hikariiku 人と光に向き合うデザイン情報サイト
  • オススメ
  • 空間と光

滋賀・八幡堀ライトアップから考える「これからの景観照明」のあり方

2022.6.30
滋賀・八幡堀ライトアップから考える「これからの景観照明」のあり方

八幡堀は水際近くまで降りて歩くことができる。その視点からの光の見え方も計算されている。
写真提供:スタイルマテック(この写真のみ)

滋賀・近江八幡にある「八幡堀(はちまんぼり)」のライトアップが2022年4月から点灯されている。120mの両岸に渡る照明計画を手掛けたのはスタイルマテック。代表を務める松本浩作さんは、「風景の数が増やせるようになった」とLED時代の景観照明を歓迎する。八幡堀のプロジェクトを元に詳細を聞いた。

歴史的観光資産を守りつつ照らす

近江八幡駅から徒歩20分ほどにある八幡堀は、安土桃山時代、城の防守につくられ、交易のため、琵琶湖ともつながれた。江戸時代には近江商人の盛栄にも資したという歴史的遺産だ。昭和の経済成長期には埋め立てる計画もあったが、地域主体で修景整備が進み、かつての風情を取り戻した。今では時代劇の撮影でも使われる。堀を含む一帯は古い町並みを残し、国の重要伝統的建造物群保存地区として指定され、年間50万人近くが訪れる観光資産でもある。ライトアップは観光客の夜間滞在を促すため、市が施策したものだ。


設計プロポーザルを経て、選ばれたスタイルマテックでは、歴史的景観である「水、石垣、蔵をどう見せるか」をテーマとした。堀は橋や舗道が整備され、水面レベルに近い堀の縁も歩ける。

自然豊かな水辺に石畳や土蔵が見える
八幡堀の昼間の風景。舗道の暗がりに設置された行灯風の照明の光源は、Syncaを使用している。
自然豊かな水辺に石畳や土蔵が趣を増す。舗道に設置された行灯風の器具は既存のもので光源のみ入れ替えた。

「橋の上、上の舗道、下の道と、更に(観光用の)舟からの目線、すべてのレベルでグレアをなくしました。そして、低いところから少しずつ色温度を上げて光の層をつくりたかった」と松本さんは話す。行灯のような温かな光から、次第に空の色に馴染んでいくように意図。2400K、2700K、3000Kという色のレイヤーを構築した。水辺からなめるような光で照らしつつ、同時に反射した光が「水面(みなも)のフィルタを通した揺らぎ」(松本さん)で石垣を照らす。土蔵の白い壁には超集光型で絞った5000Kの光を当てている。ランドスケープは照射物が大きいこともあり、拡散する光が一般的だが、今回は多灯分散で、スポットやスプレッドタイプが中心だ。堀に面した建物には住宅も多く、“光害”は避けなければならない。「住民の方にもチェックしてもらいながら決めています」。器具が多い分、木や瓦のカバー、FRP製の擬岩などでカムフラージュし、景観保護にも努めた。


夜の八幡堀の風景。土蔵の白い壁のみをスプレッド型の集光照明で照らしている。
土蔵の白い壁のみをスプレッド型の集光照明で照らしている。隣家は一般住宅だ。
FRP製の擬岩で照明器具をカムフラージュしている。
FRP製の擬岩で器具をカムフラージュしている。誤って腰掛けても問題のない強度を持たせた。

「制御自体もきめ細かくしています。季節には桜の花が名物となり、春は3分割のプログラムを入れました。桜は1週間程度で花が落ち、葉が多くなり、姿を変えていくので、光もそれに合わせた調光調色演出になっています」日常や自然の営み、歴史的景観のいずれにもできる限り照明が寄り添い、妨げないよう配慮がなされた。

Syncaで大きく広がった選択肢

今回、松本さんは遠藤照明の『OUTDOOR Synca』を採用。このようなLEDの登場で、「光源の選択が広がった」と意義の大きさを説明する。


「かつて景観で使えた光源は、高圧ナトリウムランプの2200Kから始まって、電球色、昼光色、昼白色といったせいぜい6~7種類の色温度しかなかった。Syncaでは1800Kから12000Kまで無段階に選べて、しかもほぼ黒体軌跡上の色が出る(※1)。従来の人工的な光とは異なる、リアリティーが出せると思う。それは自然も含めたランドスケープライティングには重要なこと。僕は40年近く照明の仕事をしていますが、照射する光の色温度とその対象の組み合わせがどういう結果を生むのか、というのは今でも試してみないとわからないことが多い。ごくわずかな違いで印象が変わってしまう。その点でも色温度を現場で細かく調整できるのはとてもありがたいし、いろんな可能性を感じます」


“光の演出”と聞くと一般には、ステージショーやコンサートのような色鮮やかなきらめきを思い浮かべがちだ。実際にRGB調色やプログラムによるカラフルなライトアップもあるし、その延長にイルミネーションやプロジェクションマッピングなど、集客効果が高い手法もある。しかし、日常空間や自然の景色に対する演出では、今回のような光を繊細に扱うアプローチも求められる。


  • 1:黒体は完全放射体とも言われ、熱放射型光源の理想値。絶対温度によって熱放射、つまり光が決まる。ろうそくの炎や炭火、白熱灯がそれに近い。演色性が高く、自然な光と言える。

地域のための景色のあり方

八幡堀に渡された橋から堀を見た画像。水面から石垣、木々の枝と光の層が見える。
堀に渡された橋から見通す。水面から石垣、木々の枝と光の層を構築した。

松本さんは、そもそも景観照明で低色温度や調光できる器具の存在が少なかったことも指摘する。景観照明では、まず長寿命・高効率が最優先で、調光制御のための配線は大きなコストになった。「今は無線で制御できるが、かつては調光というだけで驚かれた」(松本さん)。

「省エネという観点でも、欧米では屋外でも調光するという考え方があり、街を照らす照明がそのままの姿で暗くなっていく。日本は点灯を間引いていくので、照明デザインとしては景色が変わってしまうわけです」

ライトアップには、橋梁や塔、スタジアムなど巨大なランドマークを明るく彩ることも多いが、そうした建造物自体、これからの日本では建てられることも限られる。むしろ、八幡堀のように地域に身近な歴史的建築物や街並みが観光の核となり、価値が見直されている。そうした場所では住民が住みながら、様々な負担を被りつつ維持している。演出の華やかさだけでなく、日常の明かりとして、日々「夜の姿」を見せることは地域の人々にとって、愛着や啓蒙にもつながるだろう。エネルギーや住民に配慮しつつ、細やかな配光・調光をすることで、持続可能な美しい夜景をつくり出す。

「膨大な色の組み合わせから、そのデザイナーだけ、あるいはその地域だけの“味”をつくり出すこともできるはず。景観照明についての新しい経験則を培っていく必要があると思っています」。松本さんは新光源時代のランドスケープライティングを期待する。

八幡堀を照らす調光調色照明
『OUTDOOR Synca』の詳細はこちら
松本浩作(まつもと・こうさく)

1961年生まれ。九州産業大学芸術学部卒。照明器具メーカー、デザイン事務所を経て、1998年スタイルマテック設立。2009年より武庫川女子大学建築学部非常勤講師。スタイルマテックは幅広く照明デザインを手掛け、景観照明では、大阪・中之島の堂島川護岸(2017年)や滋賀・大本山石山寺(2016年)のライトアップも担当。

Related 関連する記事

記憶に残るホテルの光<br>vol.1 非日常感を高めていく光のシークエンス<span>(寶田陵/the range design)</span>
  • オススメ
  • 空間と光

記憶に残るホテルの光
vol.1 非日常感を高めていく光のシークエンス(寶田陵/the range design)

自然の“不便さ”にある、人が心地良いと感じる光<br><span>parkERsが考える植物と光の関係</span>
  • 空間と光

自然の“不便さ”にある、人が心地良いと感じる光
parkERsが考える植物と光の関係

建築家・中山英之氏の求める自由な光
  • 空間と光

建築家・中山英之氏の求める自由な光

洞窟のような暗がりがもたらすもの<br><span>―サポーズデザインオフィスの志向するプリミティブな光とは</span>
  • 空間と光

洞窟のような暗がりがもたらすもの
―サポーズデザインオフィスの志向するプリミティブな光とは