■棚瀬純孝■


パネル

棚瀬
 建築家の棚瀬です。プロポーザルを説明します。実際のところ、この案は、自分の生活から考えているんです。うちがワンルームでして、僕が大体2時3時に帰ってくると、子供はもう寝ています。でも、うちには仕切りがないので、電気もつけられない状況なんです。自分のところを照らしても、やはりどうしても隣も明るくなってしまって、子供を起こしてしまうからあまりよくない。ワンルームなんだけれど、向こう側に影響しない光があればいいなというのが、自分の考えの始まりです。


 それをもう少し考えていって、例えば、台所には白熱灯を使うとか、いろいろあると思いますけど、そういう意味ではなく、どちらかというと全体は明るいんだけれど、向こう側との間に何か暗い部分があって、向こうの光というのはこちらに関係なくて、こちらから見ると向こうが普通に見えている。何かそういう、つながって見えているんだけれど関係なく見られるような、少し変わった仕切りがあるといいなと思って描いています。


 一番初めに、照明デザインしなくていいという話から始まったので(笑)。そういうことについて照明家の方から話を聞けると、何かできるんじゃないかなというのと、照明デザインしなくていいと思った時点で、本当にもうあかりというのを超えて、虹とか、かげろうとか、どちらかというとそういうほうに頭が飛んでしまって、そういうものを生活に持ち込んで、うまいぐあいに何かできたらおもしろいんじゃないかなというのが、僕のプロポーザルです。


真壁
 結構どのプロポーザルも手ごわくて、どうなっていくのかと思うのですが、今日は照明家の中島さんが欠席なので、伊藤さんから中島さんのコメントについて棚瀬さんに説明してあげてくださいますか。


イメージ

伊藤
 中島さんから直接いろいろ説明を聞いたわけではないので、どこまでお伝えできるかわかりませんが、この絵にもありますが、中島さんの案というのは、基本的には暗順応という、人の目が光に対して徐々に順応していくという、そういう性質を使って、非常に部分的に光が存在するということを表現されようとしていると思います。


 最初に明るい空間をつくっておく。具体的に照度まで書いてありますけれども(笑)、200ルクス。そして200ルクスから50ルクスに10秒から20秒で変化する。暗くしていくわけですね。これは比較的、順応させながら暗くしていくという意味だと思います。それで、その暗くした中にスタンド類を少しずつ発光させることで、自然に目をならしながら部分部分の光ったところを起き上がらせる。そして、局部照明が瞬時で消え、全般照明の50ルクスだけが残る。結構、細かいですね(笑)。


真壁
 5シーンありますからね。


伊藤
 シーンが5場面あるんですけれども、多分、このシーン3の「局部照明が瞬時で消え、全般照明の50ルクスだけが残る」というのは、ここである程度、暗さを認識させようということでしょうね。そしてシーン4に入るときに、「全般照明50ルクスに各スペースを拡散フィルター付スポットで、1ルクスから5ルクスで点灯」(笑)。中島さんの案はここがみそなんでしょうね。


真壁
 3シーンから4シーンのところ。


伊藤
 そうです。50ルクスで、ある程度暗さにならしておいて、その中にピンスポットでポンと照らすんですけれども、それは、そのときは全然見えない。このシーン5に移ったときに、この50ルクスが消えるんですね。非常に暗い中に、そのピンスポットの1ルクスから5ルクスという光がふわーっと浮かび上がってくる。そうすると、棚瀬さんの期待するイメージができ上がるんだろうということですね(笑)。


真壁
 これ、夜中の2時にやるわけね(笑)。


伊藤
 そういうプログラムですね。1ルクス、2ルクスってすごいですよね。非常にきめ細かい。そのあとはいろいろ、家族の集まる場所によってフィルターの色を変えて、それを特徴づけたらいいんじゃないかという、そういうご提案ですね。私なりの解釈ですが。


真壁
 でも、すごくおもしろいと思ったのは、微調光というのかな。要するに、これは今の調光よりもっとデリケートなプログラムでしょう。しかも、明るかったものを瞬時に暗転させたりね。こういう技というのは、可能なのでしょうか。


石田
 これ、見てみたいですね(笑)。


真壁
 これもかなり実験の余地がありますね。あと、石田さんの基本的なアイデアというのはどうでしょうか。手ごわい棚瀬案に対して。


石田
 そうですね、基本的にイメージしたのは舞台です。いわゆるピンスポットですね。ポイントポイントで光が落ちていて、中が途切れているような、そんなイメージになるのかなと思いました。ただ、それを生活の中にまともに落とし込むと、あまりにも味気のないものになってしまうだろうとも思いました。


 そうすると、タスク照明。一般的によくタスクアンドアンビエントという表現をするんですけれども、いわゆる作業面というか、そこに人が行くところにはタスク照明が絶対あって。その周りをつくり込むのが今回の照明デザイナーの役割かなと思いました。


 周りをつくり込むには、食卓が明るいときにほかのところは暗くていいというわけではなく、そこをどうきれいに見せていくか。しかし、そこはおかずみたいなもので、さりげなく空間を表現するための光として、それをつくっていく形になると思います。


 例えばリビングだったら、人に合わせて光のボリュームも変わっていいと思います。1人で座っているときの光の範囲と、3〜4人で座るときの範囲。次に目的ですね。本を読むときの光の色と、お酒を飲むときの光の色も違っていい。ある意味、制御ですよね。そういう細かな制御が、細かな照明配置によってできたらおもしろいかなと思いました。


 そして、ここでの一番のポイントは、村角さんもコメントでおっしゃっていますけれども、やはり反射率ですよね。乱反射してしまうとすべてが終わりになってしまうので、反射率の低いものでつくっていくしかないと思います。


真壁
 床がかなりポイントになってくる。


石田
 そうですね。