■乾久美子■


真壁
 では、続きまして今度は、乾久美子さん。彼女は極めてラジカルでありまして、「照明の技術など今ではだれもありがたがりません」というような文言が書いてある。けれども、ほとんど装飾でしかなくなってしまった照明という技術の、本来持っているはずの驚きや楽しさや、そして快適さを取り戻すことの一助にこのプロポーザルをしたいという、なかなか男気のある、かわいい女性であります。


パネル

 そういう中で、彼女のアイデアというのは、いかに省エネで高効率で、しかも影も生まないような、浮遊するような体験がハッピーに感じられるあかり環境、そういうものをつくりたいということでありました。これに対して中島さんや石田さんや皆さんが答えてくださっているわけですけれども、ではまず村角さんからいきましょうか。あなたのプロポーザルはかなり具体的ですので。


村角
 乾さんのは、宙に浮いたような一つの光源だけで成立させている、すごくミニマムでかっこいいプランだと思ったんですけれども、一つの光源だけであれば、当然一つのシーンしか生まれない。しかし、様々なシーンをつくることで、幾つかの可能性みたいなものを見せられると楽しいかなと思って、考えてみました。


 一つの光源だけで成立させようとすると、例えばハロゲンみたいな、しかも裸電球タイプのもの。超小型で輝度が高いもの、ものすごく小粒なんだけどパワフルというよな、そういうものでこの空間がきれいに発光してくれるかなというイメージが、まずありました。 それだと、照度がきちんととれるし、ハロゲンなので住宅らしい、温かみがある色温度も成立できるし。そういうことで一つ、ペンダント案というのを考えました。


 このときの印象というのは、日常的なものだと思います。しかし、上からペンダントみたいな点光源がぶら下がってくると、当然、家具などの影が出てきてしまうので、浮遊感というのは、実はそこまで出ないのではないかという疑問を感じたんです。


 そこで、このテーブルが発光すれば、一番浮遊感があるかもしれないと考えて、シーンをプラスしました。このときは、例えば色温度が5000ケルビンぐらいに上がってしまって、住宅らしくない、何かものすごく非日常的なシーンで浮遊感が楽しめるなどのイメージがありました。


 最後にもう一つ提案しているのが、キャンドルをテーブルの上に置いておくというシーン。おそらく、本当のキャンドルだと難しいと思うんですけれども、例えば、また点光源のような、白熱ランプで表現するのでもいいと思います。微量な光なんですが、それで一体どこまでその光が届くかというような、何かそういう展開で考えてみるのはどうかと。意外とこのキャンドル案が、一番非日常的な、テーブル発光よりも不思議なシーンのように感じられるのではないかと思っています。


 でも、あくまでも光源は1種類にこだわりたいという乾さんの気持ちがあるとしたら、何か一つをとって、それをやわらかく調光するとか、そういうことでも、幾つかのシーンをつくることができるような可能性を秘めた空間になれば、またおもしろいのではないかと考えました。


 乾さんのスケッチにも、ミラーのようなものを壁に張りつけて反射率を高めるとか、反射シートをつけるとか、何かそのようなことが書かれていましたが、昔、私がインドにいたときに見たものなんですが、ものすごく広い寺院みたいな建物の一室に、ミラーが張りめぐらされている空間があって、自然光が入ってくるだけなんですけど、すごくきれいだったんですよ。キラキラしていて。神様が見えるような、そういう雰囲気があったんです。乾さんの案も、そんな雰囲気になるんじゃないかとも思いました。


真壁
 これもやはり、建築家が抱く「くらしとあかり」の中の一つのミニマリズムというのかな。要するに、できるだけ要素を集約して快適にしたいという、そのための手法でしょうね。石田さん、これについてどのように考えられましたか。


石田
 実を言うと、これも照明デザインが要らないんじゃないかなと思いました(笑)。どうやって答えようかというのをすごく悩んでしまいまして。おそらく、技術的なところでは実現可能だと思うんですよ。


 僕がイメージしたのは、すごくぬるっとした感じの真っ白な空間で、影が一つもないというような、そんな夢の中に出てくる空間です。それを現実とするためには、あえて真ん中の光をすごく明るいものにしてしまえば、影がわからなくなる。いわゆる輝度バランスですね。光は相対論なので。いわゆる反射率がいい空間の中で一番明るいものを見せられてしまうと、影と影じゃない部分の境界線がすごくぼけて、見えなくなってしまったりする。だから、そんな技術的なことばかり考えて、デザイン性がまったくないななんて思っていたものですから、先ほど村角さんがおっしゃっていた、光源が幾つかあったり、調光だったりというのは、ああ、なるほどなと思いました。すみません、そういう意味で僕はまだイメージが貧困でしたね。


真壁
 今日は乾さんが欠席されているけれども、これもやはり、さっきの井上さん同様、やりとりをしていく中で、照明家が要らないどころの話ではなくて、まさに重要になってくると思いますね。伊藤さんはどうですか。


伊藤
 私は、これをそのまま3DのCGでやってみたんですよ。壁、床、天井すべてに反射板として凹面鏡をつけ、乾さんのやっているように、中心に1灯、ランプを置いたんですね。その結果、こういうふうになりました。


イメージ

 私は、中心に1灯ではあまり快適ではないかもしれないなと思っていて、実際は凹面鏡の中に幾つかの光源をちりばめていったほうが、もっとナチュラルな感じになっておもしろいのではないかと思っています。


 それは、例えばLEDの小さなものが、本当に砂粒ぐらいに埋まっているような感じなんですけれども。そういうものとその凹面鏡を組み合わせると、少し不思議な空間ができ上がるかもしれないと思っています。


 私は昔、音響関係のデザインをやっていたんですけれども、無響音室によく入っていたんですね。本当に、無響音室に入ると方向感覚がなくなってしまう不思議な体験をするんですけれども、光で何か似たような雰囲気が味わえるのではないかと思って、ぜひそういうものをつくってみたらどうかと思っています。