。一般的に夜間の光は睡眠の質の低下につながり、睡眠不足は食欲抑制ホルモンであるレプチンのレベル低下と、食欲を増進させるホルモンであるグレリンのレベル上昇にも関連している。夜間勤務者に肥満や脂質異常症が多く、心血管疾患のリスクが高いことも報告されている。
実験で高齢者が浴びている夜間の照度を測定したところ、照度が平均3lx以上(中央値8.71lx)であるグループと平均3lx未満(中央値0.4lx)であるグループとでは、前者のほうが肥満症の発症割合が約1.9倍、脂質異常症の発症割合が約1.7 倍高いことが分かった(参考論文3)。
夜間の平均照度が高いと、肥満症の割合が約1.9倍、脂質異常症の割合が約1.7倍も違う。*2:肥満はBMIが25以上
「健康を維持する光」実際の空間事例
夜と朝の光で体内リズムを整える:「誠賀建設 タインデザイン モデルハウス」
人の生活リズムや体調に合わせて照明を整えることで、ウェルネスな暮らしを提案したモデルハウス。寝室には「Synca」を間接照明として設置。体内リズムに合わせて調光・調色を行っている。夜は色温度1800Kのほのかな明かりにすることで、落ち着いた空間に。睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンを正常に分泌、快適な眠りへと導く。朝は、心地よい目覚めを促すために、徐々に明るくなるよう設定されている。
「Synca」を使えば、朝焼けから徐々に明るくなるフェード設定を行える。光が急に切り替わらないため、ストレスを感じずに良質な起床を促す。
「誠賀建設 タインデザイン モデルハウス」事例詳細はこちら
気分を転換できる光:「NSKワーナー 本社工場 A1棟食堂」
工場における社員食堂は、勤務中自由に外出しにくい従業員にとってホッとできる環境であってほしいもの。それを実現するうえで照明の力は欠かせない。「NSK
ワーナー 本社工場 A1 食堂」は、24時間稼働の社員食堂。
時間帯によって光の質を変え、社員が気分転換できるよう、次世代調光調色「Smart LEDZ」を採用。トップライト照明やペンダントライトを適所に配している。
11時~14時の昼食時は、色温度4200Kの温かみのある空間に。Duv-3で赤みをプラスすることで、食材をよりフレッシュに見せるとともに、人の顔も健康的に見せている
「NSKワーナー 本社工場 A1棟食堂」事例詳細はこちら
[参考論文一覧]
1:Riemersma-van der Lek RF et al. (2008) Effect of Bright Light and Melatonin on Cognitive and Noncognitive Function in Elderly Residents of Group Care Facilities: A Randomized Controlled Trial. JAMA. 299, (22), 2642–2655.
2:Obayashi, K. et al. (2019). Indoor light pollution and progression of carotid atherosclerosis: A longitudinal study of the HEIJO-KYO cohort. Environment International, 133B, 105184.
3:Obayashi, K. et al. (2013). Exposure to Light at Night, Nocturnal Urinary Melatonin Excretion, and Obesity/Dyslipidemia in the Elderly: A Cross-Sectional Analysis of the HEIJO-KYO Study. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 98, 337–344.
Writer
ヒカリイク編集部
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