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JISの輝度基準とは? JIS照度基準と並ぶ重要な基準を徹底解説

2023.5.10
JISの輝度基準とは? JIS照度基準と並ぶ重要な基準を徹底解説

オフィス空間などにおいて、照明は快適で安全な視覚環境をつくり出すという大きな役割を持っている。
そのためにはその空間の用途に適した明るさを確保することが必要だが、照明計画の上で適切な明るさとはどのように決められるのだろう。
今回は、そんな適切な明るさを保つための基準となるJISの屋内照明基準から、重要な要素のひとつである輝度基準に注目する。

輝度とは

オフィスのイメージ

そもそも「輝度」とは、光源や対象となる面をある方向から観測したときの単位見かけ面積あたりの光度を指しており、人の感じる明るさに対応すると言われている。

液晶画面などの面光源の明るさを数値化する際にもよく用いられるもので、観測する人が対象となる面を見たとき、その面によってどれだけ人の目に光が到達しているかを表している。

cd/㎡(カンデラ毎平方メートル)という単位で表すことができるが、これは観測する方向や光源もしくは光源からの光を受ける面の反射率など様々な要因から計算される数値である。

そのため計算が難しいと言われているが、照明計画の上で輝度は、人の視野内の各部位から目に到達する光を考えるための重要な指標のひとつと言える。

輝度と照度の違い

輝度と同じように光の量を数値化したもので、照明計画に用いられることが多いのが「照度」だ。

単位lx(ルクス)で表すことのできる照度は、光源から照射された光がある面にどれだけ到達しているかということを単位面積あたりで示している。

輝度は実際に対象物から人の目(対象点)に到達する光を表現しており、対象物に対して人の感じる明るさを検討するのに適している。それに対し、照度は対象面に面する全ての面から対象面に到達する光を表現しており、オフィス空間などの机上や床面など、対象面(対象点)に到達する光の量を検討するのに適しているという違いがある。

現在照明計画ではこの照度分布を用いることが一般的だが、輝度も考慮して照明計画を立てることで、より人の見た目に近い検討ができ、空間の明るさの確保などにつなげられるのだ。

輝度と照度の違いを詳しく見る

輝度に関する法規

オフィス空間の照明環境において、照度については労働安全衛生規則という法規で遵守しなければならない最低照度が明確に定められている。しかし、輝度についてはまだ明確な法規がない。

そのため、輝度を考慮した設計にはこれから解説するJISの屋内照明基準というものを参考にすることが推奨されている。

上にあげた照度の法規もあくまで定められているのは最低照度であり、実際に快適性や安全性を保持するには同様にJIS基準を参考にして設計するのが良いだろう。

照度の法規とJIS照度基準についてはこちら

JISの輝度基準

オフィスのイメージ

輝度には明確な法規がないことはご説明したが、日本産業規格(JIS)の屋内照明基準では現在、輝度についての記述がなされている。ここからは、そのJISの輝度基準について解説する。

JIS基準の改定

JISZ9125屋内照明基準は2023年1月に改定されたが、実は輝度に関する基準が追加されたのは、この改定からである。

それまで照明業界で輝度に関する記述がなされたものとしては2016年に発刊した建築学会の照明環境規準が初だが、これは建築学会が推奨する規準であるため、実際の快適性というよりも規範としての位置づけと言っていいだろう。

また2017年に照明学会が発刊したオフィス照明の設計ガイドでは、輝度という項目ではなく壁面照度と天井面照度の記述で反射率について言及しており、これは実質的な輝度の基準を定めたものだと言える。

それらの言及がある通り、以前から照度は必ずしも質的な照明環境を保証するものではなく、JIS照度基準のみに忠実なオフィス設計では明るすぎるといったことも起こり得るなど、実際に明るさを知覚する上で輝度が重要であるという認識は広がっていた。

ではなぜ今まで、実際の照明計画で重視されるJIS照明基準には記載がなかったのだろうか。それは、輝度の測定・シミュレーションが困難だったことに由来する。

輝度は見る方向によって数値が変わり、周辺との輝度対比や被照射面の反射率でも数値が変化するため定量的に扱いにくいという課題があった。

しかし、近年では研究開発が進み、輝度カメラや3Dシミュレーションが登場したことで測定・予測が容易になったため、基準として数値化しやすくなり、今回の追加に至った。

JISの輝度基準における推奨輝度

照明計画において、輝度は高ければ良いというものではない。もちろん輝度や輝度対比が低すぎても、暗く単調な空間になり、快適性を損なってしまうが、高すぎると『グレア』と呼ばれる眩しさを引き起こす原因になってしまう(グレアの詳細については後述)。

視覚的な疲労や部屋を移動した際の一時的な視認性を考慮すると、部屋・部分ごとの対比も大きすぎても小さすぎてもいけないということもあり、空間内の輝度分布のバランスが非常に重要になる。

JIS基準では、暗さの不満を感じさせない最低限の明るさを考慮した輝度の推奨値が記載されている。

推奨される輝度

オフィスのイメージ

JIS輝度基準では、屋内空間の照明において、大きな面積比率となるため重要な壁面及び天井面の輝度の推奨値が設定されている。

推奨値は壁面と天井面それぞれの最小値となっており、それよりも高い輝度に設計することを推奨している値ということだ。

実際の数値としては、手元での作業を行う空間となる設計室・製図室や事務室で平均壁面輝度が30cd/㎡、平均天井面輝度が20cd/㎡、会議室・集会室で平均壁面輝度が15cd/㎡、平均天井面輝度が10cd/㎡となっている。

快適な設計を目指すのであれば、この数値を上回りつつ輝度分布のバランスの良い輝度設計を目指すのが良いだろう。

輝度のバランスを保つためには、輝度を決める要因のひとつである空間内のそれぞれの面の反射率も重要となる。

JIS基準にはその旨も記載されており、天井面は0.6〜0.9、壁面は0.3〜0.8など、推奨される反射率も定められているためこれらも参考にすると良い。

ちなみに輝度が設定されている部屋の用途からも分かるように、今回の輝度基準ではオフィス空間のみが対象となっている。

また、オフィス空間においては、上記の推奨輝度を満たしていて実質的な明るさが確保できている場合は、推奨照度を1段階下げても良いとされている。

例えば、設計室・製図室ではもともと推奨照度は750lxとされているが、推奨輝度である平均壁面輝度30cd/㎡、平均天井面輝度20cd/㎡を満たしていて作業の快適性に問題がなければ1段階下の500lxまで設計照度を下げても良いことになる。

推奨輝度を考慮したオフィス照明の設計は省エネにも効果的であり、推奨照度を1段階下げた場合、理論上は約33%もの消費エネルギー量を節約できる。

グレア

そんな輝度設計で考慮しなければならないのが『グレア』だ。 グレアとは、輝度が高すぎることや、部屋ごと・部分ごとの輝度対比が激しすぎることで引き起こされる眩しさのことを指す。

グレアには不快感を伴う『不快グレア』と視認性など能力の低下を伴う『減能グレア』があり、どちらも快適性・安全性を損なう原因となり得るため抑制することが必要となる。不快グレアではJIS基準に光源輝度や背景輝度などに基づいたUGR指標の制限値が設定されており、その評価にも輝度が用いられている。

グレアについてはオフィス空間だけでなく様々な用途の空間で統一された指標であるため、考慮して設計しよう。

回避の方法としてはまず、グレア源の遮光だ。

照明器具や窓などからの光を遮光・減光することによってグレアが低減するが、照明器具に関しては輝度に対する最小の遮光角が定められている。

減光のための基準値は輝度が1kcd/㎡以上20kcd/㎡未満の場合には10°、20kcd/㎡以上50kcd/㎡未満の場合には15°、50kcd/㎡以上500kcd/㎡未満の場合は20°、それ以上では30°とされており、光源が作業中視野に入る場合には、これらの遮光角を下回ってはならない(下図参照)。



最小遮光角図
「JIS Z9125:2023 屋内作業場の照明基準」より抜粋

グレアが発生しないように設計された照明器具も存在するので、そういったものを採用するのも良いだろう。

また、光幕反射及び反射グレアと呼ばれる、照射面から反射した光からのグレアを引き起こす可能性もある。

そのため、照明計画時は輝度が局所的に高まらないように器具の配置に注意を払うことや、被照射面の材質・表面仕上げの仕様などにも注意するのが重要だ。

輝度・グレアについてさらに詳しい説明はこちら!

JISの輝度基準のよくある質問

オフィスのイメージ

Q:JISの輝度基準は必ず守らなくてはいけませんか?

A:JIS(日本産業規格)は、日本における工業標準化の促進を目的に制定されている国家規格ですが、法律ではなく、遵守しなければならないものではありません。

あくまで快適性・安全性のために推奨される目安のため、参考として考えましょう。

Q:JISの輝度基準は、一般家庭や店舗の照明設計にも適用されますか?

A:現在のJISの輝度基準は、事務室や会議室などのいわゆるオフィス空間にのみ推奨輝度の最小値が設定されています。そのため、一般の家庭や店舗といったその他用途の空間において照明計画に適用する必要はありません。

しかし、不快グレアの基準はオフィス以外の空間に対しても細かく設定されているため、設計前に確認を行いましょう。

Q:オフィス空間の輝度基準を満たした場合、その空間すべての推奨照度を1段階下げてもいいですか?

A:JISZ9125では、輝度基準が設定されている空間(設計室・製図室・事務室・会議室・集会室)のみ、推奨照度を1段階下げてもいいとしています。

同じオフィスでも、休憩室など上記以外の空間は対象外ですのでお気を付けください。

Q:JISにはたくさん照明基準がありますが、どれを参照したらいいのでしょうか?

A:一般的に知られているものとして「JISZ9110」があります。JISZ9110は「JISZ9125屋内照明基準」「JISZ9126屋外照明基準」「JISZ9127スポーツ照明基準」など、様々な空間ごとの照度基準をまとめたものです。

JISはそれぞれの規格が単独で更新されることがあるため、JISZ9110が古い状態のまま運用されることを防ぐために2章の引用規格にて最新版を適応するという記述がされています。

現在の屋内の照明基準は「JISZ9125:2023」が最新となっていますので、屋内照明においてはこちらを参照することが基本となります。

※詳しく知りたい方は、JIS検索ページへ。※「JIS規格番号からJISを検索」部分の検索窓に「Z9125」と入力して検索してください。

Q:JISの照明基準で、輝度以外に記載されている要素はありますか?

A:JIS屋内照明基準が照明で要求するものには、上で輝度との違いを説明した「照度」や「不快グレア」はもちろん、他にも照度均斉度や光の指向性、演色性など様々な要素があります。

輝度をはじめ照度や不快グレア、照度均斉度、演色性については推奨となる数値が定められていますので参考にしましょう。

Q:輝度を計算するには、どうしたらいいのでしょうか?

A:輝度は、視点の方向や反射率などに影響されるため今までの2次元の照度分布では計算できません。

輝度を計算するための一番簡単な方法としては、3次元の照明シミュレーションソフトを使うといいでしょう。

まとめ

今回の記事では、改定されたJIS屋内照明基準にも記載されている輝度について、照度との違いや基準となる数値を交えてご紹介した。

実際に人が感じる明るさを考慮し、より快適性と安全性の高いオフィス空間をつくりあげるためには、照度だけでなく3Dのシミュレーターなどを活用して輝度を意識した設計にすることが重要だ。

また、SDGsの動きやエネルギー不足による省エネ志向が広がる現代では、照度を抑え消費エネルギー量を削減するためにも、輝度は役立つ指標となるだろう。

この記事を参考にJIS基準を参照しながら、ぜひ快適な照明計画につなげてみよう。

記事監修:原 直也(はら・なおや)

関西大学環境都市工学部建築学科 教授
建築空間における明るさやグレア、明視性など視環境に関する研究を行う。
照明学会において照明の環境基準に関連するJISを検討する委員会のメンバーであり、JISZ9125の改正に関わる委員会において輝度基準の策定にも関わった。

Writer
ヒカリイク編集部

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