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「しっかり寝たはずなのに疲れが取れない」「夜中に何度も目が覚めてしまう」。こうした現代人特有の睡眠の課題に対し、光は深く関わっている。どのように光をコントロールすれば、私たちはぐっすりと眠れるのか。最新の知見と、睡眠のための理想の照明計画について、SleepLIVE(株)代表取締役、睡眠コンサルタントの小林麻利子さんに聞いた。
睡眠カウンセリングの現場で、10年以上睡眠の悩みと向き合ってきた小林さん。近年、睡眠への関心が高まる背景には、どのような不満や欲求があるのだろうか。現代の睡眠の傾向や課題について、小林さんは次のように話す。
「現代人の多くが睡眠に悩みを抱えていますが、最近の傾向として目立つのは、年齢を問わず”中途覚醒(夜中に目が覚めること)”に悩む方が増えていることです。また、寝起きが悪い状態が当たり前になっており、休日にしわ寄せが出て、平日より起床時刻が遅くなる方は非常に多いです。日本人は世界で最も睡眠時間が短く、睡眠満足度も低いというデータがあります。深刻なのは、多くの人が”眠れない状態”に慣れすぎてしまい、自分の睡眠不足を自覚していないこと。これは肩こりと似ていて、専門家に見てもらって初めて自分の体がカチカチだと気づくような状況です。具体的な症状を伺って初めて『そういえば睡眠に不満がある』と気づく方が非常に多いのが現状です」
良い睡眠には、以下の3つのポイントがあると小林さんは説明する。
体内時計は約24時間(平均24.2時間前後)の周期で動いており、わずかなズレを日光によって毎日リセットしている。
自律神経は日中は交感神経が優位に働き、夜は副交感神経へと切り替わる。この切り替えがスムーズであることが、良質な睡眠に重要である。
入眠時には手足の血管が拡張して熱が放散され、脳や内臓の深部体温が低下する。深部体温が十分に下がることで自然な眠気が生じる。これが不十分だと入眠困難や睡眠の質低下につながる。
「これら全てをコントロールする鍵となるのが”光”です。朝に光を浴びることでセロトニンの分泌が促され覚醒度が高まり、その約14~16時間後、暗くなるタイミングでメラトニンが分泌されます。メラトニンは副交感神経を優位にし、手足の血管を拡張して放熱を促すことで、深部体温を低下させ、自然な入眠へと導きます。このように光は体内時計の調整だけでなく、自律神経や深部体温にも影響を与えるため、睡眠改善において最も優先すべき要素です」
※セロトニンは精神の安定に関与する神経伝達物質であり、夜間にはメラトニンの原料となる。
では、どのようにしたら良質な睡眠がとれるのだろうか。小林さんは、自身の努力で生活リズムを改善するのではなく、住環境から睡眠対策を徹底した、良く眠れる空間づくりを提案をしている。
「照明の変化によって、人の行動を誘導する空間づくりをしています。例えば、子供に『お風呂に入りなさい』『寝なさい』と言葉で伝えてもなかなか動きませんが、照明を時間と共に変化させることで、自然とリビングから浴室、寝室へと足が向くように促せるのです。
理想的なのは、夜になるにつれて色温度と照度を段階的に下げる“光のグラデーション”です。日本の住宅は、特に浴室や脱衣所、トイレなどの水回りが明るすぎると感じています。寝る直前に強い光を浴びると、メラトニンが抑制され、眠りの準備が整いません。当社の睡眠スタジオでは、時間制御によって光を自動で変化させ、自然に睡眠モードへと導いています」
実際に小林さんが代表を務めるSleepLIVE(株)の睡眠スタジオで実践しているという理想の運用スケジュールを紹介していただいた。良質な睡眠のために、生活全体を光でデザインしている様子が窺える。
「起床の30分前から徐々に寝室の光の照度と色温度を上げていきます。音ではなく”光で目覚める”のが理想です。特にダイニングテーブルの明るさと光の色味を重視しています。
一般的な家庭の明るさは300~500lx程度ですが、スタジオでは650 lx、色温度*は最高値の12,000K(晴天の青空に近く、睡眠スタジオに導入している照明Syncaの最高値)に設定しています。 朝一番でこの「明るく強い光」を浴びることで、セロトニンを活性化させ、血圧や血糖値を上げて、活動モードへ切り替えます。外が雨や曇りでも、照明で光を補うことで天候に左右されずにアクティブに過ごすことができる。朝のスイッチを入れることが、夜の良質な睡眠への第一歩となるのです」
*色温度とは?くわしくはこちら
「帰宅後の夕方~夕食の時間になったら、色温度を下げていきます。太陽が沈んだ後の自然界に強い光はありません。照明が変わることで、『もう夕食の時間だ』と次の行動を自然に察知するようになります。就寝の2~3時間前から体は眠りの準備を始めているため、そのリズムを邪魔しないよう、段階的に光の照度と色温度を下げていきます」
「日本の住宅の大きな課題は、寝る直前に過ごす脱衣所やトイレなどの水回りが明るすぎることです。スタジオではトイレはキャンドルの炎に近い1,800Kまで落とし、照度も絞っています。 また、光の位置も重要です。夜が更けるにつれて、天井の主照明を消し、壁面のライン照明、スタンドライト、そして最後は足元のフットライトへと、光の重心を下げていきます。この上から下へのグラデーションにより、気分が穏やかになり、ほぐれるような感覚へと導くのです」
住宅以外の施設、特にホテルや病院など、睡眠が重視される空間について、小林さんはどう感じているのだろうか。
「ホテルに泊まる際も『この空間は本当に眠れるのか』という視点で見てしまいます。残念ながら、高級でハイセンスなホテルであっても、眠りの質という点に関してはまだ配慮が足りないと感じるのが実情です。
寝室も、睡眠空間を研究している私の立場から見れば眩しすぎるものが少なくありません。特に気になるのが、ベッドにゴロンと仰向けに寝転んだ時の光の見え方です。光源が直接目に入ったり、枕元の手元灯をオンオフする際の刺激が強すぎたりすると、せっかくのメラトニン分泌が妨げられてしまいます。
例えば、ヘッドボードと壁の間にライン照明を忍ばせ、直接光源を見せずに上向きの間接照明をつくると、睡眠を妨げません。
また、睡眠のために、毎回自分で光を調整するのはなかなか大変です。一部のホテルに見られるナイトパネルのように、ボタンを選ぶだけで、あらかじめ設定された入眠モードに切り替わるような工夫があるとよいと思います」
また、病院や介護施設は睡眠環境の改善が遅れている場所の一つと指摘する小林さん。
「私自身の出産経験でも感じましたが、産後の体を休める病院で、看護師さんが確認のために深夜2時に『おはようございます』と強い光をつけて見回りにくることがあります。患者さんの安全確認は重要ですが、それが眠りの妨げになることも。
医療・福祉の現場こそ、サーカディアンリズムを守る照明管理が必要だと思います。患者さんの眠りを邪魔せず、かつ医療者が安全に確認できる適切な光をどう配置するか。これには、患者さんのための光と、看護師さんのための光を切り分け、コントロールする技術が不可欠です。
医者や看護師、介護士など、医療福祉関係者の方にも、光が人体に及ぼす影響を知っていただく機会を増やしていきたいですね」
これまでの睡眠改善は、寝具などの睡眠グッズや生活習慣の改善などに頼ってきた。しかし、小林さんが提案するのは、「頑張って寝る」のではなく、光に導かれるように「自然に眠くなる」状態。そんな人の行動をデザインするような空間づくりに挑戦している。
「人の営みは起きているか、寝ているかのどちらか。その”生きる”ことの根幹にあるのが睡眠」と考える小林さん。睡眠という視点から、住まいや空間づくりにおける光を捉え直すと、新たな可能性が見えてくる。 光の設計により、自然と目覚め、眠くなるように、睡眠習慣は変えられるのだ。

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