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クルーゾフ効果を再検証する

2022.10.7
クルーゾフ効果を再検証する

照明設計の際、多くの設計者に重要な指標とみなされている「クルーゾフ効果」だが、機能や演色性も大幅に改善された今日のLED照明の環境下で同じ実験を行ってみるとどうなるのだろうか? 実際に試してみた。

クルーゾフ効果とは

クルーゾフ効果を解説した画像

「クルーゾフ効果」とは、オランダの物理学者A.Aクルーゾフによって1941年に発表された法則のことで、その光が快適もしくは不快だと思われる傾向がある色温度と照度の関係性を表している(上図参照)。光環境を設計する際は、このような快適性に配慮することも大切だとされており、現代の照明計画時にも参考にされている指標である。

一方で、クルーゾフの実験は約80年前に実施されており、実験に使用した照明が白熱灯と当時開発されたばかりの蛍光灯で、現在主に使用されているLED照明とは性質が大きく異なる点や、実験の詳細な内容が公表されていない点など、気になる部分が多々ある。

そこで、今回はクルーゾフと類似の実験を今日のLED照明で再検証する。

クルーゾフ効果をLEDで再実験

今回は特定の照度と色温度を組み合わせた条件に対して、15人の被験者が評価を行った。

実験方法

使用照明:遠藤照明LED「Synca」(演色性Ra92)
照度:50・150・500・1000lx
色温度:1800・3000・5500・10000K
上記の照度と色温度を組み合わせた計16条件に対して、被験者15名が空間の印象を評価した。

実験結果

クルーゾフ効果を解説した画像

4つの図のうち、上の2つはクルーゾフの曲線における「温かさの印象」と「快適さの印象」を示したもので、下の2つは今回の実験結果での「温かさの印象」と「快適さの印象」の評価結果を図式化したものだ。

「温かさの印象」では、低色温度では温かく、高色温度ほど冷たく感じるというクルーゾフ効果と類似の傾向である。しかし、「快適さの印象」では、高色温度×低照度の環境において「不快」側の評価であるものの、低色温度×高照度の環境が「やや快適」と評価されている点がクルーゾフ効果と異なる傾向だった。

差異についての考察

上で紹介した実験で、LED照明の環境下では、特に低色温度×高照度の領域で「快適」と評価される傾向がある。次は、その差異が生まれた要因を探ってみる。

考察1:照明の熱が影響した

LEDは、従来光源とは発光原理が異なり、同じ明るさの光を出すための消費電力も少ないため、熱の放射量が少ない。一方でクルーゾフが低色温度の光源として用いた当時の蛍光灯と白熱灯は、多くの熱を放射していたと考えられ、室温を一定に保つことは困難であった可能性がある。その影響を受けて、低色温度の環境では暑苦しいという評価が高まったと考えられる。

考察2:光源の演色性の違い

近年のLED照明の演色性は、Ra(平均演色評価数)値で85以上のものが多く、今回実験に使用した「Synca」等のLED照明にはRa92以上のモデルもある。一方、最初期の蛍光灯の演色性はRa値で30~50台と低く、複数の蛍光体を使用して白色を再現していたため(緑色に蛍光する珪亜鉛鉱、赤色に蛍光するホウ酸カドミウム、青白色に蛍光するタングステン酸マグネシウムなどの蛍光体を併用していた)、蛍光体の劣化スピードの差によって変色してしまうという欠点もあった。よって、LED照明の演色性が高いことで、今回のような差異が生まれたと考えられる。

なお、単体で白色に蛍光するハロリン酸カルシウムの蛍光灯が開発されたのは1942年であるため、クルーゾフの実験では複数の蛍光体が封入された蛍光灯を使用したと思われる。

考察3:上部曲線の信憑性

さらに、クルーゾフ効果で「快適」だとされている領域は、太陽光の色温度と照度の組み合わせは快適であるという仮定のもとで作成されている。実際にクルーゾフは「直射日光(5,000K)で最も高い照度(10の4乗~10の5乗lx)でも演色性は決して『不自然』とは言えないという事実を参考に、上側の曲線の形状が外挿されている」(拙訳)と述べており、人工照明と自然光の性質に違いがあるにもかかわらず、5,000K以上・10,000lx以上の光環境については「快適」と評価を下し、領域が決定されていた。おそらく当時は高照度の照明がない環境だったため、曲線が推測によって引かれること自体は致し方ないことではあるが、特に上部の曲線については再考の余地があると思われる。

結論

照明業界で広く利用されているクルーゾフ効果だが、約80年前の照明器具に比べてランプ効率と演色性が飛躍的に進歩したLED照明が主流となっている現在では、より広い範囲の色温度×照度が許容される可能性が出てきた。

実際に、高色温度×低照度の「不快」だとされている組み合わせに当たる12,000K・調光率1%の照明を「月明かり」として導入した実例もある。

「この光の色温度と照度は、クルーゾフ効果では不快な領域と言われているから提案しない方が良いかもしれない」とこだわらず、より自由な光環境の提案を行ってみてはいかがだろうか。

現代は、より自由な光環境の提案を行える可能性があると改めて思った。引き続き、この探求は続けてみたい。

高色温度×低照度の「月明かり」実例はこちら 高演色で調光調色もできる最新LED照明「Synca」

参考文献

A.A Kruithof『Tubular luminescence lamps for general illumination』1941
Ian Ashdown『The Kruithof Curve:A Pleasing Solution』2015
中村 肇『Kruithof(クルイトフ)のカーブは正しいか?』2001
及川 充『光導電性硫化カドミウムの応答特性』1962
明星 稔『蛍光ランプの最新動向』2010

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