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あなたが仕事をする空間はどのような光環境だろうか。 実は、光は仕事の効率に影響を与えるため、照明の工夫次第で仕事のパフォーマンスを向上させることができる。 「仕事がはかどる」空間をつくるための照明設計術をご紹介する。
仕事をする時間帯に適した光を選ぶと、仕事のパフォーマンスが向上する。昼の時間帯ならば、高い覚醒状態が求められる事務作業や、集中して仕事を行いたい場合は、高色温度のアンビエント光や高い照度の照明下で作業するとよい。交感神経を活発にし、エネルギッシュな活動を可能にするからだ。しかし、オフィスに比べて暗いことが多い住宅では、テレワーク中に明るさが足りない場合もある。高い覚醒状態を維持するために、現状の照明の照度や色温度が適切かどうか確認することをおすすめしたい。
一方で、就寝3時間前以降に、高色温度の明るい光を浴びると、眠りのホルモンであるメラトニンの分泌が抑制され、なかなか寝付けなくなるなど体内リズムが崩れやすくなる。そのため、夜間に読書などの視作業をする場合は低色温度で、照度も低く抑えるとよいだろう。
すなわち、「仕事がはかどる」光の鉄則は、「昼は高色温度・高照度、夜は低色温度・低照度」である。
色温度4000Kの白色光の天井照明を用い、目の高さの照度を1,000lxと200lxに設定して眠気や活力の度合いを比べた実験によると、午前・午後ともに高照度である1,000lxのほうが、眠気が軽減され、よりエネルギッシュに感じる状態で速い応答と高い精度で作業ができたという(参考論文1)。すなわち、高照度によって心拍数とLF/HF比(※1)が増加したことから、交感神経が活発に働き、集中力が高まったと考えられる。逆にリラックスしたいときは、照度を下げるとよいだろう。
※1:LF/HF比: 心拍変動のLF(低周波)変動とHF(高周波)変動の比率。数値が高い場合は交感神経が活性化し、緊張が高まる。逆に、数値が低い場合は副交感神経が活性化し、リラックスしている状態となる
オフィスなどで省エネの実現が期待されている照明手法が、アンビエント(全般)照明とスタンドライトを組み合わせたタスク・アンビエント照明である。アンビエント照明の色温度の違いによって、作業効率にどのような影響があるか検証した実験によると、低い色温度よりも高い色温度のアンビエント照明の下で交感神経が優位となり、集中力を要する作業のパフォーマンスが維持されやすいことが判明した。
2つの実験条件の空間の雰囲気について主観評価を行ったところ、大きな違いはなかったという。このことから、高色温度のアンビエント照明は、低色温度のタスク照明と組み合わせて使用した場合でも、空間の印象を損なうことなく作業効率を高めることができると考えられる(下図参照、参考論文2)。
夜間、焚き火の炎のような低色温度の光(1800K~2000K)は、白色光に比べてメラトニンの分泌が抑制されにくく、眠気が高まる。眠気は認知機能の低下を招くが、1800Kの低色温度光は記憶や学習に重要なグルタミン酸(※3)の分泌も促進する(参考論文3)。その効果を調べるため、少し前の情報を一時的に覚えながら新しい情報との正誤を判断する作業記憶課題を行った結果、目の位置の鉛直面照度100lxにおいて、色温度1800Kのほうが5000Kよりも反応が速く、記憶力が向上することが分かった。以上から、夜間の低色温度下では読書や勉強など作業記憶を要する作業が向いている可能性がある(※4)。
※3:グルタミン酸は神経伝達物質の1つであり、記憶や学習に重要な役割を担う
※4:広島大学の吉本早苗助教と遠藤照明の「Synca」を用いた共同研究(2021)による
第一線で活躍する建築家・永山祐子さんの新しいオフィスは、RC打放しと白い塗装壁を基調とする清潔感のある空間。オフィスにはシンプルなベースライトを採用。日中は色温度を5000K程度と、高く設定し、仕事に集中しやすい環境をつくっている。「たとえば最近では、オフィスでも家のように“くつろげる”シーン、逆に家でもオフィスと同様に“仕事に集中できる”ようなシーンのニーズが高まっていると感じています。無線調光システムと調光調色LED照明の採用により、簡単な操作でシーンを切り替えられるので、使う人の好みも考慮しながらベストな光環境を生み出せます」(永山さん)。
空調や照明、熱源などの各設備をネットワーク化し、リアルタイムで一元管理できる最新のオフィス環境を整えた「イオンディライト株式会社 本社」。照明器具を無線でコントロールできるので、休憩や事務作業などのフロアの使い分けや、時間に合わせた調光・調色が可能。人感センサーを活用し、人の在席状況に合わせて調光するほか、手元を少し明るくしたいといった細かな要望にも対応できる。一人ひとりに寄り添った光環境のもとで効率よく働けるオフィスとなった。
[参考論文一覧]
1:Smolders, K, de Kort, Y, Cluitmans P. (2012). A higher illuminance induces alertness even during office hours: Findings on subjective measures,task performance and heart rate measures, Physiology & Behavior, 107, (1), 7-16.
2:Hayano, J., Ueda, N., Kisohara, M. et al. (2021). Ambient-task combined lighting to regulate autonomic and psychomotor arousal levels without compromising subjective comfort to lighting. J Physiol Anthropol 40, 8.
3:Lin, J., Ding, X., Hong, C. et al. (2019). Several biological benefits of the low color temperature light-emitting diodes based normal indoor lighting source. Scientific Reports, 9, 7560.