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照明設計術:「眠りの質を高める」空間をつくる

2022.6.30
照明設計術:「眠りの質を高める」空間をつくる

私たちが一日に浴びる光が、眠りの質に大きな影響を与えていることはご存知だろうか。 照明の工夫次第で、眠気を妨げずに、自然な入眠を得ることができる。 「眠りの質を高める」空間をつくるための照明設計術をご紹介する。

光と眠りの質の関係

光は眠りの質にも大きな影響を与える。就寝前は低色温度・低照度にすることで人は自然な眠りに誘われる。夜の眠りを妨げないような照明にするには、天井照明(シーリングライト等)ではなく低い位置にあかりを設置することが大切だ。
一方、現代人は就寝時間が遅くなりがちで、日の出の早い春や夏は、生活のリズムと自然光のリズムの不一致によって睡眠が不足する可能性がある。遮光カーテンや照明のスケジュール機能を用いて調整すれば、日の出の数時間後にすっきりと目覚められる。また、起床前の光環境は、ゆっくりと太陽が昇り明るくなることで、快適な目覚めが促される点にも注目したい。自然光が10倍の明るさ(5lxから50lx)になるまで約12分かかるのと同じように、照明で10分程度の時間をかけて朝の青空光と同じ高色温度の青白い拡散光(※1)で明るくするとよいだろう。
「眠りの質を高める」ためには、「就寝時は低色温度・低照度、起床時は高色温度・高照度」であることが重要だ。

※1:鏡のように反射する正反射光とは異なり、いろいろな方向へ拡散する光

「眠りの質を高める」空間の照明設計術

POINT1:低い位置の光は眠りを妨げにくい

人間の網膜は、光が当たる領域によってメラトニンの分泌に違いが出る。同じ照度の光を網膜の上、下それぞれから照射したときのメラトニンの分泌の変化を調査した結果によると、高い位置から光を当てたほうが、低い位置に比べて、メラトニンの分泌量が少なかった(参考論文1)。このことから、睡眠を妨げない光環境をつくるには、目線より低い位置を照らしたほうがよいといえる。寝室などのフットライトは夜間に浴びる光を抑えるのに有効だ。逆に朝に光を浴びる場合は目線よりも高い位置(天井面からの照射など)を明るくすれば、効率的に光を浴びて体内リズムをリセットすることができると考えられる。

低い位置の光は眠りを妨げにくい
目線よりも下側から入る光は、メラトニンの分泌が抑制されにくいため、自然と眠りやすい

POINT2:夜間は低色温度・低照度にする

夜間に強い光を浴びると睡眠に重要なメラトニンの分泌が抑制されてしまう。そのため就寝時刻の3時間前からは照度10lx以下、就寝してからはできるだけ暗い1lx以下が推奨されている(昼光6500Kの場合。参考論文2)。メラトニン分泌の抑制は、波長が480nm付近の青色の光の影響を強く受けるため、色温度が高いほど抑制されやすい。その影響を調べるため、目の位置での鉛直面照度100lxで1800Kと5000Kの光を19時から22時30分まで浴びた。結果は、5000Kのほうが唾液中のメラトニンの分泌開始時刻が60分遅くなり、メラトニンの分泌量が約25%低下していた(※2)。夕方以降は徐々に色温度と照度を下げ、自然と眠りにつきやすくなるようにしたい。

※2:遠藤照明の「Synca」を用いた社内実験(2021)による

夜間は低色温度・低照度にする
左:色温度が高い照明を就寝前に浴びると、メラニンの分泌が抑制されやすく、眠気を阻害する/右:色温度が低い照明を就寝前に浴びると、メラトニンの分泌が抑制されにくく、眠りにつきやすい

POINT3:起床前から光を浴びない

起床する前にどの程度の照度の光にさらされたかによって、睡眠障害(※3)を起こす度合いが変わる。ある実験では、高齢者を対象に就寝中の照度を測定し、その結果とアンケートに基づいて睡眠の質が判定された。起床2時間前の120分間の照度の積算値により4つのグループに分けると、最も照度が高いグループは最も低いグループに比べて約1.6 倍も睡眠障害を起こしやすいという結果が出ている(参考論文3)。起床前は主に朝の日光が寝室の窓から入ってくるため、遮光カーテンなどで起床前の光をさえぎるなど、寝室に光が入らないようにすることも大切である。

※3:不眠症・過眠症・睡眠時随伴症など、睡眠に関連した病気の総称

起床前から光を浴びない
起床前に浴びた光の強度によって睡眠障害を起こす度合いが異なる。起床2時間前から多くの光を浴びているグループ(青線)は睡眠障害の有病率が高い。同じ時間帯に光をほとんど浴びていないグループ(黄色線)は、睡眠障害の有病率が低い

「眠りの質を高める」実際の空間事例

色温度の変化で生活リズムを整える:「長森いきいき倶楽部 Lachic」

「長森いきいき倶楽部 Lachic」は、高齢者向け介護複合施設。良質な睡眠が得られるように、朝から夜にかけて色温度を調整。起床の時間帯に合わせて徐々に色温度を上げていき、日中は青色光の成分が多く覚醒を促す色温度12000Kに高めていく。一方、夕方以降は青色光の成分を減らし、落ち着く光(居間;4000K→2700K→2200K)へと徐々に色温度を下げている。深夜は高齢者がトイレなどを利用することを想定したうえで、眠りを妨げないように調光率を下げている。

長森いきいき倶楽部 Lachic
A:起床30分前の6時の居室。目覚めを促すように徐々に明るくする。間接照明は色温度1800K・調光率30%、ダウンライトは色温度2700K・調光率30%としている/B:起床時(6時30分)における居室の色温度は間接照明・ダウンライトとともに自然光と同じ5000Kとし、調光率は100%に設定している。この時、ベッド面は150lxにしている/C:夜(19時~21時)の居室。良質な睡眠に導くために、間接照明は色温度2200K・調光率40%、ダウンライトは色温度2700K・調光率40%としている/D:夜の居室。間接照明は完全消灯。ダウンライトは色温度2700K、調光率1%に設定。眠りを妨げず、かつ夜間の行動に支障をきたさないようにしている

施主:社会福祉法人 髙佳会/設計・施工:内藤建設/電気工事:内藤電機
「長森いきいき倶楽部 Lachic」事例詳細はこちら

[参考論文一覧]
1:Glickman, G. et al. (2003). Inferior Retinal Light Exposure Is More Effective than Superior Retinal Exposure in Suppressing Melatonin in Humans. Journal of Biological Rhythms, 18, (1), 71–79. 2:Brown TM. et al. (2022) Recommendations for daytime, evening, and nighttime indoor light exposure to best support physiology, sleep, and wakefulness in healthy adults. PLOS Biology, 20, (3), e3001571. 3:Obayashi, K. et al. (2019). Pre-awake light exposure and sleep disturbances: findings from the HEIJO-KYO cohort. Sleep Medicine, 54, 121-125.

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