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ZEB認証ホテル「ITOMACHI HOTEL 0」に見る、本質的で豊かな明かり

2023.10.30
ZEB認証ホテル「ITOMACHI HOTEL 0」に見る、本質的で豊かな明かり

「ITOMACHI HOTEL 0」の中庭に設けられた「うちぬき」越しにレセプション棟やヴィラ棟を臨む

2023年5月に愛媛・西条に開業した「ITOMACHI HOTEL 0」。宿泊施設で初めてZEB認証を取得しており、実質的に電力エネルギーを消費しない「ゼロエネルギーホテル」として、エネルギー問題に関心が寄せられる中注目を集めている。
ZEBにおいて照明には何が求められ、どのように空間を彩ったのか。
照明デザインを担った村角千亜希さん(spangle)に聞いた。

照明デザインに課されたZEBの条件

「ITOMACHI HOTEL 0」は、西日本最高峰の石鎚山の麓、“うちぬき”と呼ばれる自噴水が湧き出る水都・愛媛県西条市に位置する。建築設計を隈研吾建築都市設計事務所が手掛け、インテリアとランドスケープはDugout Architectsがデザイン。企画と運営にGOODTIMEが関わる。レセプション棟と二つの客室棟をつなぐ大屋根が山々の稜線と呼応し、中庭に設けられた“うちぬき”からは湧水があふれ出している。自然豊かな街の魅力を存分に体感できる空間だ。

照明デザインは、spangleの村角千亜希さんによる。同ホテルは、宿泊施設では初めて環境省が評価する「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」の認証を取得。快適性や非日常が求められるホテルにおいて、こと光は空間を演出する重要な存在である。どのように省エネとデザインを両立させ、ZEB取得に貢献したのだろうか。村角さんは、「使用する照明器具の総電気容量が、目標数値をクリアすること。それが、照明デザインに課された唯一の条件でした」と計画当初を振り返る。三つある棟ごとに設備全体の電気容量があらかじめ設定されており、そこから照明に割り当てられたワット数を下回る計画が求められた。

ヴィラ棟の客室は、全室露天風呂付きの贅沢な空間。外構照明に関してはZEBの積算対象外となっている。

理想プランから省エネを検討

「一方で、光のデザインに関しては任せていただきました」と村角さん。そこでまず、消費電力にとらわれない理想的なプランを提案。「ホテルとして心地良く過ごせる環境づくりを第一にプランニングしていきました」と続ける。宿泊者が集うラウンジ棟は明るく華やかな照明計画としているが、プライベートな客室は落ち着いた照度に抑え、空間の用途によってメリハリを付けている。

レセプション棟にはさまざまなアートが配されており、りくう・佐藤友佳理氏によるアートを照らす明るい照明計画としている
レセプションカフェ。日中は天井まで伸びる開口部から自然光が差し込む

その後、消費電力を条件内に収めるために器具や配灯プランが再検討された。具体的に、客室棟1階の共用廊下はブラケット照明からダウンライトに変更することで、総消費電力約50%の削減に成功。スタンダードなツインベッドタイプの客室は、一部の間接照明をダウンライトに変更するなどして元の消費電力の30%程度に抑えた。

また、マテリアルによって光の広がり方は異なる。効率性とデザインをつなぐために、光を受けるインテリア側との調整も図られている。村角さんは「反射率や明度の重要性を事前にDugout Architectsの渡瀬育馬さんにお伝えしました。特にヴィラ棟の客室は、全室露天風呂付きの贅沢な空間。スタンダードな客室よりも落ち着いた色彩でまとめられていますが、建築の特徴を表す傾斜天井まで光が伸びるよう、壁や天井の素材を検討していただきました」と話す。

灯数を減らす。同スペックで効率が良い器具に交換する。間接光から直接光に器具や設えを変更する。配光角度を変えて明るさ感を操作する……。少しずつ、小さな工夫を積み重ねて、当初のプランから全体で約4割程度の電気容量を削減できた。

ヴィラタイプの客室。左手カウンターでは「うちぬき」をイメージした水の演出を楽しめる

「求めるスペックから最も消費電力が低い器具を探していると、メーカーにバラつきが生じ、色温度を合わせるために全体を見直さなければいけなかったことが何度もありました。ピースが埋まらないパズルのようで、もどかしかった」。そこで村角さんは、客室によってはポータブルライトを採用し、宿泊者自身が必要な時に必要な光を足してもらうような提案がなされている。

また、ZEBの与件がある中でも村角さんが重視したのが、有事の際も安全に過ごすことができる光の在り方である。クライアントであるアドバンテックは、西条を拠点とする半導体関連機器製造を中心に手掛ける企業。「糸プロジェクト」と題した街づくりを通して地域貢献を目指しており、「ITOMACHI HOTEL 0」は災害時に防災拠点となることも想定している。

「市民や街に対する思いに共感し、災害時に照明に何ができるかを思考しました。ここでは防災時、常夜灯がベースとなって、安全に過ごしていただけるように最小限な光を追求しています」と語る。

ファミリールーム。インテリアは伊予青石をモチーフにした色彩や素材でまとめられている

最小限の光が美しさや豊かさへとつながる

「ITOMACHI HOTEL 0」では、オープンから現在まで、太陽光発電によって使用する電気を生み出してきた。館内では実際の消費エネルギーと創エネルギー量が映像で流れ、電力の大切さを可視化してゲストに伝えている。「今回初めてZEBに携わり、省エネについて自分の意識や知識も変わりました」と村角さん。

「常々、最小限の光で最大限のパフォーマンスをすることが大事だと考えていました。きらびやかで装飾的な光よりも、プリミティブな明かりの下で過ごす時間こそ穏やかで豊かなものなのではないでしょうか。そういった自分たちの光に対する思想と、省エネ・創エネを促すZEBのための照明計画は、本質的な部分で合っていたように思うのです」

真昼のごとく煌々と空間を照らし出す照明は、果たして本当に必要なのか。その取捨選択が、電力と私たちの持続可能な暮らしのために求められる。それを効率ばかり追求するのではなく、明かりが私たちに本来与える安心感や豊かさとして具現化した「ITOMACHI HOTEL 0」。これからの未来をつくり出す指針の一つとなるだろう。

レセプション近くに掲示されるインフォグラフィックスには、実際の使用エネルギーと太陽光で生み出されたエネルギーが表示されておりZEBの取組が可視化されている(提供:ITOMACHI HOTEL 0)

Information

ITOMACHI HOTEL 0
愛媛県⻄条市朔⽇市250−7
事業主:アドバンテック
企画・運営:GOODTIME
設計:隈研吾建築都市設計事務所
インテリア・ランドスケープデザイン:Dugout Architects
照明デザイン:spangle
アート:りくう
撮影:増田好郎

Writer
ヒカリイク編集部

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