真壁 
 さて、ここで、僕らは基礎的なことがわかっていないので、シンロイヒさんの北條さんに蓄光シートについてお話いただきたいと思います。


北條 
 皆さん、こんばんは。こういった夜光塗料を製造していますシンロイヒという会社の北條と申します。


 今から私が説明させていただくことが興ざめにならないようにしたいと思うんですけれども、一言で言いますと、これは金属です。金属酸化物ですというところから始まります。この暗闇で光るというものは自然界にはもともとあって、皆さんもよくご存じの光ゴケですとか蛍を、相当古い時代から人間は見ていたんだと思うんですね。


 そういう生命体が光るというものを何とか自分たちで人工的につくれないかということで、科学者が出てきたんだと思うんですが、この夜光に関しておもしろい話があります。日本は世界の中でこの夜光に関してはすごく関わりの深い国で、西暦1000年中国の宋の時代に、宋の皇帝に日本の新潟地方か九州地方かわからないんですが、屏風を送っているんですね。


 それが不思議な屏風で、昼間はただの家と庭が描いてある屏風なんですけれども、夜になるとそこに牛が登場するという、これが文献で残っている一番古い夜光ではないかと言われています。いわゆる蓄光ですね。昼間の光を蓄えて、夜その蓄えたものが発光して牛の絵が出てくる。牛をすごく大事にしているので、大変喜ばれたそうです。後でこれを科学的に分析しますと、カキの殻と硫黄が偶然焼成されてできた物質ではないかと考えられているのですが、それを日本で初めてアートに取り入れて、真っ暗闇で光るものをつくったという歴史が残っています。


 ただ、今見て頂いています人工的につくったもの、これについてはそれから相当時間が経ちまして、1600年ごろに北イタリアのボローニャというところに、夜光石というのがあったのですが、錬金術で金をつくろう、金をつくろうと一生懸命やっていて、偶然に金をつくろうとした炉の中で黄色に光っているのが発見されたそうです。これにはかのゲーテもすばらしいということで飛んでいったらしく、自分も再現したという文献が残っているのですが、本当に微妙な光で、今見て頂いたようなこんな強い光ではなくて、本当にほのかな光だったと思います。


シンポジウム写真

 それからまた時代が経ちまして、1903年という夜光の歴史にとってはものすごく大きな年ですが、硫化亜鉛という金属酸化物が、太陽やろうそくなどのエネルギーを蓄えて、それを次第に放出して光を出す物質である、蓄光物質だということが発見されました。この辺から人類が、人工的に蓄える光をコントロールし始め、もっと明るく、それからもっと長く光らせたいという欲求が出てきました。


 この1903年は、キュリー夫人がいわゆる放射線のラジウムを発見した年ですが、硫化亜鉛にラジウムをくっつけてやりますと、これがエネルギーになって、一晩じゅうどころかずっと光りっ放しになったのです。そして1940年ごろの戦争、真っ黒な潜水艦の中でどうしても見なければいけない計器ですとか配管に塗ることで、私どものメーカーの初期段階は始まり、軍事用途で技術的にも相当発達して、明るく明るくなっていきました。


 ただ、そのときに使った放射能はやはり人間が被曝するということで、あまりいいものではない。どうしても使わなければいけない場合、腕時計や目覚し時計などは、頑丈にガラスで密閉すると放射能は出てきませんので、そういう形で大分長い間使われていました。

 

 ところが、やはり放射線に対しては拒絶反応がありますので、先ほどの1903年から90年経った1993年、日本のとある化学会社なんですが、アルミの粉、アルミン酸ストロンチウムという物質なんですが、それがエネルギーを蓄えて、強烈に光を出すことを発見しました。それが今センターテーブルにある品物です。


 だんだん減衰というか暗くなっていくんですけれども、6時間ぐらいたってもまだ光っているというような物質です。これによって夜光も、放射能ではない安全な光、それでエネルギーを蓄えて光るということで、いろいろなところに使えるのではないかと展開が変わっていきました。


 私どもは普段、この蓄光素材を何に使っているかというと、ビルの階段とか地下鉄の中とか、そういった非常時に光る光源という認識しかなかったんですけれども、今日、私もこういう使い方を目の当たりにして、「ああ、自分たちはこんなすごいものをつくってたんだ」という感激をものすごく覚えているところです。


 これだけおもしろいものなので、金属化合物だということでしらけないように、ザクッとその夜光の歴史を駆け足でご説明させていただきました。また何かこの後も追加で、わからないことがありましたらお答えしますので、聞いていただければと思います。どうもありがとうございます。