近年、建築分野ではさまざまな認証制度が整備され、設計実務においても無視できない存在となっている。これらの認証制度では、省エネ性能や環境配慮、利用者の快適性など、建築に求められる価値が「評価項目」として可視化されている。
照明は、その多くの認証制度において評価対象の一部を担っており、単なる設備ではなく、建築性能を構成する設計要素のひとつとして位置づけられている。
本記事では、主要な認証制度(BELS、ZEB、CASBEE、LEED、WELL認証)を取り上げながら、それぞれの制度において照明に何が求められているのかを整理していく。
1章|認証制度によって異なる「照明の評価軸」
1-1.照明が関わる主な認証制度
本記事で扱う認証制度は、大きく次の3つに分類できる。
- 「省エネ性能」を評価する制度
○ BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)
○ ZEB(Net Zero Energy Building、ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)
- 「建物全体の環境性能」を評価する制度
○ CASBEE(建築環境総合性能評価システム)
○ LEED (Leadership in Energy & Environmental Design)
- 「利用者のウェルネス」を評価する制度
○ WELL認証(WELL Building StandardTM)
1-2.認証制度ごとに異なる照明の役割
いずれの認証制度においても照明は重要な役割を担っているが、制度によって評価されるポイントは異なる。
- BELS・ZEB
○ 照明のエネルギー消費量
○ 高効率器具や制御による省エネ効果
- CASBEE・LEED
○ 昼光利用や光害抑制などによる環境配慮
○ 光・視環境の質
- WELL認証
○ 光が人の心理・生理・視覚に与える影響
○ 個人や少人数単位への環境調整
このように、照明は制度ごとに異なる評価軸で捉えられており、どの認証制度を視野に入れるかによって、照明計画の視点も変わってくる。
以降の章では、認証制度ごとに、照明に求められる考え方と設計上のポイントを具体的に見ていく。
2章|建物のエネルギー性能を評価する認証制度と照明― BELS・ZEB ―
2-1.BELSとZEBは「エネルギー性能」をどう評価しているのか
BELSとZEBはいずれも、建物のエネルギー性能を評価することを目的とした認証制度である。
共通して用いられる指標が BEI(Building Energy Index:基準に対するエネルギー消費量比) だ。BEIは、設計時に想定される一次エネルギー消費量を、基準となる一次エネルギー消費量で割った指標で、数値が小さいほど省エネルギー性能が高いことを示す。
BELSは、このBEIの値に応じて建物の省エネ性能を段階的に評価する制度であり、省エネ性能を「見える化」する役割を担っている。一方、ZEBは、BEIによる高い省エネ性能の達成を前提としつつ、太陽光発電などによる創エネルギーも含めて、建物全体のエネルギー収支を評価する点が大きな特徴だ。つまり、
- BELS:建物のエネルギー性能そのものを評価
- ZEB:高い省エネ性能に加え、創エネによってエネルギー収支ゼロを目指す
という位置づけの違いがある。
ZEBはカーボンニュートラルの実現を見据えた制度であるため、求められる省エネ性能は非常に高く、認証取得のハードルも高い。一方でBELSは、ZEBに届かないレベルの省エネ性能についても評価できるため、幅広い建築で活用されている。
2-2.BELS・ZEBの取得には「BEI/L」を下げることが重要
BEIは、空調・換気・給湯・照明など、建物全体の設備エネルギーを合算して算出されるが、そのなかでも、照明に関するエネルギー消費を示す照明BEI(BEI/L)は、建物全体のBEIに与える影響が小さくない。
そのため、BELSやZEBの認証取得には、このBEI/Lをいかに下げられるかが重要であり、照明計画における大きなポイントとなる。
2-3.BEI/Lを下げるために、照明でできる工夫
BELSやZEBの認証取得を目指し、BEI/Lを下げるためには、高効率な照明器具の採用に加え、照明の「制御方法」まで含めて計画することが重要となる。
以下に、BEI/Lを下げるために、照明でできる工夫を紹介する。
昼光利用をする
自然光を積極的に取り入れ、人工照明と適切に組み合わせることで、エネルギー消費を抑えつつ、快適な明るさを確保できる。
高効率な(lm/Wの高い)照明器具の採用
LED照明器具のエネルギー消費効率(lm/W)は年々向上している。最新の高効率なLED照明器具を採用することは、BEI/Lを下げることに直結する。
照明制御を活用する
高効率な照明器具の採用に加えて、状況や時間帯に応じて光を切り替えることで、無駄なエネルギー消費を抑えられる。
具体的には、以下のような照明制御を組み合わせるとよい。
<BEI/Lを下げるために有効な照明制御>
- 在室検知による自動点灯・消灯
- 明るさ検知による設定照度への自動補正
- タイムスケジュールによる明るさ運用
- 設計照度を考慮して余分な明るさをカットする初期照度補正
これらの工夫を積み重ねることで、BEI/Lを下げ、BELSやZEBが求める省エネ性能に近づけていくことが可能となる。
2-4.BELS・ZEBに共通する「省エネを前提とした照明計画」
BELSとZEBはいずれも、評価の中心はエネルギー性能であり、ウェルネスや快適性を直接評価する項目は設けられていない。この点が、後述するCASBEEやLEED、WELL認証との大きな違いでもある。
そのため、BELSやZEBの取得を目指す照明計画では、省エネ性能を確保しながら、光環境の質をどう担保するかは設計者に委ねられている。
エネルギー性能評価に特化した制度であっても、実際にそこで過ごす人にとって快適な空間づくりを目指す、という視点は常に忘れないようにしたい。
3章|建物全体の環境性能を評価する認証制度と照明― CASBEE・LEED ―
3-1.CASBEE・LEEDが評価する「環境性能」とは
CASBEEとLEEDはいずれも、建物のエネルギー性能だけでなく、室内環境や周辺環境への配慮などを含めて、建物全体の環境性能を多角的に評価する認証制度である。
BELSやZEBがエネルギー消費量を主軸に評価するのに対し、CASBEEやLEEDでは、省エネとあわせて、空間の快適性や人への影響といった要素も評価対象に含まれる点が特徴だ。
ただし、CASBEEとLEEDは、同じ評価方法を採用している制度ではない。評価指標や考え方には、それぞれの制度が置かれている背景の違いが反映されている。
3-2.日本の認証制度「CASBEE」における照明の位置づけ
CASBEEは、日本独自の認証制度であり、日本の建築基準や実情に即した要件設定がなされている。
評価にあたっては、建築物の環境品質(Q)と環境負荷(L)をもとに、建築物の環境性能効率を示す指標BEE(Built Environment Efficiency)が用いられており、省エネ性能については、前述したBEIを活用した評価も行われている。
照明に関しては、個別の項目数は多くないものの、
- 光・視環境(昼光利用、グレア対策、タスク・アンビエント照明、照明制御)
- 周辺環境への配慮として光害の抑制
- 設備システムの高効率化(BEI/L評価)
といった観点で、
建物全体の環境性能を構成する要素のひとつとして評価に関わってくる。
また、自治体によっては、一定規模以上の建築物を対象に、独自のCASBEE基準が設けられているケースもある。
3-3.米国の認証制度「LEED」における照明の位置づけ
LEEDは、米国で開発された国際的な認証制度であり、日本でも外資系企業やグローバル企業の要請により、取得が検討されるケースも少なくない。
評価にあたっては、必須項目を満たしたうえで、選択項目の取得ポイント数によって認証レベルが決定される点が特徴で、評価項目は多岐にわたる。
照明に関連する選択項目としては、
- 照明制御
- 照明の質(輝度、演色性、エネルギー負荷、反射率など複数の項目あり)
- 昼光利用
- 光害の低減
- 基準の消費電力に対する改善率
などがある。
日本の一般的な建築物と選択項目の要件には大きな差があるものもあり、そのままではポイント取得が難しいケースもある。
照明計画においても、LEED特有の視点を理解した対応が必要となる。
3-4.CASBEE・LEEDに共通する「省エネと快適性を両立する照明計画」
評価方法や基準は異なるものの、CASBEEとLEEDはいずれも、省エネと快適性、両方の観点から建物全体の環境性能を評価する制度である。
そのため、照明計画においては、
- 昼光の積極的な活用で、人工照明にかかる無駄なエネルギーを削減
- 照明制御の導入によって、必要な場所に、必要な明るさを、必要な時間だけ提供する
- 適切な明るさやグレア(まぶしさ)抑制による快適な視環境の確保
といった視点が重要となる。
CASBEEやLEEDの考え方は、認証取得を目的とする場合に限らず、省エネと快適性を両立した質の高い照明計画を考えるうえでのヒントになるだろう。
4章|利用者のウェルネスを評価する認証制度と照明― WELL認証 ―
4-1.WELL認証が評価する「ウェルネス」という考え方
米国で開発されたWELL認証は、これまで取り上げてきた認証制度とは異なり、利用者のウェルネスを高める空間づくりに焦点を当てた認証制度である。人の健康とWellbeing(ウェルビーイング:身体的・精神的・社会的に良好である状態)に影響を与えるさまざまな機能を評価対象としている。
評価は、「空気」「水」「食物」「光」「運動」「温熱快適性」「音」「材料」「こころ」「コミュニティ」という10のコンセプトで構成されており、必須項目を満たしたうえで、加点項目を取得する必要がある。書類審査に加え、現地での環境測定が求められる点が特徴だ。なお、省エネ性能はWELL認証の評価対象に含まれていない。
4-2.WELL認証における照明の位置づけ
WELL認証における光・照明は、人の生理や行動にどのような影響を与えるかという視点で評価される。
ポイントは、「個人や少人数の単位に合わせて環境を調整できることが、ウェルネスにつながる」という考え方だ。
- 要望に応じたタスクライトの提供
- 少人数ユニットごとの照明制御グループ
といった要素が評価項目として設定されており、画一的な明るさではなく、利用者にアジャストした照明計画が求められる。
また、コンセプト「こころ」の必須項目に「自然とのつながり」が含まれている点も興味深い。自然の素材や景色、植物などを空間に取り入れる考え方は、バイオフィリックデザインとも深く関係している。照明においても、室内での植物育成を考慮した照明計画が必要になることもある。
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4-3.WELL認証は「生体リズムへの配慮」を評価する
WELL認証の照明評価で特に特徴的なのが、生体リズム(サーカディアンリズム)に配慮した照明が、加点項目として明確に位置づけられている点である。
人は、光の色や量、光を浴びるタイミングによって、覚醒や睡眠のサイクルに影響を強く受ける。
WELL認証では、照度とは異なる「等価メラノピック照度*」という指標を用いて、日中に確保すべき光を示し、光が人の生理に与える影響を考慮している。
*等価メラノピック照度:体内リズムに影響する光受容細胞(ipRGC)が感じる明るさを表した単位。午前中は等価メラノピック照度が高い光、16時以降は等価メラノピック照度が低い光にすることで、生体リズムの調整に寄与すると考えられる。
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4-4.WELL認証が重視する「人を中心に据えた照明計画」
WELL認証は、省エネや設備性能ではなく、空間が人のウェルネスにどのように寄与しているかを評価する認証制度である。
BELS・ZEBが省エネ性能を、CASBEE・LEEDが建物全体の環境性能を評価するのに対し、WELL認証は、人に最も近い視点から建築環境を捉えている。
WELL認証の考え方は、認証取得を目的とする場合に限らず、照明を「人のための環境づくり」として捉え直すうえで、多くの示唆を与えてくれるだろう。
まとめ|認証制度の違いを理解し、照明の力を活かす
本記事では、各認証制度において照明がどのように評価されるのかを整理してきた。
BELS・ZEBではエネルギー消費の低減、CASBEE・LEEDでは環境性能全体への寄与、WELL認証では人のウェルネスへの影響と、認証取得のために照明が貢献できる点は異なる。重要なのは、制度ごとの評価軸を理解したうえで、照明計画にどう反映させるかという視点である。
また、認証取得を目的としない場合であっても、制度の考え方を手がかりに、求められる性能や空間のあり方を整理しながら照明を計画していくことは、実務においても合理的で説得力のある提案につながるだろう。
本記事で整理した視点が、認証制度への対応はもちろん、日々の照明計画を検討する際のひとつの手がかりとして役立てば幸いである。
Writer
ヒカリイク編集部
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