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災害大国とも呼ばれるほど、自然災害の発生しやすい国、日本。照明においても、自分やまわりの人々を守るために予測できない災害に対する備えが必要となる。 今回は、そんな災害時を想定した照明器具の選び方や照明計画について実際の事例を交えながらご紹介する。
災害、と言われると、2011年の東日本大震災を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。複数のプレートが集まってできている日本は世界でも有数の地震多発地帯になっており、今後も南海トラフ地震などの発生が予測されている。
もちろん、日本で起こる自然災害は地震だけではない。近年は世界的な気候の変動を原因として、豪雨による河川の氾濫や冠水、台風によってもたらされる暴風など、急峻な地形を持つ日本は影響を受けやすく、様々な大規模な自然災害が増えている印象だ。
家庭でも企業・自治体でも災害に対する備えが常に必要となるが、それは照明においても例外ではない。耐震性能や防塵・防水など災害に耐え得る照明設備であるかどうか、また避難所などでは、人々が不安なく健康に避難生活を送れるようその時々で適切な明るさを保つなど、災害時に対応できる安全性が求められる。
まずは、照明器具の防塵・防水性能を確認することが大切だ。防塵・防水性能は国際規格であるIEC60529に準拠して日本工業規格が保護等級(IP)を規格化しており、照明器具にはIP◯✕、といったように、◯の部分に防塵性能を表す保護等級の数字を、✕の部分に防水性能を表す数字を表示し製品スペックが記載されている。
防塵性能は無保護を表す0から、1では50mm以上の固形物、2では12.5mm以上の固形物、といったように保護できる外来固形物の大きさによって等級が定められており、最大等級の6では耐塵試験用の粉塵(75μm)が侵入しない保護がなされている。
防水性能では無保護の0から、垂直落下の水滴の影響を受けない1、水の侵入角度によって4までの等級に分けられ、さらに5と6では耐え得る水の威力で分けられている。より高い等級の7と8はそれぞれ、水中に沈めても水の侵入から保護することができる防浸型器具・水中型器具として規定されている。
台風による粉塵などの飛来や津波や大雨による浸水の影響を受けずに災害時も稼働できる照明かどうか、普段から確認しておこう。
地震に備えて、耐震性能もきちんと確認しよう。一般社団法人日本照明工業会による照明の耐震設計指針「照明器具の耐震設計・施工ガイドライン」では、耐震クラスはB・A・S2の3つの耐震性能で分けられている。
水平方向の地震による影響を表す水平震度などを目安としており、特に避難所として利用される体育館など、災害時対応に特に必要な安全を確保しなければならない施設の特定の天井には、耐震クラスS2に区分される2.2Gの耐震性能を有することが必須となっている。
必要な耐震性能を持ち避難所として安心して利用できる照明器具かどうか点検しておく備えが重要となるだろう。
災害時、体育館など避難所として利用される場所において、照明は避難生活をストレスなく送るために重要な役割を果たしている。特に長期の避難生活において照明がネックになることが2016年の熊本地震の際の熊本県教育委員会による調査(※1)で分かっている。
調査によると避難直後はトイレや非常用電源、情報機器や水などの需要が高いが、避難から1週間経つとより安全で安心できる避難環境を求められる傾向にあり、夜間に真っ暗になってしまうため体育館入り口の照明が欲しい、調光機能があるとよい、といった快適な照明の需要も高まっている。
では、実際に災害時の照明に必要な条件とは何だろうか。
※1 参照:文部科学省 第2章「熊本地震の被害を踏まえた学校施設の整備について」緊急提言 避難所機能の確保 p18 より
まずは、調光の可能なLED照明を備えることだ。従来の明るすぎる体育館照明では、心身ともに負担のかかりやすい避難所生活において睡眠を上手く取れない原因になったりするなど、生活リズムが乱れ健康に悪影響を及ぼす可能性がある。
安全や安心のために暗すぎず、かといって明るすぎて負担のかからないようにすることが、避難所照明には重要だ。調光機能を利用して夜間も最適な明るさにすることで、睡眠環境を確保することができる。
また、LED照明に変え、調光により必要な光を選ぶことで大幅な省エネも期待できる。平常時はもちろん、電力に不安のある災害時にも役立つだろう。LED照明には他にも、即時点灯が可能でON・OFFがしやすいことなど、様々なメリットがある。
用途に合わせて調光可能であれば、普段、体育館として授業や学校行事に利用する際にも生徒たちの学習環境の向上につながるのではないだろうか。
※参照:日本照明工業会「避難所照明のご提案」 p.5より抜粋
さらに、照明器具の個別コントロールを取り入れることで、より適切な光の制御が可能になるだろう。例えば、避難している人々が生活する居住スペースは生活リズムに合わせて夜間の照明を消灯し、見回りのための通路や物資の運搬に使われる通路は明かりを確保しておく、など、個別制御機能を利用すれば各部を細かく調光することができる。
上記の熊本地震の調査でもあったように、夜間に避難してくる人々などのために体育館の入り口照明をつけておくことも、すでに避難生活を送る人の睡眠を妨げないままにできるようになるのだ。
無線調光システムを利用すれば配線工事のコストもかからず、使っていないコートは消灯しておくなど、平常時にも省エネにつながる最適な利用が可能になる。
実際に災害時を見越した照明計画を取り入れ、体育館照明がリニューアルされた事例を見てみよう。
新体育館の建設に合わせてLED照明が利用されたこちらの事例では、災害対策のために落下防止ワイヤーを備えた特注仕様の高天井用LEDが設置された。
投光器の配置など競技時の配慮もなされながら、災害時にも対応している。
旧練成中学校を利用して誕生したアートセンターで、レンタルスペースのひとつにこちらの体育館がある。旧体育館の照明器具を耐震仕様の体育館用のLED照明器具へリプレイスし、調光機能が追加された。
常夜灯を含めた4種類の点灯パターンで、イベント時などはもちろん、災害時にも安心して利用可能な体育館照明となっている。
東日本大震災をきっかけに耐震性能が見直されたこちらでは、天井の改修とともに照明も高い耐震性能を持つLEDへとリプレイスされた。
避難所利用時も考慮し、調光仕様や段階的な点灯が可能なLEDが導入され、安全で快適に利用できる環境を実現している。
災害時の備えとしてこれまでいくつかの照明のポイントをご紹介したが、今後もさらにより快適な環境をつくるために公共施設照明は重要になっていくだろう。進化している照明器具・機能を上手く取り入れていくことで果たせる、新たな役割があるかもしれない。
例えば、時間のサイクルに合わせて調光・調色を行うのはどうだろうか。
人間などの生物にはサーカディアンリズムと呼ばれる約24時間周期の生体リズムがある。体内時計によって調整され、睡眠や血圧、ホルモンなど生命活動がこのリズムによって変動しているため、健康にはサーカディアンリズムを正しく保つことが大切になる。そのリズムのズレを修正するために重要なのが光だ。
避難生活でも自然界の光を再現し健康を保つため、朝は高色温度・高照度、夜は低色温度・低照度と調光・調色を行うとよいだろう。災害時の安全性と調光機能を兼ね備えた体育館照明に今後調色機能を追加できれば、より快適な環境を再現できる。
光が持つ色には、人々のメンタルケアに効果がある。照明の色の調節によって災害時の不安を落ち着かせたり、少しでも気持ちを明るく保つ手助けにつながるだろう。
特に不安になりやすい夜は、暖かみがあり明るすぎない照明で気持ちを和らげながらできるだけ良い睡眠を取ってもらうことが大切だ。
無線で調光・調色、カラー演出が可能な「Synca」を利用すれば、幅広い調光はもちろん121色のカラーライティングで、やわらかな色で安心できる施設をつくりだせる。
もちろん平常時には、催事や演劇のカラー演出で大いに役立つだろう。
人口の多い場所では特に、避難を急ぐ多くの人々で混乱を招いてしまうこともあるだろう。地域ごとの避難所や集合場所、そこに向かうまでの道のりをスムーズに避難が行えるよう、光を用いた区分けを行うのはどうだろう。
屋外向け照明でありながら調光・様々なカラーの調色が可能な「Outdoor Synca」を利用して、「A地区の人は青い街灯に沿って広場の青い光の下に集合する」など、非常時にそれぞれの地域ごとの集合場所、動線に合わせたカラー分けを行えば、災害時の不安の中でもパニックを避け、スムーズに避難が行えるのではないだろうか。
今回の記事では、災害時における照明の重要性や、災害を想定した快適な避難所のためのポイント、さらに、安全で快適な避難生活を送るために照明ができることについてご紹介した。
地震のみならず台風、豪雨といった災害は、自然とともに暮らす我々にとって避けることができない問題である。
災害時の使用も想定される施設では、非常時の照明の安全性と快適性の両方を意識すべきだろう。
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