■井上搖子■


真壁
 では、まず井上搖子さんからいきましょうか。これも、やはり今の建築家の心情をとらえている「くらしとあかり」の提案であろうと思うんですね。


パネル

 どういうことかというと、ペット化するあかりといいましょうか。部屋全体を照らすというよりは、帰宅時に自分の気持ちと交歓できるペットのようなあかりですね。あかりのキャラクター化といいましょうか。生活のパートナーとしてのあかり。そんなものが家の中に今、必要なのではなかろうか。そういう提案です。


 エキシビションの見せ方としては、これを現実につくることがいいのか、イラストなり動画で見せたほうが素敵なのかというのは、いろいろあるだろうけれども、やはり私たちの生活の中で、家に戻ってきたときの風景をどうするかということが、結構大事なテーマになっているなと感じます。それが、要するに人感センサーでポッとつくという話ではもうなくて、もう少しそこにストーリーとか何かドラマがあればいいなということですね。棚瀬さんの場合もそうですね。何かこういう心の癒しというか、対話というものが非常に今、あかりのあり方に求められているという気がします。


 これについて、石田さんのほうから何かありますか。どんなふうに照明家は反応しますか。


石田
 そうですね、とてもおもしろいプロポーザルだと思いました。例えば帰ってきたときには中まで誘導してくれて、何かするときもそこがまた光るというような、結局、自分の欲求を光が常に先行してといいますか、自動的に追いかけていくような、そんな感じのようにも思えたんですよ。それにもう少し光が個性を持ったらどうなんだろうというところですね。光が対話をしてくれるとか、遊んでくれるとか、言うことを聞かなくなったら、怒ったら言うことを聞くようになったりとか、何かそんな遊び心を加えていったら、とても光のありがたさを理解していただけるのではないかと思っています。



真壁
 村角さん、心情的にすごくわかるんじゃないですか。


村角
 そうなんですよ。シチュエーションとしては、トラフさんの、帰ってきたときのシーンを設定している内容と少し重なるところもありますよね。井上さんのプロポーザルは、帰ってきたところからのストーリー展開がある点が、またおもしろいなと思いました。


 帰ってきたときに、自分の気持ちに連動するようなあかりがあるとうれしいだろうというのもあったんですけど、もう一つは、自分の意思とは全く関係なく誘導してくれるあかりのようなものがあってもいいのかなと考えました。例えば電話があったよということを伝えてくれるとか。あと、今日は満月だよとか、何かそういうものを知らせてくれるようなインタラクティブなあかりがあっても、こういうプランには合うかもしれないと思いました。


真壁
 伊藤さんはどうですか。


伊藤
 私も皆さんと少し似ていますけれども、二つの光の点を、同じような点ではなく、それぞれ人格が違うような点にしたらどうかなと考えました。一つは、まじめに誘導してくれるポイント。もう一つは、非常におちゃめな、例えばまとわりついたり、そういう余計な動きをしてしまうポイントです。光も、いつも同じではなくて、生きているような、例えば人間の呼吸のリズムとか、何かそういうもので若干変化するような、そのような光を設定してみたらどうかと思いました。


トーク写真

 私が一番興味を持っているのは、こういう光が生活の中に入ってきたとき、人間というのはどういうふうに感じるんだろうということです。ぜひ実験してやってみたいなと思いますね。こういうことが非常に、生活に潤いを与えることであれば、もっと積極的に利用していってもいいと思います。


 ただ、それを機械的に動かしたりとかそういうことではなくて、もっと自然に動くようにした形で実験したいんですけれども。多分それを今すぐ実現するには、なかなか技術的に難しいと思いますので、まず何か映像みたいなものでかなり自由につくり込んで、その中で体験を見る。そんな形で確認をしながら組み立てていったら、何かおもしろい結果が出そうな気がしています。


真壁
 藤本さん、どうですか。


藤本
 僕は建築家で、勝手にコメントしてしまいますけれども、すごく好きですね(笑)。すごくいいなと、僕もやりたいなと思いましたね。


 光がペットのような感じですよね。これが本当に実現したら、ものすごく売れるんじゃないかという気がするぐらい。未来のペットといいますか。おそらく学習能力などで、多少とも成長していったり、ぐれたり、そういうことを考えるとすごく夢が広がる。いわゆる照明という概念をどんどん拡張してしまうような、そんな可能性があって、すごくいいですね。実際、見てみたいなと、楽しみにしています。


真壁
 私も、こうしたパートナーロボットとかペットロボットというのは関心があって、幾つか見ているんだけれども。AIBOという犬型ロボット、それからアザラシ型ロボット、PARO(パロ)というのがありましたが、AIBOは全世界で発売されたけれども、ソニーは経営会議で生産中止にしました。やはり結局は、十全なペットになり得なかったということですね。複雑なものだった。


 一方、くたっとしたアザラシロボットのほうは、ギネスブックに掲載されているぐらい売れた。この井上搖子さんのアイデアのように、何かこう、間抜けなんだよね(笑)。その間抜けなあたりが非常にいいんだと思うんですね。どうでしょう。


藤本
 そうですよね。これはすごく知的な案だなと思っています。要するに、人間の知性の限界というか、ものすごさをかいま見せてくれている。ただの光にあらゆる感情を読み取ることが、できるわけですよね。同情したり何かしたりという、こっちの感情も動かされるという意味では、ものすごくすぐれた現代アートだし、同時に僕らの生活に完全に密着できるような、そういうすごさを持っているんじゃないでしょうか。これは本当にいいと思います(笑)。


真壁
 藤本さんは知的障害者の家を設計されていますが、あの中でのあかり環境って、どういうものをトライされたんですか。


藤本
 いや、これがあったら、ぜひ導入したいなと思いましたね(笑)。特に親の虐待で入ってきている子供がいるんですよね。そういうときに、もしかしたら最良のパートナーに、実は何の人格も持っていない光がまず彼らの第一のパートナーになれるんじゃないかという気がします。逆に、こちらが人格を持っていない分、そこから、その子供らのコミュニケーション能力というのが、あるいは想像力というのが回復してくるようなことも、もしかしたらあり得るのではないかという気がします。


真壁
 あれは何年前になりますか。


藤本
 僕は何件か精神障害者向けのものをつくっているんですけれども、一番新しいのは、去年できた、それは本当に子供の精神障害、情緒障害の建物なんです。あかり環境という意味では、僕はそこまで積極的にトライできなかったので、これを見たときに少し悔やまれました。もっと働きかけられるような、あるいは想像力をそこに投影できるようなあかりというものがあり得たかもしれないですね。


真壁
 ぜひこのプランには、藤本さんも入っていただいて(笑)。