■トラフ■


パネル

禿 
こんにちは。トラフ建築事務所の禿(かむろ)と申します。


鈴野
トラフの鈴野と申します。よろしくお願いします。


禿
今回、「くらしとあかり」というテーマをいただいて、私たちがまず考えたのは、単純に暗やみを明るい場所に反転させるような光だけではない、何か別の光の効果を使ったよさみたいなもの、そういうものが一つでも提示できればという建築的な興味と、あとは、ふだんの生活の中で、何か寂しいと感じているようなことを、少しでもくすっと笑えるような仕掛けがあかりでできたらと考えました。そこで、夜、仕事が終わって家に帰ってきた、その帰宅時のワンシーンをフォーカスして提案しました。


 今、プロジェクターで映し出されているのは、日中、外出しているときの部屋の状態です。もちろん、窓から太陽光が差し込んでいますので、光があるおかげで、例えば壁面の絵画とか、テーブルの上の小物や置物などが、色を持って見えている、視覚的に見えている状態です。


トーク写真

 これは、帰宅したときの状態です。暗やみの中で、テーブルの面といすの座面だけが光っている。どういうことかというと、テーブルの面と座面に蓄光塗料が塗ってあり、日中に光を蓄え、夜になったらそれが発光して、逆にそのテーブルの上に載っていた物などが影になってあらわれてくるという仕組みです。昼夜全く違う見え方をする、そういう反転のようなものを提案できないかと思い考えたものです。


 例えば最近、若い夫婦の方でも、共働きで両方とも外出されている方も多いと思うのですが、2番目に帰ってくる人はいいですけれど、最初に帰ってくる人は寂しいですよね。まず玄関に入って、照明をつけてしまう。そうではなく、一たん帰ってきたときに、何かこういうちょっとした仕掛けみたいなもので、くすっと笑えるような効果があると、帰ってきたときにほっとするのではないかと考えました。


鈴野
人工照明でもなく、自然光でもなく、面が発光している。それで何かを見られるほどでは全くない弱い光なんですが、テーブルにボトルを置いておくと、ボトル面が光らなくて、逆にそれが影としてくっきり出てくる。つまり、視覚的な反転が昼と夜であらわれてくるわけです。そのように何か抜けたようなものが目に残っていたらおもしろいんじゃないかと思い、弱い光を提案しました。


真壁
要するに、帰ってきたときに電気のオン・オフだけではない、そのつながりのところをもう少し大切にしようということですね。体験の残像といいますか、生活の風景が、家を出ていったときと非常に重なるわけですね。これは、今までのあかりという概念の中にないものだよね。暗ければ電気をつければいい、という話ですから。


禿
今おっしゃったようなことも、そうですね。例えば朝、ご飯を食べて、散らかっているかもしれないけれどそのままでバタバタと家を出てしまって、帰ってきたときに、その散らかっている状態がより強烈に見えてしまうとか。(笑)


真壁 
 「くらしとあかり」の主題の中では、笑いやユーモアというのは非常に新しい主題ですね。家にたどり着いたときのリラクゼーションというか、気分が変わるようなことが求められているんだろうね。  では、照明家の村角さん、いかがでしょうか。ちなみに、照明家の中で彼女が一番お若いんですね。


村角
 はじめまして。スパンコールの村角と申します。  トラフさんのこの提案を見せていただいたときに、すごくおもしろいなと思ったのは、帰ってきたときのシチュエーションだけに焦点を当てているということです。今、私たちが家に帰ったとき、どのような状態で暗やみの中に発光物があるかということをもう一度考えてみると、例えば留守番電話のお知らせで、LEDが点滅しているとか…


真壁
 真っ暗やみの中でね。


村角
 真っ暗やみの中で。何か留守番電話が入っているんだなということがそれでわかったりとか。炊飯ジャーが保温状態になっている小さなLEDが見えたりとか。それが赤だったり、緑だったり、オレンジだったり、てんでバラバラで、決して美しくはない。


トーク写真

 トラフさんのイメージしていらっしゃる、帰ってきた瞬間に待ち受けているシーンがどのようなものなら、くすっと笑えたり、帰ってきてよかったと思えるかということをイメージすると、何かそういう信号のようなものとリンクするのもおもしろいと思いました。例えば、簡単にできるかわからないのですが、様々なセンサーや携帯電話の情報などとリンクして照明を一部分だけつけておくことも、今はできる時代になってきていますよね。


 例えば、ご夫婦で住んでいるのだけれども、今日は私の帰りが遅いから、犬の散歩に連れていってほしいという奥さんがいたとします。ピッと携帯から何かを送ると、犬の散歩に行くときのひもが光っているとか。(笑)見えてくる景色に、何かそういう意味のようなものを込めることができるのもおもしろいかなと思いました。


 あと例えば、帰ったら映画が見たいという場合には、壁が発光しているとか。お酒が飲みたいときには、グラスやボトルが発光しているとか。ただもう、すぐ寝たいよというときは、ベッドのまくらが発光しているとか。よくわからないのですが、そういう状態も考えられるなと思いました。


真壁
 それは、夫婦2人だとか、あるいはグループホームだとか、そういう暮らし方のつながり方というか、きずなの一つですよね。


村角
 そうですね。あかりを使ったコミュニケーションが、もう少し進化して組み合わさっていくのも、おもしろそうだと思いました。


真壁 
 石田さん、技術的にいかがなものなんでしょうか。


石田
 照明デザイナーの石田と申します。このトラフさんのプロポーザルを見たときに、これは照明家は要らないんじゃないかと、そういう感じを受けましたね。もう自然光で完結してしまっていて、これはこれですごくおもしろいし、ここにどうやって僕は手を加えればいいんだろうと思ってしまいましたが、いわゆる蓄光材を使ってテーブルを光らせるというのは、このままでは限定的なものですので、ここに着目して、違う光を加えることでまた違うシーンができるんじゃないかと、そんなことを考えてみました。


 光というのは、波長です。色もそうですけれども、波長を受けたものだけが、結局その波長に対応して見えてくるということになりますので、逆に短波長を使ってみようと考えました。LEDというのはすごく短波長につくれるものですから、それで短波長の光を出してみたら、どんな空間ができるかと。また、その短波長にしか対応しない塗料だったり、物質だったり、そんなものがもしあったとするならば、それでまた別のシーンができるのではないかと思いました。


 ですから、今回のトラフさんのシーンにもう一つ違うシーンをつくる。二つも三つもできるのかもしれないですけれども、そんなことがもしできたらおもしろいのではないかと思いました。ただ、これが技術的に可能かどうかは、僕もまだ不明です。


真壁
 どうもありがとうございます。では、伊藤達男さんはいかがですか。


伊藤
 私もトラフさんのプロポーザルを見て、これで完結しているな、蓄光塗料メーカーを紹介するしかないかなというぐらいでしたね。(笑)


真壁
 では、また後で話がここへ戻ってくるかもしれないですが、次は藤本さん、いきましょうか。