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SDGsをはじめとして環境への関心が日々高まる現代の建築において、欠かせない要素である「ZEB」。 照明、ひいては建築に携わる上で、今後もさらに広がりを見せるであろうZEBについて理解しておくことは非常に重要になるだろう。 今回はそんなZEBについて、その概要や取得のメリット、特に照明の観点から見るZEB実現のポイントなどを詳しくご紹介する。
ZEB(ゼブ)とは、「Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」の略称であり、その名の通り年間の一次エネルギー消費量の収支がNET(正味・純量)でゼロになる建物のことを指している。
自然光などを利用して消費エネルギーを減らすパッシブ技術や、設備を利用してエネルギーを効率的に利用するアクティブ技術などで叶える「省エネルギー」と、太陽光やバイオマスなどの再生可能エネルギーを活用する「創エネルギー」を備えることで、建築設計によってエネルギー収支ゼロを計画し、さらに長期的にそれを維持できるようエネルギーマネジメントを行う。
その上で快適な室内環境を維持することを目指した省エネと実用性を兼ね備えた建築物が、「ZEB」ということだ。
ZEBの評価基準は国で定められており、設計上の一次エネルギー消費量を、基準一次エネルギー消費量で割って算出される、その建築物の省エネ性能であるBEI(省エネルギー性能指標)を指標に、基準よりもどの程度消費電力を削減できているかで判定されている。
基準エネルギー消費量は、地域や建築物の用途など様々な条件を加味して定められているが、国の評価基準ではその基準エネルギー消費量に比べてそのビルのエネルギー消費量が50%以上削減できていれば外部からエネルギー供給を受けていてもZEBと認められることになっているのだ。
また、さらにZEBの中でもどれだけ削減できているか、そのビルのゼロエネルギーの達成状況によっても4段階に分けられる。
まず「ZEB Ready」は、Ready(準備)の名がつけられているようにZEB化への準備段階、ZEBを見据えた省エネ能力を備えた建築物のことを呼ぶ。
再生可能エネルギーによって創り出される分を除き、省エネ能力のみで基準エネルギー消費量から50%以上の削減がなされることが定義とされており、この条件を満たしてからはじめて創エネ能力を加味した「ZEB」や「Nearly ZEB」への認定がなされる。
「ZEB」は、計算上、省エネにより削減した分と創エネにより創り出した分で従来必要とするはずだった基準エネルギー消費量と同等かそれ以上の削減ができている、正味のエネルギー収支がゼロの建築物のことを指す。 前提として、前述の「ZEB Ready」の条件を満たしていることが条件となる。
「Nearly ZEB」はNearly(ほぼ)の言葉通り、ZEBに限りなく近い建築物のことを言う。定義としては、省エネと創エネにより基準エネルギー消費量から75%以上100%未満の削減に成功しているものとされている。
こちらもZEB同様、前述の「ZEB Ready」の条件を満たしていることが前提条件となる。
「ZEB Oriented」は、ただちにZEB化が難しい大規模な建築物、具体的には延べ面積10,000㎡以上の建築物を対象として、ZEB Ready実現のための省エネ設備とさらなる省エネに向けた措置を講じているものを指す。
省エネにより基準エネルギー消費量から建物の用途ごとに定められた割合(例えば事務所や工場、学校などで40%・病院やホテル、百貨店などで30%等)以上の削減を実現していること、さらなる省エネを目指しZEBの計算を行うためのプログラム、Webプロ(建築物のエネルギー消費性能計算プログラム)で現在未評価となっている技術を導入することの2点が評価基準となっている。
2030年までに世界にある様々な課題を解決し、自然環境を適切に保全しながらすべての人が現在、また未来の世代においても豊かな生活を送れる持続可能な社会を実現しようという、国連で採択された世界共通の目標であるSDGs。
近年、そのSDGsの動きが高まっていることや世界情勢による電力ひっ迫等の影響で、省エネ対策の重要性とともにZEBの注目度は非常に高くなっている。
日本政府も2030年までに新築建築物すべての平均でZEBの実現を目指すとする政策をかかげており、実現に向けてのロードマップも策定されている。
また、地球温暖化対策にも欠かせない取り組みであるZEBは、カーボンニュートラルの観点から日本のみならず世界でも重要視されている。
日本でも2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするという宣言がなされ、様々な対策を行っているが、諸外国ではさらにその動きが進んでいる。
アメリカの「Energy Star」やEUの「DEC」「EPC」などをはじめとした、省エネ性能や環境性能を評価する制度も各国で定められており、中には法的な拘束力を持ち義務化されている規格もある。
ゆくゆくは日本も義務化の流れになる可能性があり、環境への意識が高まっている昨今、ZEBは建築物にとって無視できない規格になりつつある。
ZEBが環境への配慮とエネルギー需給の面で重要な要素となることは分かった。では、実際に建築物をZEB化することで、それ以外にどのようなメリットがあるのだろうか。
またメリットばかりではなく、ZEB化を目指した設計の上で考慮しなければならない課題はあるのだろうか。
建築物に携わる人には、そのビルのオーナーやそこに入る事業者、またそれを建築設計する設計者など、様々な立場の人がいる。
ZEB基準を取得することには、その異なる立場の人それぞれに様々なメリットがあるのだ。ここでは主なメリットを5つ、ご紹介する。
まずは事業者のメリットとして、ESG投資が期待できることだ。ESGとはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の3つの頭文字を取ったものであり、ESG投資とはこの環境・社会・企業統治に配慮していることを重視して企業に投資を行う動きのことを指している。
社会問題、環境問題への意識の高まりから徐々にその考えは広まり、2006年に国連が提唱した投資家のESG考慮に関するガイドライン「責任投資原則」が大きなきっかけとなって、現在は欧米を中心に世界的に浸透している。
また、ESG投資にはその企業のサステナビリティが大きく評価される。
ZEBを取得することで、SDGsの目標7(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)や目標3(すべての人に健康と福祉を)、目標13(気候変動に具体的な対策を)などへの貢献に積極的に取り組んでいることを可視化でき、ESG投資を考えている投資家へのPRとなるだろう。
エネルギー消費量を削減しているZEBは、当然ながら電気代が下がり光熱費を大きく抑えられる点も、オーナーや事業者にとっては非常に大きな利点だ。
省エネ器具導入などの初期コストはもちろんかかってしまうが、長期的に見るとメリットの方が大きく上回るだろう。
自然エネルギーを利用するため、原油や天然ガスの価格高騰などの影響も小さくすることができ、経費削減につなげることもできる。
経費も削減しながら環境にも貢献でき、快適性も損なわないというのは、そこで働く人にとってもメリットとなるだろう。
ZEBはBCP(事業継続計画)にも役立てることができる。
そもそもBCPとは、企業がテロ攻撃や自然災害、火災などの障害等の緊急事態に遭遇し、事業が危機的状況に陥っても、損害を最小限に抑えながら主力の業務を継続すること、また早期復旧を可能とするために事前に取り決める計画のことだ。
ZEB、特にNearly ZEB以上のZEB化では再生可能エネルギーなどを活用した創エネルギーにも着手しているため、省エネにより事業に必要なエネルギーが最小限となる上にある程度のエネルギー自立を可能にし、災害などの非常事態で停電などが起きても自力で事業を立て直しやすく、BCPを容易にできる。
事業者にとってはもちろん、建築物の用途や場所によっては災害の際に地域の避難先や活動拠点などにも活用でき、緊急時にはさらなるメリットとなるだろう。
現在は地球温暖化への配慮(カーボンニュートラル)など環境やエネルギーへの対応が大きな課題となっており、今後の不動産価値・資産価値にも影響している。
また、災害大国と言われる日本では3つ目のメリットとして挙げたBCP対策も建築物の信頼性を高める上で重要なポイントだ。
そのためZEB認証を取得した建築物は一般的な建築物と比べて、不動産としての価値も高めることができる。
オーナーにとって大きなメリットであることはもちろん、環境に配慮した建築物があることで街としての魅力も向上することができ、地域活性化にも役立てることができる。
前述の通り、SDGsをはじめとして環境への意識が高まっている今、建築・設計においてZEBに注目が集まっている。
今後も建築・設計の上で環境への配慮が重要視されることは間違いなく、設計者にとっては、ZEB化に成功した実績があれば、環境に配慮した建築にしたいというクライアントの信頼を得ることができるポイントのひとつになるだろう。
ZEBにはメリットが多くあるが、ZEB取得を目指し省エネを意識して照明でも最大効率を求めると、どうしても出てしまう課題もある。それは、大きく分けると「デザイン性の欠如」と「ウェルネスに対するケアの欠如」の2点だ。
エネルギー効率を最大化することを考えると、より少ない設置数でできるだけ広範囲を照らせる照明を設置することになる。
しかしそれは裏を返せば、発光部分が180度露出した蛍光灯のような野暮な器具デザインのものを使わざるを得なくなり、これがデザイン性における課題となる。
また、発光部分が180度露出しているということは、目に直接光が入るということになり、グレアと呼ばれる眩しさを引き起こしてしまう。
高効率に特化したものだと調色機能などによるサポートもできず、快適な視覚環境とは言えないため、従業員や利用者のウェルネスに対するケアが行き届かない。
快適さやデザインを意識しつつ、ZEBも両立させるバランスが今後の課題となるだろう。
では、ZEBを実現するために、照明においてはどんなことができるのだろう。照明関連で抑えるべきポイントには、主に以下の3つがある。
真っ先に挙げられるのは、高効率な照明器具を使うことだ。これは主に「最新式のLED照明器具の導入」と、「より少ない設置数で広い範囲を照らせる照明の選択」の2つの方法を取ることになる。
まず最新式のLED照明器具の導入だが、新たに設計・建築される建物に最新のLED照明器具を採用することはもちろん、現存の建築物のさらなるZEB化を目指す上でも
・従来照明器具からLED照明器具へのリプレイス
・従来型LED照明器具から最新型LED照明器具へのリプレイス
の2つの選択肢がある。
従来の蛍光灯などからLEDへのリプレイスはもちろん、近年ではより消費電力の少なくなったLED照明が開発されているため、従来型LEDから最新式へのリプレイスでもエネルギー削減が見込める。
すでに一度LEDへの交換が行われた建物でも、新型へのセカンドリプレイスでさらに省エネ・経費削減の効果が得られるだろう。
次に広範囲を照らせる照明についてだが、先程も触れたとおり、単純に照明の設置数を減らすことでエネルギーの削減ができるというメリットの反面、デザイン性・快適性が低下する恐れがある。
これは事業者や設計者が、建築設計の際に省エネ性とデザイン性・快適性のどちらを優先するかによって変わるもので、どちらを取るのが良いかという正解はないが、両方をほどよく両立させたバランスの良い器具を選ぶべきだろう。
設計照度を下げてエネルギー消費を減らすことも、ZEB実現のためにできる対策のひとつだ。照度を下げるには、2つの方法がある。
まず、太陽光や自然光を室内に取り入れることで、好天時の人工照明の利用を減らせるようにすることを指す「自然採光」が可能な設計・設備にする方法だ。
ブラインドや屋根部分から採光できるトップライト、ライトシェルフ(太陽光反射庇)などの採用が主な対策となるだろう。
直射日光をそのまま取り込むのではなく、反射光を利用するライトシェルフなどは直射日光を制御し熱負荷を低減させる効果もあるため、明るさ確保の面ではもちろん空調の面でもエネルギー削減の効果が見込める点も良い。
ただし、これは照明器具を設置しなくても良いということではなく、自然採光を利用せずとも、人工照明で設計照度を十分に確保できていることが前提である。
当然ではあるが、自然光は季節や天候、時間帯などの自然条件により絶えず変化するため、自然採光ありきの照明設計は避けるべきで、あくまで補助的な役割として考えた方が良い。
もうひとつの方法としては、設計段階で照度を下げることだ。
JIS(日本産業規格)では、作業内容やその空間の用途に合わせて快適な環境を確保するための推奨照度として照度基準を定めている。
2023年に改訂されたJISでは、空間の実質的な明るさを維持するために、照度とともに輝度(ある面から反射した光がどれだけ人の目に届いているかを示す値)が重要視されており、オフィス空間において輝度の基準を満たしていれば設計段階から照度を下げても良いとされている。
空間の輝度を考慮し、許容範囲内で部屋全体の照明(アンビエント照明)の照度を下げたり、作業に支障が出ないように作業用の照明(タスク照明)を必要に応じて導入するなど、必要な場所に必要な明るさを効率的に確保することで、快適な作業環境を保ちながら効率的にエネルギーを削減できるだろう。
3つ目のポイントは、照明制御を最大限に利用することだ。照明点灯の時間や照明の強さを状況に応じて最適化することで、常時同じだけの強さで点灯しているよりもエネルギー消費量を格段に節約することができる。
実際に照明を制御する方法として有効なのが、まず明るさを様々なセンサーで制御するという方法だ。
人の動きを検知する人感センサーでの制御をはじめ、自然光などを利用することで一定以上の照度が確保できていると人工照明の照度を下げるという照度センサーでの制御、 時間によって照明を調節するタイムスケジュール制御など、多様なシステムを利用して照明の最適化を図ることで、省エネに大きく貢献できるだろう。
実際にセンサーでの検知による照明の調光と昼光を適切に取り入れられる自動制御ブラインドを併用することで、最大で37%ものエネルギー消費を抑えられるとされている。
他にも、初期照度補正機能が備えられた器具を利用する方法などがある。
こちらは新しい照明器具交換後に余剰となってしまう明るさを抑えることで省エネを図ることができる考え方で、照度補正なしの場合と比較して、蛍光灯は約15%、LED照明は約5%の消費エネルギーを節約できる。
特にセンサーの利用は、省エネ対策のための法律「建築物省エネ法」でも特に効率良く電力を削減できる方法とされているためおすすめしたい。
遠藤照明の無線調光システム「Smart LEDZ」を利用すれば、上述のタイムスケジュール・人感センサー・照度センサーなどによる制御のすべてが対応可能となる。
用途によって多様な形状・明るさの照明器具が選べるほか、スマートフォンやタブレット、パソコンからの一元管理など、制御の規模や運用方法によって選択できるシステムが複数用意されており、あらゆる建築物の照明制御に役立てられるシステムだ。
近年の環境問題への関心を見ても、今後も日本全体、また世界的に省エネやSDGsへの意識が高まっていくことは予想できる。
そんな中で、ZEBは今後どのように広がり、設計者はどのような意識を持てばよいのだろうか。
日本では2017年度よりZEBをさらに普及させるためのブランド化の一環として、ZEBに認定されると表示が可能になる、ビルと葉をモチーフにしたZEBマークが発表された。
また、ZEBマークには建築物そのもの以外にも「ZEBプランナーマーク」「ZEBリーディング・オーナーマーク」といったものも存在する。
それぞれZEBの技術・知見を有して建築設計の支援を行う設計会社・設計施工会社及びコンサルティング企業を登録する「ZEBプランナー登録制度」、ZEBを所有する建築物オーナーを登録する「ZEBリーディング・オーナー登録制度」と連動しているマークであり、これらに登録されると表示可能となる。
このZEBプランナー、ZEBリーディング・オーナーも活動目標や実績等の公表、取組事例の共有などを行うこととされているZEBの普及・推進のための制度だ。
ZEBマークの他にも2021年度より、家電などの表彰制度として認知度の高い「省エネ大賞」の省エネルギー事例部門・製品・ビジネスモデル部門にZEB分野が追加されるなど、ZEBの認知度の向上と普及のための取り組みは多数行われている。
省エネ器具や制御システムの導入など、ZEBを目指した設計では初期コストは通常より高くなると言われており、約20%程度の上乗せになるとされている。
しかし、メリットの面で紹介したようにZEBの認定を取得することで省エネや環境への貢献以外にも多くの中長期的なメリットを享受できるため、ぜひZEB化を行うべきだとおすすめしたい。
一方、省エネを考えるあまり健康や快適性を損なってしまっては本末転倒だ。
ウェルネスと省エネ効率のバランスを考慮しながら計画・設計することで、地球環境だけでなくオーナーや利用者にとっても、より良いZEBになるのではないだろうか。
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