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オフィス空間に求められるCMFとは
――FLOOAT吉田裕美佳さんがデザインする
光を映し出す色、素材、質感でつくるワークスペース

2023.9.13
オフィス空間に求められるCMFとは <br><span>――FLOOAT吉田裕美佳さんがデザインする <br>光を映し出す色、素材、質感でつくるワークスペース</span>

三井物産都市開発本社オフィスのインテリア。
チーク材をメインにした落ち着いた空間に北欧家具をコーディネート。
ラウンジチェアのファブリックの素材や色味、イスのオーク材の色味をチーク材に合わせてセレクトした。(撮影:見学友宙)

近年、オフィス空間のデザインにおいて、CMF(カラー、マテリアル、フィニッシュ)が注目されている。
CMF自体は以前からデザインを構成する要素として捉えられてきたが、なぜ関心が高まっているのだろうか。
洗練されたCMFが特徴的なオフィスの数々を手掛けてきたFLOOATのディレクター、吉田裕美佳さんに聞いた。

オフィスに求められる居心地の良さ

洗練されたカラートーンの空間に、木や柔らかなファブリックなどのマテリアルがコーディネートされた上質でシックなワークスペース。インテリアデザイン事務所FLOOATのディレクター吉田裕美佳さんが手掛ける、感性に作用する心地良いオフィスは、日経ニューオフィス賞を受賞するなど、高く評価されている。吉田さんのインテリアの妙は、色合いや素材、仕上げの組み合わせによって生まれる、トータルな調和が生み出す空気感にある。そうしたCMF(カラー、マテリアル、フィニッシュ)を駆使した居心地の良いインテリアが求められる背景について、吉田さんは次のように説明する。

「オフィスの目的が変化したことが大きいと考えています。作業の効率性から生産性やコミュニケーションを重視するようになりました。カジュアルな会話が生まれたり、その場に滞在したいという気持ちになる空間を考えると、やはり柔らかく居心地の良いデザインがふさわしい。そうした空間を目指してつくっています」

リモートワークの普及やPCがあればどこでも仕事ができる環境になって、オフィスの意味が変わった。作業する場所から、コミュニケーションを誘発し、仕事の質を高めるオフィス空間へと変化した。そのため、デスクが島型にレイアウトされた機能重視のデザインよりも、居心地の良さが求められるようになったのだ。

三井物産都市開発のオフィス。窓辺の壁を厚くして、斜めに差し込む光を印象的に導いている
窓辺にはインナーテラスを設け、グリーンを配した。緑を介して木漏れ日が揺れる(撮影:見学友宙)

光を映し出す質感で空間をつくる

居心地を良くするための設計には、レイアウト、素材、色など、さまざまなアプローチがあるが、中でも光は重要な要素となる。「なるべく窓を塞がないようにして、自然光を中まで引き込むようにしています。加えて、照明で明るさを補います。蛍光灯っぽい青白いLEDの光の中で一日気を張って過ごすことがないように、光の移り変わりが感じられるようなデザインをしています」

例えば、三井物産都市開発のオフィスでは、窓が連続する既存のデザインを生かし、壁をふかして厚くすることで、より窓を印象的に。また、光の差し込む角度を緩やかにし、柔らかく室内に導く効果も生まれた。窓辺にはグリーンを配し、木漏れ日が差し込む余白をつくっている。

照明は、調光調色照明(遠藤照明「Synca」)を採用。一日と年間を通じて、自然光に近い照度と色温度の変化を再現できる点に加え、色味の調整ができる点も評価している。

「私たちのデザインの特色として、真っ白な色をあまり使っていません。自社オフィスの壁も朝はブルーっぽくて、夕方になるとピンクがかって見えるような微妙なベージュトーンで塗装しています。ちょっとムラがあって、それが陰影を生むのですが、わざとらしい色味の光では、かえって人工的に見えてしまうような難しい色合い。以前使っていた照明では、どうしても赤味が抜けない時がありましたが、Syncaは自然な色合いになります。光を映し出すような色や素材、質感で空間をつくっているので、光の質は重要なのです」

FLOOATのオフィスは、肌色のようなやさしいベージュの塗装で、影の部分は一部グレーにも見える。一枚の壁でも色のグラデーションが生まれる表情豊かな壁だ。移り変わる日の光や空模様を映し出しながら、より印象的に感じさせる。これが吉田さんの求める光のあり方なのだろう。

FLOOATオフィス。光によって生まれる豊かな表情を感じ取れるよう、インテリアはミニマムなデザインに抑えている
ポーターズペイントで塗装した肌色の壁は、移り変わる光のグラデーションを映し出す(撮影:ナカサ&パートナーズ)

品のある空間は人を育てることにつながる

心地良い空間のためのマテリアル選びも吉田さんならではの繊細な感性が表れる。手で触れた時に天然の素材が持つ柔らかさを感じてもらいたいと、なるべく自然素材を選択。色や質感の組み合わせで、心地良い景色をつくり出す。インスピレーションソースとなるのは、自然の風景。山の中を散策しながら、心地良いと感じる要素の色味をカラーチップで確かめることもある。また、光をどう受けるかも考えて素材を選定するという。

「例えば、突き板の質感も光が当たって、ツヤが見えてしまうのはNGだと思っているので、極力ツヤを消してもらいます。貼り方も一辺倒にならないように、木目を合わせながらも、変化をつける。自然界は均質にならないもの。そのゆらぎを取り入れたいと思っています」

こうして細部まで整えられた上質な空間に、北欧家具などのタイムレスな家具が組み合わされ、彫刻のようなオブジェやアートがアクセントとなる。

「刺激のあるデザインではなくて、過ごすことで、じんわりと人に作用するような空間にしたいと思っています。クライアントには最低10年は使ってほしいとお願いしているのですが、使い捨てではない上質な素材や家具を使えば、扱いも丁寧になり、愛着が生まれる。品のある空間は人を育てることにつながり、その場所の価値になるのではないでしょうか」

品のある空間を照らす光は自然光に近づけながら、照度は控えめに。やわらかな光が、調和のとれた色味、厳選された素材、豊かな質感を立体的に浮かび上がらせる。

吉田裕美佳
吉田裕美佳(よしだ・ゆみか)

FLOOATデザインディレクター。輸入家具会社のデザイン部を経て、2011年にFLOOATを立ち上げる。
オフィスを中心に、店舗、住宅まで、心地良いインテリアをデザイン。
2023年「三井物産都市開発本社オフィス」で日経ニューオフィス推進賞を受賞

Writer
ヒカリイク編集部

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