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ある光の体験は、時に人に強く印象付ける。
客を迎え、もてなすために様々な空間体験をデザインするホテルでは、照明も大きな武器の一つだ。
そんなホテルのデザインを数多く手掛けるデザイナーに、自身の宿泊体験として、強い印象を受け、記憶に残った光や照明の体験を語ってもらう。
ホテルは空間のデザインだけでなく、ロケーション、食事、スタッフのサービスなど様々な要素がそのホスピタリティーを形づくっています。ホテル全体として、そして「光」という視点で考えても、私の中では「The PuLi Hotel and Spa」(ザ・プリ・ホテル)での空間体験が一番印象深いです。
「ザ・プリ・ホテル」は、上海の中心部にあるアーバンリゾートホテルです。特に記憶に残ったのが、客室での光の演出です。最初に客室に入るとき、一般的にはカードキーを差し込んで部屋全体を明るくするか、暗い状態から照明のスイッチを入れるというオペレーションになります。
「ザ・プリ・ホテル」でも部屋に入って、指定の場所にカードキーを差し込むのですが、一気に点灯はせず、暗い状態から少しずつ明るくなっていき、同時にブラインドもゆっくりと上がっていきます。真っ暗だった空間が、徐々に照らされ、内装の仕上げや色遣い、家具が段々と姿を現し、窓からの眺望もやがて明らかになっていく。ホテルという非日常の体験を盛り上げてくれる要素でした。チェックインした時間の関係でその時は外光が順光で入ってきており、また客室までの共用通路が少し薄暗く計画されていたことで、この光の体験がより際立っていました。
加えて、照明の点灯と同時に客室のテレビも電源が入るのですが、そこで流れる映像が味気ないホテルの案内ではなく、空間に調和する美しい音楽とアート的なものであったこともポイントだったと思います。
ホテル共用部の空間デザインも素晴らしく、ロビーの光も客室と同じく、外光と柔らかな光を上手く取り入れたものになっていました。チェックインのために足を踏み入れた段階から、ホテルらしい非日常的な体験を盛り上げ、客室という最もプライベートな場所で、その体験が最高潮に至る。空間のデザイン、照明演出を緩やかに連続させていく手法は、ホテルでの空間体験を特別なものにするために効果的だと思います。
UDS在籍時の仕事になる「新宿グランベルホテル」のスイートでも、「ザ・プリ・ホテル」に近いカードキーの仕掛けを取り入れました。加えて、客室の内部に坪庭のような露天風呂をつくり、柔らかい外光がそこからも入ってきます。外部と一体感のあるベッドルームが広がり、照明は柔らかく心地良い光の空間を邪魔しない補完的な役割としました。
温かみのある光や柔らかい光だけでなく、強い光や色温度の高い光を使うことで、自然な心地良さをつくる場面もあります。ホテルに限らず、施設の外の雰囲気を室内に引き込むことを目的とした場所では、電球色だけでなく、あえて昼光色の光を取り入れることで、施設の内外の光の印象の差を少なくし、空気感をつなげる演出も取り入れています。
光の演出は訪れる人の体験をつくるためということを忘れてはいけない。ホテルの中を移動する、部屋に入る、照明を点けるといった当たり前の行為を、デザインや光によって、特別なものに感じさせ、魅力のある空間をつくっていきたいです。〈談〉
1971年東京生まれ。1993年日本大学理工学部海洋建築工学科卒業。ゼネコン設計部や設計事務所、UDSを経て、2016年the range designを設立。主な仕事に「COLOMBO GRANBELL HOTEL」「HAMACHO HOTEL」「SHIBUYA STREAM EXCEL HOTEL TOKYU」「界霧島」など。著書として『実測 世界のデザインホテル』(学芸出版社・2019年)