事務局 
 それでは、鈴野さん、遊ぶのに忙しいですけれども、そろそろ始めさせていただいてよろしいですか。


 こんばんは。「くらしとあかり」シンポジウムへようこそお越しいただきました。「くらしとあかり」プロジェクトは、これから6回にわたってこうしたエキシビションを繰り返して参ります。その第1回として、トラフさんと村角さんのコラボレーションで始まりました。今日はそのシンポジウムということで、約90分間お話をいただこうと思っております。


 今日はあかりの状態はこのままで進みます。明るくなったり暗くなったりですが、これもまた一つ楽しんでいただければと考えております。


 それでは、プロデュースをしていただいております真壁さん、これから先はよろしくお願いいたします。


真壁 
 どうも今日はお越しいただきましてありがとうございます。このエキシビションは、2007年の8月1日に6名の建築家、6名の照明家からプロポーザルをいただき、そのキックオフが始まりました。そこで出てきたプランニングに対して、6組のユニットができて、今回はその第1回目、トラフさんと村角さん。6名の建築家、6名の照明家の中で最も若い才能にあふれて、熱心さにあふれる2人が、まず第1回目のエキシビションとして登場してきたわけですけれども、このエキシビションの大きな背景のコンセプトは二つあるんですね。

シンポジウム写真

 一つは、アースコンシャスなあかり。つまり、地球と身を添えて、環境を配慮したあかりのあり方です。単に省エネとか節電というようなプアな発想だけでない、あかりのあり方というものがあるのではないかと。


 それからもう一つは、いわゆる人と人がつながるための媒介としてのあかりという、人がつながるあかり。そういう二つのテーマをもとにエキシビションを展開していきたいと思っております。


 今日の第1回目は、アースコンシャスなあかりの中の非常に象徴的な場面なんですけれども、むしろあかりを使わないあかりといいますか、闇夜を取り上げて、闇夜を遊んでみようというようなところから、このエキシビションの第1回目がスタートを切れたことを僕は非常に象徴的だなと思っています。


 大変不都合な、具合の悪いエキシビションかもしれないですけれども、この「真っ黒けっけ」というのもなかなかいいものではなかろうか。少し話が古くなるんだけれども、「暗黒舞踏」というのがありましたが、「暗黒シンポ」というのが今日の場にふさわしいかなと思っています。


 これから大体8時までシンポジウムを展開するんですけれども、大きく3本仕立てといいましょうかね。まずここに至った発想というものを少し、トラフさんや村角さんに語っていただく。そして、その発想に基づいてどうこれをプランニングしてきたか。


 このテーブルの上や椅子の座面に貼ってあるのは、蓄光のシートというのですが、今回シンロイヒさんというメーカーさんに多大にお世話になりました。そのメーカーの方からも、そもそも蓄光というのはどういうものかという説明をしていただいたり、計画というものを真ん中に挟んで、最後にこうしたコラボレーションの行方というか展望について語り合って終わると。その後ちょっとドリンクサービスがありますので、懇談しつつ、私たちがここに至った経緯をスライドでお見せしたいと思っております。そんな流れです。


 では、最初にトラフさんから、このような発想のもとになったあたりの話をしていただけますか。


禿 
 トラフの禿(かむろ)と申します。よろしくお願いします。


 今回、「くらしとあかり」というテーマをいただいて、くらしの中でどこかワンシーンにフォーカスして、そこからあかりというものを提案できないかと考えたんですね。


シンポジウム写真

 夜、家に帰ってきた瞬間に、ドアをあけてすぐ電気をつけてしまうんですけれども、その電気をつけるまでの間に、もうワンイベントあってもいいんじゃないかなと思ったのが最初のきっかけで、帰ってきたときのテーブルの上がテラスから差し込んだ光で蓄光されていて、それが発光してテーブルの上に影ができている。


 朝、もしかしたら散らかして出ていったかもしれないんですけれども、その散らかしたままの状態が、家に帰ってきたら影となって浮かび上がってテーブルの上に見えるという、そういう少し遊びのような要素を帰宅の瞬間に持ち込めたらなと考えたのが最初の発想です。


 実際にはテーブルに蓄光シートを貼りまして、そこに今回の展示会では何秒間か光を当てて蓄光させ、それが発光している。影になっていたところは蓄光しないので、物をどかすと、そこがそのまま影になって残っているというか、影がそのまま転写されて残っているという、そういう反転を楽しんでいただけたらと思っています。


真壁 
 どうもありがとう。トラフさんがつかまえたアイデアというのは、自然光を含め、このあり余る光をエネルギーとして活用しようということですね。それと一番大事なのは、家に戻ったときの真っ暗な部屋の状態、その間合いといいましょうか、その寂しさというのを、無意識に、反射的にスイッチを入れてしまうのではなくて、少し遊ぼうというか考えてみる。アースコンシャスなあかりというのは、そういうあたりから考え出すということが非常に大事ではないかと私は思っています。


 村角さんは、トラフさんのこういうアイデアをどのように感じましたか。


村角 
 トラフさんの、瞬間をフレーミングしたようなワンシーンだけのことを考えるインスタレーションというのは、私の中では結構ショッキングで、「ああ、そんなにおもしろいセンセーショナルなことをテーマに持ってくるんだ」と思うと、非常にわくわくしたんですが、いつも照明計画の仕事をする中で、住宅設計もたくさんやってはいるんですけれども、やっぱり暮らしていく中での時間の移り変わりとか過ごしやすさとか、何かそういうことをいつも考えているので、なるほどなとも思いました。


 今回のシーンというのは、帰ってきてただいまと言った瞬間のその電気をつけるまでの数秒の間だけの話ですよね。その数秒が贅沢なシーンになっていたら、景色ができていたらというのは、本当に魅力的な発想だなと思いましたね。