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質の高い「睡眠と目覚め」をコントロールする光

2022.5.22
質の高い「睡眠と目覚め」をコントロールする光

ベッドルームにおける照明計画は、心身の健康を支える“眠り”の質を大きく左右する。低い色温度や照度を抑えた光が、良い睡眠環境をつくるという話は一般的に知られているが、具体的にどのような照明の考え方が必要だろうか。加えて、近年のライフスタイルの変化によって、良い眠りのための照明の考え方も変わってきているようだ。

ベッドルームライティングの多様化

日本睡眠改善協議会・上級睡眠改善インストラクターの安達直美氏は、「一口にベッドルームと言っても、純粋に寝るだけの用途に使われるわけではありません。リモートワークが増えて日中はベッドルームが仕事場になっている人がいたり、ホテルではベッドに腰掛けて食事をする人も、テレビを見たり、読書をする人もいますよね。睡眠の前後に様々な使い方をしている場合、用途に合わせた照明計画が必要になります」と話す。ベッドルームだからといって単純に「温かみのある光」だけを配するのではなく、脳を覚醒させる光や、仕事に集中できる光など、用途に応じてそれぞれにコントロールできることが求められる。
基本的に、人間の脳は1000lxの光をしばらく浴びることで目覚めた状態になりやすい。一方で、外光のない状態の住宅のリビングは200〜300lx程度とされるが、人を眠りやすい状態に導くメラトニンというホルモンは、100lx以下に照度を抑えないと分泌がされにくいという。メラトニンは、体内における季節のリズム、眠りと覚醒のリズムを調整する作用があり「睡眠ホルモン」とも呼ばれるタンパク質だ。分泌されることで、脳が眠りの状態に近づく一方、網膜から受けた光の刺激が、脳の松果体に達すると分泌が抑制される。
「遅くとも就寝の30分前くらいからメラトニンの分泌を妨げないようにすることが、良い眠りにつながります。また、眼を閉じていても光源が近くにある場合や光が反射して顔に当たっていると、脳は覚醒してしまいます。例えば、ダウンライトやシーリングライトの豆電球ですと、空間全体は暗く感じますが、仰向けに寝ると眼はその光源を感じ取ってしまいます。あるいは間接照明をヘッドボードに設けた場合も、壁面からの反射が明るくなり過ぎると睡眠には悪影響です」

照度とメラトニン抑制度の関係

ベッド周りでは足元灯などを用いて、顔から下に光源や光をできるだけ離すことが重要だ。また、夜間にトイレなどで起きた際、日中と同じく目覚めてしまうため、トイレ周りでは照度を抑えた夜間用の照明を設ける工夫ができればより良い。
これらの手法は、明るい場所で色を識別する細胞(錐体細胞)が感じる明るさを表す従来の照度とは別に、メラトニンの分泌を抑える働きを持つipRGC細胞が感じる明るさを表す「等価メラノピック照度」を考慮することでより効率的な照明計画が可能になるだろう。
「照度だけでなく、短波長の青い光は分泌を抑える作用があります。一般的なLED照明は、赤っぽく見えていても青色の短波長が含まれていることが多いので、見た目を赤寄りにしたといって多用してしまうと逆効果になります。一方、色は心理的にも作用するため、見た人がリラックスできる色に調色することができれば、気持ちを眠りに導いていく効果が期待できます」

「等価メラノピック照度」とは
眠る女性

日中での脳の覚醒が良い眠りにつながる

良い眠りのためには、良い起床を促す照明も欠かせない。睡眠の後半は目覚めに向けて脳が覚醒していく状態にあり、特に起床前の30分で徐々に部屋を明るくしていくことでスムーズに起きられる。外光を採り込むと、季節によって日の出のタイミングが異なるため、照明器具の調光機能を使う方がいい。起床後は先述のとおり、2000lx以上の光を30分程度浴びることで脳が完全に目覚めていく。眠るときだけでなく、生活のリズムを生み出していく照明が、質の良い睡眠をつくっていくと安達さんは話す。
「日中に運動をすると身体が疲れてぐっすり眠れるように、脳も日中にきちんと覚醒させてあげることで、より深く眠れるようになります。また年齢によっても光の感じ方が異なります。子どもは大人に比べて光を強く感じる一方、高齢になるほど、光を感じる機能が低下します。そのため、高齢者は日中に若い人と同じ明るさの中で生活していても、脳が十分に覚醒せず、その影響で夜の眠りが浅くなり、短時間で起きてしまうということにつながります」
安達氏が語る年齢に応じた光の感じ方を取り入れる手法は、高齢者向けの福祉施設(※)においても既に実施されている。
ここでは、より幅広い色温度をコントロールできるLED照明「Synca」を用いており、日中の食堂や居間といった共用部に、外光のような色温度の高い光を照射し、利用者の身体のリズムのコントロールを試みている。
「眠りのリズムは1日を通してつくられていくものです。朝昼夜という時間の流れ、仕事やプライベートといったシーンに応じたメリハリのある照明計画によって、脳のオンとオフを切り替えながら、心地良い眠りにつける光の環境をつくっていっていただきたいです」

幅広い色温度をコントロールできるLED照明「Synca」詳細はこちら

安達直美(あだち・なおみ)

エスアンドエーアソシエーツ常務執行役員COO。日本睡眠改善協議会・認定睡眠改善シニアインストラクター。精神・神経科学振興財団睡眠健康推進機構睡眠健康推進員。国際線客室乗務員として勤務後、寝装品メーカー研究所で睡眠に関わる主任研究員を務める。睡眠文化戦略コーディネーターを経て、現職。リラクセーションおよび眠りに関するコーディネーターとして、エビデンスを基にユーザー・オリエンテッド・マーケティングに携わる。

※参考:遠藤照明納入事例「長森いきいき倶楽部 Lachic」
食堂や居間といった共用部に日中、色温度の高い光を照射。夕刻以降は色温度を下げ、光により入居者の生活リズムを整えることで、認知機能障害(昼夜逆転)や感情・行動の改善に繋がる試みを実施。
※その他福祉施設の事例はこちら

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