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洞窟のような暗がりがもたらすもの
―サポーズデザインオフィスの志向するプリミティブな光とは

2022.5.25
洞窟のような暗がりがもたらすもの<br><span>―サポーズデザインオフィスの志向するプリミティブな光とは</span>

『House T』(撮影:矢野紀行)。テラス壁面には杉板型枠コンクリートの表情を浮かび上がらせるようなブラケット照明。キッチンカウンター、ダイニングテーブルに数少ないダウンライト。

陰影のある、明るすぎないホテルや住宅を多く手掛けているサポーズデザインオフィス。近年は、主宰の谷尻誠さんの自邸『House T』を始め、洞窟のような暗がりのある空間への志向を強めているように見える。なぜ、プリミティブな空間に惹かれるのか。光への思いとその設計思想を聞いた。

照明器具を3分の1に減らした自邸

『House T』内部
『House T』をテラス側から見通す。全体を照らさず、あかりが必要な場所や質感のある壁面などを光が浮かび上がらせている。

煌々とした照明で隅々まで照らした室内、南向きで光が降り注ぐリビングなど、日本人の明るさ信仰は根強い。そうした白くて明るくてクリーンな空間ではなく、打ち放しコンクリートやモルタル、スチールなどの素材を用い、陰影が印象的な雰囲気のある空間を提案してきたサポーズデザインオフィス。谷尻さんは「日本の空間は明るさが正義のようなところがある」と指摘する。「でも、親密な話や本音のトークは薄暗いところの方が落ち着いてできるでしょう。結婚式でも明るすぎると泣けないように、明るさは心理に影響する。心地良さの正解は明るさだけではないと思っていて、意識的に“暗さ”を設計してきた」と話す。
そうした暗さへの探求心が結集したのが、2020年に竣工した『House T』だろう。開口を絞った細長い空間の奥に暖炉の炎が揺らめき、暗がりの中でコンクリート打ち放しのラフなテクスチャーが際立つ、洞窟のような住居だ。ここでは、照明デザイナーの提案にあった照明器具を3分の1に削減した。キッチンで料理をする手元、食事の色が美味しそうに見えるダイニングテーブルなど、必要なところだけに絞ったという。
「光イコール照明ではない。既に自然光があるわけで、それを生かしながら、補うことを考えています。といっても人によって違う感覚値なので、明るさに正解はない。設計するときは、クレームを気にして、明るすぎて色気のない空間になってもつまらないので、せめぎ合いです。暗い方が品があって、素材も豊かに感じられる。実際に使い始めて、どうしても必要だったら、置き照明を足していきます」
暗がりから、外の植物を眺め、暖炉の火を見つめる。『House T』の原始的な光のあり方は、現代人が見失った身体感覚を取り戻そうとするかのように思える。

『House T』のリビング
『House T』のリビング。ゆらめく暖炉の火やフロアライトが暖かみを醸し出す。

暗さが空間の質をつくる

hotel tou nishinotoin Kyoto
「hotel tou nishinotoin Kyoto」(撮影:Kenta Hasegawa)のエントランスアプローチ。両サイドの足元に仕込んだ間接照明と正面に見える中庭が光の動線となって奥へと導く。銅板へ反射した光が高揚感ももたらす。

一方、事務所を共同主宰する吉田愛さんは、自然を感じられる光や日本的な光のあり方に魅力を感じ、設計に取り入れている。「人工的な光は均質ですが、自然光は木漏れ日など、影をつくります。1日のうちでも明るさや色味が変化し、ムラがある。局部的な光を使い、明るい場所と暗い場所をきちんと設計したり、障子や格子越しの光で奥行きをつくるようにしている」と話す。
「想像する余地があるような光の使い方が好きです。全部を明るく照らしてしまうと説明的になって疲れてしまう。明るいバーでは雰囲気が出ないし、古い旅館にはダウンライトがないように、ほの暗さは空間の質を生み出すもの。敷地や環境に合わせて建築をつくるのと同じで、光もその場所に合わせた設計をしています。セオリー通りの照明計画はしないですね」と吉田さん。
2021年に竣工した京都の「hotel tou nishinotoin Kyoto」では、光を効果的に扱い、シーケンシャルに奥へと導き、空間の奥行きを感じさせるデザインを施している。
「光をどこに配置するかは、プランニングの段階から意識しました。アプローチは銅の箱を挿入し、足元の間接照明が銅に映り込む、光の路地のような空間。ラウンジは中庭を光の場として設計し、手前に暗さをつくり、暗がりの向こうに光がある日本的な空間体験をデザインしています。ソファの足元に間接照明を入れ、重心を低くしたのも和の空間を感じさせるポイント。光は投射先の素材や色の影響を受けるので、照射面とセットで考えます。ベルベットのようなムラのある素材をソファに用いることで、明暗が生まれ、それが集積して空間を感じさせるところが自然の光に近いと思っています」
光によって、動線を描き、スケール感をコントロールする。光の設計とも言えるアプローチだ。

hotel tou nishinotoin Kyoto 中庭
「hotel tou nishinotoin Kyoto」のロビーから中庭を望む。格子越しの中庭は光庭で、手前のロビーは暗めとし、奥行き感をもたらした。ソファのベルベットのような生地は光を曖昧に反射し、ゆらぎを生む。

有機的なミニマリズム

これまでもサポーズデザインオフィスは、伸びやかで気持ち良い空間をつくってきたが、それが、心理的な落ち着きを感じる心地良さへと変化しているようだ。暗がりの中で素材感や奥行きを感じさせるような作風の深化について、二人はどのように意識しているのだろうか。
「僕らも現代建築の中で、モダンなものを目指して設計を続けてきた。抽象化するために、素材感を消し、太いものを細く、分厚いものを薄く見えるように工夫した。けれども、そうした建築に心地良さや色気はあるかと疑問を抱いた。ミニマルで清らかな気持ち良さはあるけれど、太くて分厚くて素材感があるものでも、モダンで落ち着く心地良さはあるはずだと考え始めた。それで、数年前から“有機的なミニマリズム”を意識してきたけれど、そうした思考とつくるものがリアリティーを持ち、近付いてきた感覚はあります」(谷尻さん)
また、プライベートでキャンプに行くようになって、自然の中で過ごす経験を繰り返してきたことの影響も大きい。「既にあるものに目を向け、いかにつくらないか、手を加えないかを意識するようになった。ない方が豊かだということ。照明がないからこそ、星が綺麗に見える」。これからつくりたい建築は、「照明がない家」。「照明デザイナーと一緒に太陽の光だけで生活する家をつくってみたい」。
一方、吉田さんは、「リアルな空間に対し、その場に行かないとわからない体験や感情が求められるようになった。光には感動や情感を呼び覚ます力がある。空間の情緒をつくるものなので、より敏感になった」と分析する。「目指しているのは快適な屋外空間。ありのままの自然よりも、自然を印象的に感じられる場所をつくってみたい」。
暗がりは、視覚だけに頼れないので身体感覚を鋭敏にする。谷尻さんの原風景は、子どもの頃過ごした町家だというが、暗くて寒くて不便だった体験が、キャンプで薪を割って、焚き火をすることで実感する豊かさと結びついた。暗がりを設計することは、こうしたプリミティブな感覚を呼び覚ますこととつながっている。

谷尻誠と吉田愛
谷尻誠(たにじり・まこと:写真左)
1974年生まれ。2000年建築設計事務所suppose design office設立。14年より吉田愛と共同主宰。15年から大阪芸術大学准教授。設計業のかたわら、絶景不動産、tecture、DAICHIなどを開業。他分野の事業と経営をブリッジさせて活動する。

吉田愛(よしだ・あい:写真右)
1974年生まれ。2001年建築設計事務所suppose design office入所。14年より谷尻誠と共同主宰。17年絶景不動産を開業。21年新たに空間プロデュースやインテリアスタイリングを事業の核とする「etc inc.」を設立。

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