村角
やはり、家というのはその住まい手の人のものじゃないですか。最終的には私たち設計者の家ではないから、そういうところで私たちの提案が全部受け入れられない世界だというのもあるし、クライアントが一番だったりするので、もっとこういうふうに住みたいという気持ちを強く持っている住まい手の人が増えてくれば、盛り上がってくると単純にいつも思うんですけれども。
真壁
それと家を頼む人のあかりに対する理解量というか、イマジネーションがまだまだ不足しているんだろうね。それは私たちも含めた責任も大きいでしょう。だから、そこをもう少し、ボキャブラリーも含めてアプローチできればいいなと思いますね。
僕が最近伺った話でおもしろいなというか感動したのは、私の先輩に益子義弘さんという建築家がおられるんだけれども、彼が中学時代に観たアメリカ映画で、自分の家に帰ってきたときに一つ一つ小さなスタンドとかライトを点々とつけて、ようやくボーッと家全体のあかりになったと。パチでバーッじゃないのね。あれがカッコいいと思ったと言うんですね。リビングのソファの脇にあるライトをつけたり、一つずつ灯をともしていくようなあかりのつけ方というかあり方に感動したという、それを見て建築家になろうと思ったと言われるのです。
禿
アクションというのが重要な役割を持っているというのをお聞きしてて思ったのですが、照明家の方が何かを提案されるときは、額縁に入っている絵のような状態でイメージされているのとは多分違うんだろうなと思いました。
あと何か体験的なレベルで、例えば家の外装に木を使って、木の仕上げですみたいな、そんなに極端に表立って出てくるようなレベルではないところで、すごく体感的に提案されていることが多々あると思うんですけれども、そういうレベルでおもしろいことができるといいなと思っています。
音なんかそうなんですね。単純なんですけれども、例えば、すごく開口の大きい四角い部屋があって、そこが全部吸音材で巻かれているんです。床も、硬質な床に硬い木製のテーブルがあって、受付みたいなところになっているんですけれども、音が全部反響せずにそこでこもるんです。すごく大きな開口でも、その外側にある廊下に音が漏れてこない。
それは実は詳細な面を見ないとわからないことですけれども、そういう感覚的なレベルで照明にとても期待したいところではありますね。
村角
アクションの話でいうと、今回はリアクションなのかなと思っていて、初め言っていた、昼間見られないシーンが見られたらというのは、この葉っぱのシーンなんですけれども、曇っている日はこういう葉っぱの影はすごく弱い。だけど、こういうはっきりした影も出るかもしれないし、風が強い日はもっとわさわさしているはずだからぶれた痕跡が残っているかもしれない、そういうところがすごくインタラクティブなあかりになるんじゃないかなというふうに考えたんです。
でも、結局それはやはりリアクションなんだというふうに思いました。インタラクティブなものというのは、もっとインプットしてようやく生まれてくるものだから、今回はリアクションを楽しむみたいなことかなと。
禿
そのリアクションというのを途中で説明していたんですけれども、光をためてためてだんだん消えていくという、何か自然の調光というか、そういうのをおもしろがれる要素はすごくありますね。
真壁
プロポーザルの時点では、あれは自然光による蓄光のみをイメージしていたんだけれども、潜在的に多分こういう遊ぶとか、手を加えるというプランも含んでたんでしょうね。それは今回のおもしろい発見じゃないかな。
禿
原理が単純だった分、突っ込む余地がすごくいっぱいあった。
真壁
もうだんだん時間がなくなってきたんですが、しかし、この蓄光力は驚異的だな。
北條
今回使用しているのは先ほど申しました1993年発見されたアルミン酸ストロンチウムのタイプで、本当にこの明るさで1時間から2時間ぐらいずっと頑張りますね。
真壁
今日はこのショールームの受付の脇にシンロイヒさんのいろいろな加工品のサンプルを置いてありますけれども、あれは今回と同じものですよね。
北條
帰りに見て頂きたいんですけれども、東京メトロの地下鉄で、非常時にどちらに逃げるんだ、ないしは非常のボタンはどこだという表示が、今回このテーブルに使っている素材であるアルミン酸ストロンチウムタイプのフィルムにマーキングされて、ほとんどの車両に貼られています。
真壁
これは大分お値段はよいものなんですか(笑)。
北條
ええ、そこそこという感じです。最後ということでマイクをお借りします。私どもは、ものづくり屋、素材屋としてやる方向としては、今これは色がグリーンなんですね。あと光の三原色は赤とブルーがあります。ブルーは大分いいところまでできています。今ちょっと問題なのが赤ですね。赤は相当難しい素材でして、これで赤の色ができれば、全部をまぜて究極の色、白ですね、太陽の光から出る5000から6000ケルビンのあの白の色というのをつくり上げたいと。素材屋としては、皆さんにできるだけ早く見て頂けるように頑張りますということで、よろしくお願いします。
真壁
どうもありがとうございます。
最後に何か一言ございますか。特に次の井上搖子さんたちにエールを送るような意味合いで、トラフさんから何か。
井上
エールを送ってください(笑)。
結構ここまで到達するにはいろいろ大変でしたか。覚悟しておかないといけないですね。
禿
今回シンロイヒさんのすごい協力があったというのが、僕らの場合は大きかったですね。あとは村角さんが幅を広げてくれたと思います。僕らは蓄光塗料と聞いても、紫外線のことなんか全然考えなかったですからね。
真壁
建築家というのはその程度だよね(笑)。
禿
紫外線が関わっているのが新鮮でした。
真壁
でも照明家の方は図式的にブラックライトだと、本当はそこで終わってしまう可能性もあったよね。
村角
終わってしまう可能性は大でした。
真壁
ところが、ヤバイなと思ったんだね。
村角
初めは、白熱ランプで生活感を出しつつ、実は内緒でブラックライトを同時にたこうと思っていたんです。
真壁
いかがわしいよね。
村角
いかがわしいでしょう。ブラックライトの光は可視光じゃないから、白熱ランプとか例えば蛍光灯とか、可視光系の光源と一緒にたいたら目立たないじゃないですか。「内緒でたいちゃおう」とか思っていて、そうしたらもっと発光しますから。
真壁
これはもっと発光するの。
村角
そうです。紫外線をためればためるだけ発光していくので。でも、やはり調べれば調べる程、暮らしに入ってこられないぞという気分は確実になってきましたね。
真壁
だから、いろいろな選択肢と決断があってここまで来られたというかね。次回はまた、すごく大変でしょうけれども。
井上
ターニングポイントが何回もあるんじゃないかと思いました。
真壁
ぜひ帰りに、井上搖子さんたちのプロポーザルパネルもご覧になって下さい。最終的にどのように変質していくか期待したいと思っております。
大体定刻の時間になったので終わりたいと思いますが、シンロイヒさんも含めて何か質問がありましたら何なりとおっしゃってください。この後ちょっと場を改めてみんなで懇談したいと思います。
鈴野
その前に、皆さんにも少し実際に遊んでもらいましょう。
真壁
そうしてもらいましょうかね。
事務局
どうもありがとうございました。今回、これだけの新しいおもしろい表情が出せてよかったなとつくづく思っております。
トラフの鈴野さん、禿さん、そして村角さん、プロデューサーの真壁さん、それから今後頑張っていただきます井上さん、伊藤さん、どうもありがとうございました。またシンロイヒの北條さん、本当にお世話になりました。どうもありがとうございました。(拍手)
-終了-