緑と共に働き、暮らす
バイオフィリックデザインを導入した
集合住宅「LEAF COURT PLUS」
2023.2.14
「LAEF COURT PLUS」の中庭。吹き抜けの中央にベンチとテーブルを設けた。壁面にも緑化を施し、立体的な「緑の谷」を形成している。
ランドスケープデザイナーが手掛けるリノベーション
東京・渋谷区幡ヶ谷にある集合住宅「LEAF COURT PLUS」は豊かな緑を取り入れたバイオフィリックデザインを導入した賃貸マンション。空とつながる広々とした中庭や地下のワークスペースなどの充実した共用部は、都心であることを忘れるような、みずみずしい緑に包まれる。
元々は不動産事業を展開する荒井商店がマンスリーマンションとして運営していたが、「緑と共に働き、暮らす」をコンセプトにリノベーション。ウィズコロナ時代を見据えて、働き、生活する場所に植物があることが人の心理に重要な役割を果たすと考え、バイオフィリックデザインの導入を決めた。共用部のデザインディレクションを手掛けたのは、ランドスケープデザイン事務所のスタジオテラだ。みどりを中心にしたリノベーションのため、ランドスケープデザイナーがインテリアも含めて監修するというユニークな取り組みとなった。
バイオフィリックデザインを取り入れたリノベーションのコンセプトについて、スタジオテラ代表の石井秀幸さんは次のように話す。
「これまでのように、人間優先の空間にみどりを取り入れるのではなく、生き生きと植物が育つ環境に人間が寄り添うという形があるべき姿だと考えています。そのためには、植物が生育するための、光、風、水という環境を整えることが重要になります」
人間のための環境ではなく、植物と共生する環境へ。特に地下に設けたワークスペースには、自然光があまり入らない室内で植物を育てるため、特別な配慮が求められた。そのため、植物のことを考えた照明、湿度、空調を計画した。
ワークスペースでは、中央の植栽帯を囲むようにデスクを配置。テラスの植栽と緑が重なることで、奥行きを醸し出している。
植物のための光を計画
照明計画はフィグライティングデザインの永松冴子さんが担当した。石井さんは「演出照明とは異なる視点で照明を考えてほしい」と依頼したという。「どのような光で植物を育てるのが良いか。リサーチから始めて、植物のための光を計画しました」と永松さんは語る。室内で植物を育成するという課題に加え、植物の種類もハードルを上げることになった。通常、室内で育てられる観葉植物ではなく、屋外に自生するヤツデやシダなど、日陰に強い常緑樹を中心とした構成としたためだ。地域の潜在植生に配慮した自然な風景を室内外に連続させたいと考えた。
照明のポイントは、まず、植物の育成に必要な赤い波長と青い波長の光を当てること。人工の光に不足する波長の光を補い、人が活動しない夜間に照射している。次に、自然光のサイクルに近づけるよう、タイムスケジュールを設定した。日の出と日の入りに合わせて、年間のタイムスケジュールを10パターン作成。1日のうちでも色温度と照度を変化させながら、24時間365日の照明をコントロールしている。こうした光環境は、調光調色が可能な遠藤照明のSyncaを採用し、実現したものだ。
また、一般に植物が屋内で生育するためには、2000lx程度の照度が必要とされる。そのため、スポットライトによりピンポイントで植物に照射し、植栽エリアは1000~2000lxを確保。しかし、人間にとってはまぶしすぎるので、人が過ごすエリアは200〜500lx程度とし、部屋全体が明るく眩しいオフィス空間のようにはならないように配慮した。夜にかけては、徐々に明るさを落とし、日没後しばらく経つと、植物も人も休息時間となるよう、ランタンや足元灯だけの落ち着いた灯りとした。細やかな調整には、遠藤照明の無線調光システムSmart LEDZを使用した。「現場で実際の光のバランスを見ながら、空間を光で彫刻するようにつくり込むことができます」と永松さん。
植物にはスポットライトで照度を補い、1000~2000lxの照度を確保。デスク周りは人が心地良い200〜500lx程度と明るさにメリハリをつけている。
人間と自然の接点をデザインする
「夜21時以降は全消灯し、植物が休む時間帯もつくっています。ワークスペースなので、深夜に利用されたいというニーズもあるかと思いますが、クライアントの理解があって、実現したこと。人と植物の折り合いをどのようにつけるか。それも押し付けるのではなく、人も心地良く感じられるようにしたい。そうした自然と人間との接点をデザインすることが、ランドスケープデザインの仕事だと考えています」(石井さん)。
植栽計画や照明だけでなく、空調や湿度環境などにも、実験的な試みを多く取り入れた当プロジェクト。今後、継続的にモニタリングしながら、状況に応じて調整していく方針だ。植物のための自然な光が、人にとっても心地良く感じられるように。演出照明とは異なる、自然の生理に従った植物視点の光のアプローチは、新たな照明デザインの可能性を秘めている。
LEAF COURT PLUS照明の年間タイムスケジュール
LEAF COURT PLUSデザインチーム。右からFIG Lighting Design 永松冴子さん、スタジオテラ 石井秀幸さん、野田亜木子さん、渡邊聡美さん、鈴本麻由美さん。
「LEAF COURT PLUS」を詳しく知りたい方はこちら!
LEAF COURT PLUS
東京都渋谷区幡ヶ谷2-3-4
事業主・運営:荒井商店
設計:共用部総合デザイン監修・ランドスケープデザイン/スタジオテラ
共用部インテリア実施設計/ジーク 共用部照明計画/FIG Lighting Design
施工:共用部インテリア施工/ジーク 植栽施工/東光園
面積:敷地面積/1281.930㎡ 建築面積/651.513㎡
撮影:篠澤建築写真事務所
Writer
ヒカリイク編集部
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