<オンライントークイベント>『UPI表参道』ショップ内に本物の”森”がある、体験型アウトドアストア。その試み、そして今。 画像

さまざまなファッションが交差する街:東京・表参道にある、ショップでありながら、自然体験ができる場所。ショップ内に本物の”森”がある『UPI表参道』。森は根付き、夏にはホタルが羽化したという。

2022年1月27日、「この空間が“自然との関わり”を考えるきっかけとなることを目指した」という建築家の山﨑智貴さん・ハビエール・ビヤール・ルイズさん、「“自然って何だろう”と試行錯誤を重ね、光を考えた」という照明デザイナーの山口晋司さん、そしてスペシャルゲストに『UPI表参道』店長の溜池剛太郎さんをお迎えし、その試みを、オープンから約1年が経過した今を、お話いただきました。

「クライアントであるお店側が、循環の一部として、自分たちも自然に関わっていく覚悟を持つと決められたのが、非常に大きな要因であった」「今までのライティングデザインは、人のために考えることが多かったが、植栽のためという考え方もある」というコメントが、非常に印象に残りました。

Guest speaker

山口晋司

山口 晋司 Shinji Yamaguchi (Lighting Design / On&Off inc.代表)

愛知県名古屋市生まれ

2000:On&Off inc. 設立


青田 弥生 Yayoi Aota (Lighting Design / On&Off inc.共同主宰)

東京都生まれ


主なプロジェクト:「くら寿司原宿店」「ふふ日光」「Ginza Sony Park」「イオンモール THE OUTLETS HIROSHIMA」「ユナイテッド・シネマ PARCO CITY 浦添」 「武田薬品工業株式会社 グローバル本社」「Zuma Istanbul」「M邸」等

http://www.onoff-lighting.com/
画像(左)Club Dining Clap Beirut (中)ユナイテッド・シネマ 福岡ももち ©矢野紀行/矢野紀行写真事務所
(右)ユナイテッド・シネマ PARCO CITY浦添 ©矢野紀行/矢野紀行写真事務所

happenstance collective [HaCo] 協同設立者

山﨑 智貴 Tomoki Yamasaki (Architectural Design / happenstance collective[HaCo]共同設立者)

シンガポール生まれ東京在住

ハプンスタンス・コレクティブ協同設立者

スタジオ・ペリメター代表


ハビエール・ビヤール・ルイズ Javier Villar Ruiz (Architectural Design / happenstance collective[HaCo]共同設立者)

バルセロナ生まれ東京在住

ハプンスタンス・コレクティブ協同設立者

隈研吾建築都市設計事務所 設計統括室長

ギャラリー・シリ協同設立者


2012:ハプンスタンス・コレクティブ協同設立


主なプロジェクト:「Thouse」「BENI Singapore」「BasisPoint Lab」等

http://www.ha-co.com/
画像(左)Thouse ©Hidehiko Nagaishi (中)BENI Singapore (右)BasisPoint Lab ©Katsu Tanaka

溜池剛太郎

溜池 剛太郎 Koutarou Tameike (UPI表参道 店長)

見逃し配信



イベントレポート

事務局「本日はタイトルを「『UPI表参道』ショップ内に本物の”森”がある、体験型アウトドアストア。その試み、そして今。」と題しまして、お届けして参ります。『UPI表参道』は、北欧や北米を中心とした世界中のアウトドアブランドの日本総代理店を担われているUPI(株式会社アンプラージュインタナショナル)の旗艦店として、2021年1月に東京・表参道にオープンされた体験型アウトドアストアです。日本最大級のデザインアワードである「日本空間デザイン賞2021」ショップ空間部門でSILVER PRIZEを受賞。そして、弊社製品である次世代調光調色『Synca』をご採用いただいたお店となります。」

ショップ内に本物の”森”がある体験型アウトドアストア『UPI表参道』 画像

建築家としての取り組み

まずは、建築家:ハプンスタンス・コレクティブ 山﨑様・ハビエール様より、この『UPI表参道』について、どう考えられたのかを教えていただきたいと思います。

クライアントからのリクエスト

山﨑「クライアントであるUPIからのリクエストは実はすごく少なかったです。 基本的にはECでの売り上げが多いのですが、実際に商品を見てみたいという声がやはりあるということで実店舗もオープンされています。20を超えるブランドを扱っておられるのでかなりな商品量があるのでですが、今回の表参道では、すべての商品を展示・販売したいということと、商品だけでなく、ワークショップを通じて文化そのものも伝えていきたいという要望を頂戴しました。UPIの商品は、生み出した方々の生き方やその人生とともにあるプロダクトが多く、それぞれに深いストーリーや想いがあります。それをどういう形で表現できるか、それを取り扱っているUPIの想いを、実店舗を通してどう伝えることができるか・・・コロナ禍において、インターネットを通した体験や経験が広がっていく中で、リアルな体験や実店舗を改めて考えるきっかけになったお店でもありました。」



UPI表参道 外観画像

右半分の”自然エリア”と左半分の”物販エリア” この2分された空間の発想の原点は?

山﨑「エントランスから店内に入ると、右半分に“森”が広がる自然エリア/左半分にアウトドアアイテムが並ぶ物販エリアと、2つに分断された空間が広がっています。このエリアわけは最初から考えていたわけではなく、プロダクトやUPIの想いをどうやったら伝えることができるかをまず考え始めました。アウトドアで使うことを考えて作られたプロダクトなので、森や自然の中に置くとエネルギーが出てくる。お店に置いてあってもカッコよいのですが、それ自体の魅力がそれでは表現できないと、かねてから思っていました。つまり、商品の根本にあるものを浮き出させる場所として考えたとき、やはり自然の中で見せたいというのが始まりでした。そう考えだした当初は、左の物販エリアはあまり考えていなかったのですが、ディスカッションを進めていく中で、かなりの商品量の展示リクエストがあり、相当な壁の量が必要だということが分かってきました。そして、そのディスカッションの中で、非常にプリミティブなプロダクト作りをされているものが多いことから、自然史博物館というキーワードが出てきました。商品を展示してある左側がナイフや石器などがガラスケースに収まっている場所、右側の自然エリアが実際に使っている原始人などの蝋人形がいるジオラマのような場所とイメージするのはどうか。最初から決まった予定調和な感じではなく、ディスカッションの中で偶然生まれてくるアイディアや面白い事を1つずつすくい上げていきました。」


ハビエール「大きく2つ付け足したいことがあります。1つは、ほぼ同じくらいの扱い方で2つに分けることで、建築の部分とランドスケープの部分を、ほぼ並列に扱うことができると考えた点です。建築=展示空間の中に自然を入れ込むと、建築の中に自然があるといった従属関係になってしまう。もう1つは、建物のストラクチャーに平行ではない強烈な斜めのラインで、この2つを分けることで、既存の建物の構造やジオメトリーを感じさせないことで、より外部感を打ち出せるという効果を狙ったという点です。」

UPI表参道 施工中画像

注目されている”バイオフィリックデザイン” 自然を建物内部に配置する際に気をつけなければならなかったことは?

山﨑「我々もこのようなことをやったのは当然初めてで、試行錯誤しました。しかし、賃貸のテナントなので、試行錯誤に1年をかける等は不可能なので、オープンまでのタイムリミットの中で、やれることを全部やりました。技術的なことは本当に色々あるのですが、基本的にはご存じの通り、植物には水や光や風や土が必要となります。光は後程、照明デザイナーの山口さんから詳しく説明があると思うのですが、まず水がないと、木は生きていけません。いわゆる潅水というと、床に這わせるパイプがあり、タイマー等で水を出すようなこともありますが、ここは全部、スタッフの方に水をまいてもらっています。そういう意味では潅水装置は無く、基本的にはスタッフの方が水をまくという、ものすごく原始的なやり方です。風に関しても樹木には非常に大切ということで、一方向からではなく、自然なかたちで風を吹かせて欲しいと、庭師の方から言われました。自然な形の風というのは一体何なんだろう・・・と考えました。土に関しては、庭師さんにお任せし、実際の熊本の川からの土や石を入れてくださいました。買ってきたものだと、どうしても球がそろってしまっている。このような1つ1つが、自然を感じる空間に寄与していると思います。

「この庭について、どうやってクライアントを説得したのか」というご質問も事前にあったと思うのですが、かなりなディスカッションをしました。庭師の方からは、兎に角メンテナンスは必要である。3年4年かけて一緒に”自然”を作り上げていきましょうと言われ、クライアントにも覚悟をもってできるかを相当考えていただきました。しかし、やはりブランドとしてすごく意味のあることだ、この自然の部分と付き合っていくことで自然のことの理解をより深め、自分たちの商品を使う場所としての、自然との付き合いを考え、それを商品を買っていただく方々に伝えていく・・・その場所として、時間をかけて、循環の一部として自分たちも自然に関わっていく覚悟を持つと決められたのが、非常に大きな要因でした。メンテナンスも含めて、自然の一部/循環の一部になることで、自然の理解を深めていくということが、この店の大きな目的の一つでもあります。」

照明デザインへのリクエスト

山﨑「UPIから多くのリクエストがなかったのと同じく、大きなリクエストはしませんでした。ただ、どういうコンセプトの場所なのかということ、偽物の自然ではなく本当の自然を目指したいということ、循環やUPIの想いを表現する場所にしたいというお話をしました。」


照明デザイナーとしての取り組み

お待たせいたしました、On&Off 山口さん。そのリクエストを受けられて、照明デザイナーとして、どう思われましたか?

山口「最初に山崎さんから、森をつくって川を流す店舗を作るという話だけ聞いたときに、どういうことかな・・・と思いました。その後、焚き火の実験を現場でしますから参加しませんかというお誘いがありました。本当に現場で、焚き火のエキスパートの方がおられて、現場でどのように炎があがるか等を皆で見て、そこから、何をしたいか、何ができるかを僕なりに考えました。火を起こした時の炎が昼と夜でどう見えるのか・・・ランタンなどの照明が夜はどのくらいの明るさになるのか等、UPIさんや山﨑さんが何を欲して、来店されるお客様が何を見たり感じたりしたいのかを、想像していきました。」



UPI表参道光合成 画像

植物のための光-光合成

山口「まず、光合成の話をさせてもらいます。植物が育成するためには光合成が必要なのですが、今回、文部科学省等の文献を色々と調べました。そこで、人間の眼で見る照度ではなく、光合成に必要な波長として、少し赤い660nmと青い450nmの2つが必要だという事がわかりました。赤い波長は生育の促進のために、青い波長は茎などが丈夫に育つために必要です。赤と青の波長の比率としては、赤5:青1、または赤10:青1が良いと言われています。今までは、植栽を育てるにも白色光で行ってきました。その場合、植栽の方と打ち合わせをすると、約1000~2000lxを数時間照射してほしいと言われてきました。白色光の中にも、光合成に必要な赤と青の波長も含まれてはいるのですが、実は青色光は多いが、赤色光は殆ど入っていない。よって、ある程度の時間をあてることで、光合成に必要な光を得ていたと考えられます。」

UPI表参道 1日の光の流れ 画像

自然を感じさせるライティングとは?

山口「次に、技術的なライティングのテクニックについてです。今回の空間がスケルトン天井ということで、それを活用して、照明器具を一番天井側に設置し、店外からは梁で照明器具が見えないようにすることで、あたかもトップライトから光が照射されているようにしました。トップライトだと思う理由は実はもう1つあります。外の太陽の光とかなり似せて、朝・昼・夕方・夜と、外の時間と同じような色温度や明るさに店内の照明が変わるようにしています。それゆえ外からだと、本当の空も見え店内も同時に見え、その色温度がすごく似てるので、あたかもトップライトのように見えるため、店内に入ってこられたお客様が上を見上げるのだと思います。

朝は、この森の中も爽やかな感じにしたかったので色温度を10000K、スポットライトの調光率も100%にしています。そして、現場で実験して感じて決めたのですが、採用した遠藤照明の次世代調光調色『Synca』は色味も調整できるので、少し乾いた感じにしたかったので、Duvを少し緑みにふり、朝の爽やかさを演出しました。Duvは太陽光に近い黒体放射軌跡からのズレを表すものなのですが、例えば色温度3000Kといっても、実はメーカーによって色味がピンクっぽかったり緑っぽかったりします。つまり、同じ3000Kでも、なんとなく色合いが違います。『Synca』はDuvを現場で調整できるので、朝は爽やかな感じに調整しました。 植栽に当てると、その色合いによっては乾いた感じに見えたり、少ししっとりした感じにも見えたりします。

昼は、朝よりも闊達なイメージにするため、色温度を5500K・調光率は100%、Duvは中間の値にしました。そして夕方は、黄昏た感じにしたかったので、色温度は1800Kにしました。自然界だと夕方は2000Kぐらいなのですが、もう少しイメージをつけたかったので、1800Kを選びました。何故かというと、店舗内には自然界にない白い壁や物販の明るさがあることより、人が感じている夕景のイメージにはならなかったので、色温度をもう少し低い1800K・調光率を18%、さらにDuvも少し赤みにして、葉に重みとうるおいを感じるように調整しました。

夜は、写真だとわかりにくいですが、月明かりのイメージにしたくて、色温度を12000K・調光率を1%、Duvを中間の値にしました。森の中のフクロウが鳴いていそうな感じです。実は夜は最初、電球色を一番暗くしてみたのですが違和感があったので、月明かりのような色温度12000Kを選びました。このように、自分たちが思う、朝・昼・夕方・夜のイメージに近づける工夫をしています。また、夜に関しては、焚き火をたいたり、ランタンを点ける、といった実験をする場所であることも考慮して、明るさを決定していきました。

そして閉店後に関しては、 光合成のために、先ほどの赤色光と青色光を混ぜて照射しています。朝と昼に関しては、まだ窓からも太陽光が入ってきているので、光合成ができていると思うのですが、夕方はほぼ太陽光が入ってきていないので、その分を補うために、22時から朝5時まで、光合成に必要な赤色光と青色光を点灯しています。

少し蛇足になりますが、より森らしさを演出するために、庭師の方からもアドバイスを頂いて、細かなライティング調整をしています。実際の自然では、上の方に木の葉が多い場所は下の方は木陰になっていて、植栽があまり育たないような場所があると伺いました。現場の植栽計画にしても確かにそうで、大きな木の下にはあまり植栽が生えていない。スポットライトなので、向きを変えれば当てられるのですが、木陰の部分には光を当てないようにしました。

その他、自然感を出すために、川の流れがあるのですが、深い川ではないので水自身の意識が無い状態になってしまいがちです。そこで、水のちょっとした段差に光をうまく当てることで、浅瀬でもキラキラ見えるようにスポットライトを調整しました。」

UPI表参道 物販エリア 画像

”物販エリア”の照明デザイン

山口「自然エリアを外・屋外と考え、物販エリアを内・テントや山小屋の中と考えました。テントや山小屋の中のイメージとしては、温かいホッとした感じにしたかったので、電球色にしました。そうすることによって、自然エリアは昼は白色系なので、より対比になって相乗効果で、内と外が演出できると考えました。ただ、あまりにも違和感が出て物販エリアが暗かったり、逆に自然エリアが白くて興ざめすることはしたくなかったので、物販の方も、電球色の中で色温度や明るさを時間に応じて調整しています。朝・昼はやや白めの色温度3000Kで調光率100%、夜は自然エリアが月明かりの青白い印象なので、もっとほっとする感じの2700Kにし、良い意味での違和感を作るようにしました。」

次世代調光調色『Synca』採用ポイント

山口「3つポイントがあります。1つ目のポイントは、1つの照明器具で調光調色ができるという事です。営業時は照明の演出が出来て、夜は同じスポットライトで光合成用の照明ができる。それが、すごいメリットでした。今までは、植栽を入れるとなると、通常の営業時の照明にプラスして、光合成用の照明を別に導入する必要があり、イニシャルコストが追加でかかったのですが、今回はそこが抑えられました。2つ目のポイントは、時間とともに植栽が成長して変わっていくと思うのですが、植栽の変化に合わせて照らすエリアや明るさが容易に変えられることです。今までは、点灯エリアを変更したい場合、電気工事が必要でした。しかし、ここまで川や植栽があるとなかなか工事も難しい。それが照明器具1台1台を、無線で変更できる点がメリットだと思いました。3つ目のポイントは、タイマー制御とフェード制御がこのスポットライト1台でできることです。それがあることで、先程から言っている朝・昼・夕方・夜の時間帯で、誰の手も借りずに自動でゆっくりと違和感のない状態でシーンが移り変わっていくことができる。この3つを検討した結果、今回は『Synca』になりました。」


「UPI表参道」がオープンして

実際に運営をされている「UPI表参道」の店長さんに、事前取材をさせて頂きました

UPI表参道 溜池店長インタビュー 画像

お客様の反応

溜池店長「「UPI表参道」は、都会にいながらお店の中に自然エリアがある、体験型アウトドアストアです。ここの特徴である自然エリアに惹かれて来店くださる方が多いのですが、まずここに入ってこられて、外との境がどこにあるかわからないからなのか、入ってまず吹き抜けがあるのかな?と上を見られる方が多いです。外との違和感がないということが、ここの世界観にすっと引き込まれてしまう要因だと思っています。

ここ天井はすべてコンクリートの打ちっ放しで、そこに調光調色ができる照明があり、自動で時間に応じて色が変わっていきます。照明の明るさや色味が、その時間帯によって外と合わせてあるというのが大きな特徴だと思います。朝は少し青白い光、お昼になると柔らかくなって黄色味が強くなります。夕方になってきますと西日のようなオレンジ色の光に変わっていく。夜になると照度が落ちて、外が暗くなればこの店の中も暗くなる。お客様は、そこをすごく自然な流れのように感じておられるのだと思います。お店の中に”いかに外を作れるか”というところが実感を沸かすポイントだと思います。

そして、植物のためには1日の流れが必要です。明るい時間もあれば真っ暗な時間もある。明るいだけではなく、この植物が光合成をできるような時間も取ってあげなくてはいけない。スタッフは24時間いることは出来ません。つまり、この照明ありきで、ここの空間は保たれています。夜中に光合成に必要な波長を照射しています。それゆえに、ここまでイキイキ保っているのかと思います。その他特徴的なのは、実験的ではあったのですが、去年オープンして間もない時期に蛍の幼虫を川に入れ、初夏にはしっかりと羽化して店内で光りました。スタッフ一同お客様も含めて感動でした。非常に、自然はたくましいと思います。それを、この都会にいて感じられるのは素晴らしいと思っています。」


オープンから1年、そして次のチャレンジへ

1年が経過され、運営されている方の生の声を聞かれて、建築家として照明デザイナーとしてどう思われましたか?

UPI表参道 ディスカッション 画像

山﨑「やはり水・光・土・風といった条件が揃うと、自然のパワーはすごいなと思いました。3年4年は試行錯誤を繰り返すとお店の方と覚悟をもって始めたのですが、自然の力強さには本当に驚きました。先ほどの焚き火の達人の方もおっしゃっていたのですが、この庭を維持していくために我々は物を売らなきゃいけないんだと、その逆転ですね。というくらいの覚悟を持って我々はこの庭と付き合っていかなくてはならない。観葉植物のように枯れたら取り替えてという扱いの植栽ではなく、本当に今そこにある生き物と付き合っていく気持ちでお店の方は取り組んでおられるので、我々も行くたびに良い場所だと思っています。」

山口「今、空間の中に植栽を取り入れるデザインが多くなってきて、外光が入らないようなハードな環境に植栽を入れるための照明の相談が多くなりました。」

ハビエール「仕事や住んでる場所も近いので毎週のように立ち寄るのですが、立ち寄る意味は常に変化が見つけられることです。デザイナーは、つくった建物や店に何回か、1年後や久しぶりに行ってみたりするのですが、そんなに大きくは変わりはしない。ただ今回のお店は、常に変化が続いていて、行く度に何かを発見します。そして行くことで、人間関係も出来ていきます。そういった意味でも、僕たちデザイナーにとっても、特別な場所になっていく。常に変化があるということは大きなこと・特別なことだと思っています。」



表参道の後に、2021年の7月にオープンされた関西エリア唯一となる直営店『UPI京都』について教えてください。

UPI京都 画像

山﨑「京都はもともと実店舗があり、それを拡張して全商品見せられるようにしたいというリクエストでしたが、京都の場合はまた違う制約がありました。先程、人の営みも自然と捉えると言ったのですが、今度は逆に、人の営みの中に自然が入ってくる。少し廃墟感がある感じで、京都の路地のコンクリートが割れたところから植物が生えてきてるような、自然の力強さを表現できたらと考えました。実際、床のコンクリートをはつった部分があるのですが、その間から植物が生えているような空間の作り方をしています。ここは、表参道のような排水がとれない状態なので、路地裏に生えているドライな植物を採用しました。」

山口「ここは、京都でよくある”うなぎの寝床”で入り口が一番手前しか無くて、表参道よりも外光が入らない空間でした。つまり、植栽を育てるためには、朝も昼も照明に頼らざるを得ない。僕は趣味で植栽をやっているのですが、窓の近くに置いておくと、自然と外光の方に葉や花が向いていきます。今回は外光が入らないので、照明で向きが変わっていくかもしれないと考え、できるだけ照明のライティングも植栽の上の方から当ててあげる、 四方八方から光を当たるようにすることで、植栽が曲がっていかないようにできるのではと考えました。そして夜は、京都は入り口の扉が閉まると店内が見えないようになっているのですが、照明は赤と青のみの植栽のための光になっています。」



今のキーワードである体験型店舗やバイオフィリックデザインなどが散りばめられ、その他チャレンジングなことを『UPI表参道』はされました。次は、どのようなチャレンジをしていきたいですか?

山﨑「基本的にはやはり意味のある場所・意味のある空間・意味のある建物・意味のあるプロジェクトにするために、常にチャレンジしていきたいですね。今回たまたま、こういう自然というものにチャレンジすることになったのも、やはりプロジェクトの意味を深く考えた結果であって、最初から自然が作りたいというわけではなく、その意味を本質を掘り下げていった結果なので、それをずっと続けていけたらいいなと思っています。」

ハビエール「プロジェクトに深い意味を持たせていくのは1つ大きなことですが、プロジェクトを進めていくに当たって色々なインプットを得ること。様々な人たちとの関わり・インプットを受け入れて、空間を進化させたりプロジェクトを進めていくことで、自分たちも新しいものを見つけることができる。自分たち自身も出来上がった物に対して非常に驚きも持てる。そういったことを続けていきたいと思っています。」

山口「今までのライティングデザインは、人のため、お客様が快適に過ごせるために考えることが多かったのですが、今回、植栽のためという考え方があると本当に思いました。オフィスや商業施設に植栽が置いてあることはよくあるのですが、ただ置いてあるではなく、植栽が本来あるべき自然の光環境の中で見せてあげることによって(例えば湿度があるような環境の中で育ってきた植物には、湿度をもったような光/砂漠のような環境で育ってきた植栽には、太陽光のギンギンと明るく照らされているような光)、その植栽自身がイキイキと見える。それは人に対しても良く、WINWINの関係になるのではないかと思いました。面白いなと思いました今回。」


事務局「今、『人工照明→自然照明ですね』というコメントを頂きました。皆様の想い、きっと伝わったと思っております。山崎さんハビエルさん山口さん、貴重なお話をありがとうございました。」

本トークイベントの話題にも上がっております、次世代調光調色「Synca」は、以下WEBページで詳細をご確認いただけます。

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